七話 戦争と道徳観
朝になり、目を覚ます。
今日は日曜日だ。ゆっくり眠っていたいところだが、影慈に相談したいことがあり、起きることにする。
(影慈、聞こえるか?)
(聞こえるよ、みっちゃん。どうしたの?)
影慈から、穏やかに返答がある。
(昨日に聞きそびれてたことがあってさ……。影慈はその……不良とか苦手だよな……?)
(ああ~。まあ、得意ではないね……結構酷い目にも遭ってたし。でもそれがどうしたの?)
(いや……昨日に頂川とチーム組むことにしただろ? それがもしかしたら、影慈にとって嫌なことだったんじゃないか……ってふと思ってさ……)
光葵はややぎこちなく尋ねる。
(ふふ……。みっちゃんって意外と細かいところ気にする性格だよね)
影慈は少し嬉しげに笑う。
(な、なんだよその言い方。俺はお前を心配して……)
気恥ずかしさもあり少し早口になる。
(大丈夫だよみっちゃん。気遣いありがとう。なんて言うのかな……頂川君からは邪悪な感じがしないんだよね。僕を酷い目に遭わせてた奴らからは邪悪さを感じてた。それがないから嫌だとかは思ってない。それに、今はみっちゃんと一緒だしね)
影慈は微笑む。
(影慈……。そうだな。俺達は一蓮托生、〝二心同体〟だもんな!)
(あはは。二心同体か。まさに今の僕達の状態だね。これからもよろしくね!)
◇◇◇
夕方の空手道場の時間までは、人の滅多に来ない空き地で魔法の修行をしていた。
途中でメフィから声掛けがある。
(追加で伝えたいことがある。今よいか?)
(大丈夫です)
影慈と同時に答える。
(昨日、頂川の舎弟が戦いに巻き込まれていただろう? そのことについてなんだが、ルール上〝代理戦争に無関係の者への危害〟を禁じる規定はないんだ。ただし、大量殺戮などマナバランスを大きく崩すことは禁じられている。そのような行動を取ると、失格となり契約していた人間は命を失うこととなる……)
(それって……全く無関係の人が巻き込まれる可能性もあるってことか……!?)
光葵はつい語気が強くなる。
(そうだ……。逆に言えば〝人間の道徳観〟で無関係の者が巻き込まれるかどうかが変わるだろう……)
(そんなことって……バロンスはマナバランスを取る役割なんだろ! それでいいのかよ!)
(私に言われても困る。今回のルールがそのようなものだから従うほかないだろう)
(そうかもしれないけどよ……)
全く無関係な人まで巻き込まれるなんて……。
いや、そもそも代理戦争に関係の無い人を巻き込まないように動くことが必要なのか。
◇◇◇
光葵は夕方の空手が始まる時間より、三十分早く道場に行った。理由はある事を伝えるためだ。
道着に着替えて師範のもとへ行く。
「押忍! 師範少しよろしいでしょうか?」
「押忍! 構わないよ。どうしたんだい?」
「実は、学校の行事の担当に当たっているのと、私的な事情で当分道場に来れそうにないんです。見通しが立てば連絡しますので、当面休ませて頂くことは可能ですか?」
「学生生活も大事だろうからね。分かった。親御さんに許可は取ってるのかい?」
「既に理由を伝えて了承はもらっています」
「では、当面休むということで承ろう」
――この決定をしたのは、今日メフィから無関係の者が巻き込まれる可能性を聞いたからだ。
影慈と話し合って、一度家に帰り両親に話した。
学校も休むべきかもしれないが、流石に親への説得も難しい。
ただ状況によっては、学校を休むことも考えないといけないだろう……。
◇◇◇
朝、若菜と一緒に学校へは行かなかった。これからも一緒に行くことは当分ない予定だ。
代理戦争に巻き込む可能性を少しでも減らしたいから……。
学校の授業を終え、夜に頂川と会う約束をしていたので、待ち合わせの公園で落ち合う。
「よう! 頂川。次期番長は決められたのか?」
光葵は手を上げて挨拶しながら質問する。
「おう! 決めれたぜ。でもみんな泣きやがるから大変だったぜ……」
頂川は少し涙ぐんでいる。
「それだけ慕われてるってことだろ。頂川のそういう所すごいと思う!」
素直な言葉が出る。
「よせよ。褒めても何も出ないぜ」
まんざらでもない反応だ。
「これからの動きなんだが、話してもいいか?」
光葵は少し真剣な口調で尋ねる。
「ああ、問題ないぜ。俺は作戦とか頭使うのは苦手だからな……ぜひ話してくれ」
「悪魔サイドの敵を見つけるのも大事だとは思うが、今は〝天使サイドの仲間〟を集める方がいいと思うんだ。数的有利が取れることはかなり大きいと思う」
「そうだな。この前も助けてもらいながら戦ったしな。やっぱり仲間は多い方がいいか」
「うん。できれば最低でも三人で戦えるようにしたい」
右手で三つ指を立てる動作も混ぜる。
「オーケー! じゃあ、仲間探しをしつつ、もし悪魔サイドだったら叩くって感じだな!」
「そうしよう! あと、できれば俺と頂川で一緒に行動できる時間を増やしたい。二人で戦える方が心強いしな。あと、魔法の修行も対人でできるし」
「なるほどな。それでいこう!」
「そういえば、固有魔法をお互いに言ってなかったな。俺は……」
そこでふと固有魔法が何なのか知らないことを思い出す。
「ごめん頂川、便所行ってきてもいいか?」
「え? おう、いいけど唐突だな」
頂川から少し焦った声で返答がある。
すまん、と言いつつトイレに走っていく。
(メフィさん! 聞こえますか?)
(聞こえているぞ。固有魔法について聞きたいのだよな?)
いつも通り冷静な声が聞こえる。
(そうです。まだ、やっぱり理解は難しいですか?)
(うむ……現段階では理解しがたいと思う。申し訳ないな……。時が来ればこちらから伝える。仲間には《回復魔法》だと伝えておくのが無難だろう)
メフィは悩みつつ答えている様子だ。
(分かりました。また教えてください)
一体どんな固有魔法なんだ……?
疑問は残ったが、理解しがたいと言われている以上、今は回復魔法が固有魔法だと言っておくことにしよう。
走って頂川のもとに戻る。
「悪い、待たせちまった」
「気にすんな。急に便所行きたくなることもあるだろ!」
頂川は明るく笑っている。
「話の続きなんだが、俺の固有魔法は《回復魔法》だ。頂川は?」
「俺は《雷魔法》だ。『鍛え上げられた基礎魔法』だって守護天使が言ってたぜ!」
「魔法も鍛えると強くなるんだな。よし! これからお互いの都合の合う時に修行しよう!」
「修行か! 好きな言葉だぜ。……そういや、今まさに戦ってる奴もいるかもしれないんだよな」
「そうだな。戦いが起こるのは正直いつになるか読めないからな……」