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星の代理戦争~Twin Survive~  作者: 一 弓爾
星の代理戦争 前編
6/72

六話 稲光を纏う番長

 翌日は土曜日だったため、午前中は部屋で影慈と今後のことについて話し合いをした。


(初日から戦うことになったな……今思えば結構怖かったわ)

 光葵は、素直な気持ちを吐露する。


(そうだよね……それに最初に戦うのが狼とは思わなかったし)

 影慈も共感してくれる。


(これからどうしようか。魔法の扱いはなんとなく分かったし。戦いにいくべきなのかな)


(うーん。それもありだけど、まずは〝仲間集め〟をした方が安全かもね。昨日は一対一だったからよかったけど、複数人相手となると勝てる見込みがグッと下がる気がする。)


(ああ。それはたしかにそうかもな。情報交換とかもできるだろうし。ひとまずは仲間になる天使サイドの参加者を探してみるか)



 ――影慈は昨日の戦いを経て、代理戦争の危険性を強く感じていた。自分のために命を投げ打ってくれた、みっちゃんをまた死なせてしまうかもしれない……。

 それだけは絶対にさせない。正直争いは苦手だ、でも君だけは必ず守る……! 戦う覚悟を心の奥底に深く刻み込む――。



 午後からは天使サイドの参加者を探すことに決める。

 人が多い所での戦闘は避けると予想されるため、人通りの少ない所からしらみ潰しに回る。


 目星をつけていた四ヶ所目の廃墟に着くと、何かが破壊されるような轟音が聞こえてきた。急いで音の発信源に走り込む。


 そこで見えた光景は奇妙なものだった。二十歳くらいの女が一人で不良十人を相手に圧倒しているのだ。


 途中で気づく。天使サイド、悪魔サイドの参加者がこの中に一人ずついるということに。


 女が気づいてこちらを振り返る。


 非常に派手な見た目だ。金髪にピンクメッシュの入ったロング。服装は肌の露出が多めでボディラインが強調され、胸が大きいのが一目で分かる。


「天使サイドか……ちょうどいい。二人まとめてヤッてやるよ」

 怪しくピンク色の瞳が光る。


 直後、〝天使サイドの男〟が叫ぶ。


「おいあんた! こいつはかなりヤバい。俺の舎弟達も巻き込んで魔法ぶっ放してくる。しかも威力がある!」


 短く刈り上げられた金髪。目つきが鋭い……そして傷だらけだ。おそらくこの不良グループのリーダーなのだろう。


 〝舎弟〟と呼ばれている不良達に目を遣ると、明らかに魔法に巻き込まれたような傷だらけだった。

 意識を失いかけている者もいる。


「今はとにかく協力してこの女を何とかするぞ! 俺は《回復魔法》が使える。この女の相手しばらくできるか?」


 光葵は切迫した言い方で叫ぶ。


「回復魔法……そいつぁ助かる。舎弟を頼む」


 金髪の男はよろよろと立ち上がる。

 既に相当攻撃を受けている様子だ。

 舎弟を守るため、魔法の防御をし続けていたのだろう。


「お話は終わり? じゃあ、続けるよ?」

 女が光葵に魔法を撃ち込んでくる。


 直線的に飛んでくる魔法だがスピードがとんでもなく速い。


 《身体強化魔法》を使いギリギリ躱す。


 後ろで鉄製のコンテナが爆音を立てて弾ける。


 その後、一時的に女を挟み撃ちする形で、金髪の男と攻撃を繰り出す。


 一瞬女の体勢が崩れた隙に、奥にいる舎弟の所へ駆け込む。


「俺が回復魔法を使うからお前らは動くなよ」

 光葵は舎弟達に短く伝える。


(みっちゃん。回復魔法を使いながら金髪君を支援するなら、僕の方が適任と思う。主人格交代しよう)

 影慈から提案がある。


 そうだな。〝主人格交代〟……! 意識が遠のく――瞳が琥珀色から陰のある黒に変わる。


「金髪君! 僕が回復しながらサポートで魔法を撃つから、頑張って戦って!」

 影慈は叫ぶ。


「おう! 恩に着る」

 金髪の男は、稲光を迸らせ女と戦っている。


 女は距離を詰められないように、強力な魔法を足元に撃ち込み爆風で金髪の男を吹き飛ばす。


「《火炎魔法――炎の弾丸(ファイアバレット)》!」

 影慈は金髪の男が追撃されないように、炎で創出した弾丸を手から女へ放つ。


 しかし、女はプロテクト魔法で相殺する。


 ……回復しながらだと威力もあまり出ないな。でも、金髪君の攻撃の隙くらいは作れるはずだ。

 それに回復が終われば戦いに加われる……!


