六十九話 最後の審判②
光葵達は厳粛な雰囲気もあり、一言も会話せず待ち続けた。
どのくらい時間が経ったかは分からない。いつの間にか、目の前にサキエルがいた。
「協議した結果、バロンスの選定が終わった……。結論としては日下部。君の守護天使のメフィを次期バロンスとすることが決まった」
「…………分かりました」光葵は急な決定に頭が追い付かずに返答する。
「あと君達の処遇だが、君達には『今生きている世界の一次元上の存在』となり『地球のマナ管理の補佐や、地球のマナバランスを整える務め』を担ってもらう」
「それってどういうことですか?」比賀が単純に疑問を口にする。
「まずは、今の天使族、悪魔族と地球との関係を説明した方が理解しやすいと思う。地球は天使族と悪魔族によって『管理』されている。正確には『地球のマナバランスを管理』している。語弊があるかもしれないが、人間界でいう火力発電などの管理を我々がしているようなイメージだ」
「ええっと……。つまり、人間でいう火力発電の『電気』ではなく、もっと大きな視点で見て『地球全体のマナ』の管理をしているってこと……ですか?」綾島が難しそうな顔で問う。
「大体はそれで合っている。マナの管理から、地球という『エネルギー生産装置』の管理、整備も行っている」
「……それはあなた達にとって何か良いことがあるのですか?」光葵は疑問をそのまま投げかける。
「もちろんある。人間にとって電気などのエネルギーが重要なように、我々にとっても『マナというエネルギー』は重要なものだ。マナの輪廻を阻害しない程度でマナは収集させてもらっている。ちなみに、電気エネルギーなども最小単位で見ればマナだがね」
「マナの輪廻を阻害しない程度って大丈夫なのですか? 地球のマナが無くなったり……」比賀がやや言葉に詰まりつつ問いかける。
「大丈夫だ。そうならないように、マナの管理をするのがバロンスだしな。それに、マナは『あらゆる物質、非物質に宿るエネルギー』のことだ。火力発電などのエネルギーはもちろん、人の〝肉体、心、魂〟から発生するものも含む。肉体を動かすことで発生するエネルギー、死んで肉体に残っているエネルギー。心から発生する感情もエネルギーだ。悲しいことなど負のエネルギーも、嬉しいことなど正のエネルギーもマナ単位で見たら同様にエネルギーでしかない。魂とは記憶、善性、悪性、その人らしさ、アイデンティティを確立するためのものだ。それらもマナ単位で見ればエネルギーとなる」
「……人間や動植物が活動する限り、マナは生産され続ける……。そして、そのバランスを管理するためにバロンスがいるってことか……」光葵は頭の中を整理し言葉にする。
「その理解で良い。そしてここからが本題だ。君達には地球のマナバランスを整える務めを担ってもらう。具体的には、日下部。君はバロンスの側近として『代行者』の役割を与える。代行者としてバロンスの手が回らない部分のフォローをしてもらう。そして、比賀、綾島、君達には『執行者』として、実際に地球のマナバランスを整える役割を与える。代行者も執行者も『超常的な力が与えられる』その力を使い我々と共に地球のマナバランスを取るのだ」
「そういう務めですか……。なるほど。……コレって拒否権はあるんですか……?」綾島がやや聞きづらそうに質問する。
「拒否権はある。無理強いはできないからな。だが、我々からすると正直望ましくはない」
「そうですよね……」綾島は少し迷った様子になった後「いえ、やります!」少し大きな声で返答する。
「そうか……。助かるよ」サキエルが淡々と答える。
「ちなみに『私のあるべき世界の思想に向かう行動』を取ってもよいのですか?」比賀が尋ねる。
「程度にもよるが、構わない。というのも、星の代理戦争を百年に一度しているのは、その時代の人間がどのような思想を持っているかを反映するためでもあるからだ。それに、生き残った『君達の思想』は今後の世界に一定反映される。つまり『世界を変える』ことになる」
「分かりました。そうだったのですね……」比賀は静かに覚悟を決めたようだ。
「そういえば、バロンスになれなかった守護天使はどうなるのですか?」光葵は気になった点を確認する。
「他の生き残りの守護天使は『バロンス補翼』の務めを担ってもらう。バロンスの補佐をする役割だ。綾島の守護天使ファヌエル、比賀のメルキセデクが担う」
「分かりました。あと一つ質問してもいいですか? 天使族と悪魔族は五〇〇年戦争をしていたと聞きました。それほどの何かが地球にはあるのですか?」
「うむ。地球はマナエネルギーに溢れている希少な星だ。生物は多く、かつ『人間族』というマナを多く生産する生物もいる。更に人間は短い期間で文明を大きく発展させた。これからもマナを多く生産することが見込まれる。だからこそ、天使族と悪魔族が管理権を巡り争うようになったのだがね……」
「……そうですか。『人間族』として聞いているので、色々思うところはありますけど、天使族と悪魔族と地球の関係は分かりました……」少しばかり複雑な心境だ。
「……人間にとっても悪くはないと思うぞ。人間には知覚できないことがこの世界にはたくさんある。天使と悪魔などがまさにそうだな。そして、もちろん他の種族も存在している。他の種族などの『外敵』からの侵略を守る役割も我々は担っている。今の地球が良い環境かは人間個人の感じ方次第だとは思う。だが、他の種族による管理の場合、状況が大幅に変わる可能性がある。良くも悪くもな……。あと、マナが正しく輪廻するように導く役割を我々が担っているのは良い効果を与えているとは思っている」
サキエルは裏表の無い、ただ真実を話しているような印象だ。
「……たしかに、あなた達が管理しているおかげで今までの地球の生活があるんですもんね。分かりました。色々質問してしまいすみません。ありがとうございます」光葵は素直に礼を述べる。
「構わない。我々としても管理をしている意味や意義を理解してもらっている方が良い。誰にでも代行者、執行者は務まるものではないからな……。他の者は質問などあるか?」
「私、気になってることがあって……。天使族と悪魔族の星の代理戦争はこれからも続くのですか? 仲良くマナを分け合って一緒に管理していくことは難しいですか?」綾島が尋ねる。
「そうだな。今は天使族と悪魔族は『停戦状態』というのが実情だ。停戦して戦争をしない代わりに人間に代理戦争をしてもらい、互いの消耗を大幅に減らして、互いが納得する形でバロンスを決めている。バロンスとなった種族はマナの収集率が増えたり、ルールを設ける上でも有利な立場になる。ただし、互いの合意が無いと決定には至らないがな。暗黙の了解として、バロンスサイドが有利な場面は多々ある」
「そうですか……。仲良くするのは難しそうですね……」綾島は悲しげな顔をする。
「とはいえ、天使族と悪魔族の関係は非常に悪いという訳ではない。代理戦争をするようになって、約三百年が経っている。少しずつだが互いに歩み寄っている。まあ私の所感ではあるがな……」
「そうなのですね。言われてみれば、戦争をしていた種族がすぐに仲良くするのは難しいかもですね……。詳しくありがとうございました」綾島は頭を下げる。
「うむ。他の者は質問などあるか?」サキエルはゆっくりと尋ねる。
「いえ、大丈夫です」三人は同様の返答をする。
これから一体どのような生き方になるのだろうか……。