 金髪の男は《雷魔法》を使い攻撃を繰り返す。

 だが、相手の強力な魔法での牽制がありなかなか距離を詰められないようだ。


「キャハハハ! あたしの《貫通魔法》の前じゃこんなものよね。あ……あんまり魔法はバラさない方がいいんだっけ? まあ、両方殺すし一緒か」


 女は余裕そうな笑みを浮かべる。


「クソが! 間合いが詰めれねぇ」

 金髪の男はゼェゼェと息を切らす。


 女の方が火力は上だ……。とにかく攻め切られないように支援をしよう。影慈がそう思った直後、貫通魔法がこちらに二連で飛んでくる。


 まずい……回復魔法にマナを集中させながらのプロテクト展開では舎弟の人達まで守れない……!


 轟音が鳴り響く。思わず目を閉じる……。

 目を開けるとそこには金髪の男が立っていた。


「大事な仲間これ以上傷つけさせねぇぞ……」


 雷魔法で貫通魔法を相殺している……代償に両手は血に染まっていた。


「キャハハ。本当に馬鹿ねあんた。そんな奴ら守るためにボロボロになって。もう動くのも難しいんじゃない?」


 顎を上げ、明らかに侮辱している。


「仲間のために命張ることに馬鹿も何もねぇよ……。俺が守りたいと思ってるから守るだけだ」

 その言葉には一点の曇りもないことが伝わってくる。


「あっそ、じゃあもうそろそろ死んで」

 無慈悲に貫通魔法の〝溜め〟が始まった。


(みっちゃん! 回復終わった! このままじゃ金髪君死んじゃう! 主人格交代してそれで――)


(影慈、みなまで言うな。分かってる……!)


 〝主人格交代〟瞳が琥珀色へ戻る――。


「金髪、ちょっと退いててくれ!」

 光葵はそう言いながら金髪の男の前に走り出る。


「《身体強化×プロテクトグローブ》……!」


 連続で飛んでくる貫通魔法を殴り軌道を逸らす。

 周りで爆音が聞こえ、土埃が舞う。


「はあ? あたしの貫通魔法を殴って躱したの……⁉」

 女の驚いた顔が見える。


「金髪、お前の覚悟よく伝わった……後は俺に任せろ」


「お、おう……いや待て俺も戦う。手はお釈迦だがまだ動けるぜ」


 金髪の男の目には戦う意志を感じる。


「はっ! それで勝ったつもり? まだマナもあるし……」


 女が話している途中で、光葵は一気に距離を詰める。


「ぶっ飛べ、クソ女」


 そのまま顔面に右ストレートを叩き込む。

 突進する勢いも乗せた一撃は女を入口付近まで飛ばした。


「痛っいわねぇ……!」

 怒りで顔が真っ赤になっている。


 数秒、沈黙が流れる。


「ちっ! 今回はこれでいいわ。でも最後に」


 女は貫通魔法を地面に向けて斜めに撃ち込んでくる。


 光葵は咄嗟にプロテクトを張り、不良達を守る――。


 守護センサーが女が五十メートル以上離れたことを知覚させる。


「ふう……」思わず声が出る。


「おいあんた! 舎弟を守ってくれてありがとな!」

 金髪の男に深々と頭を下げられる。


「いやいや、大丈夫だって! それより手を回復させよう」


 回復魔法で手を治している間に自己紹介し合う。


 その際に、頂川剛一いただきがわごういちという名前だと聞く。

 洲台西高校の二年生で番長をしているそうだ。


「いや~、でもあんた強いな。なんか武術とかしてんのか?」

 頂川は興味深げに質問する。


「空手を小さい頃からしてる」


「おお! 空手か! かっけぇな!」

 頂川は目を輝かせる。


「頂川は何かしてるのか?」


「いや、俺は昔から喧嘩ばっかしてただけで、武術とかは習ったことないんだ」


「それで、二年生で番長ってのもすごいな……」


「いやいや、頂上てっぺん目指してたらいつの間にかって感じだぜ」

 頂川は屈託なく笑う。


 手の治療も終わる。本題に入ろう。

 ただ、その前に巻き込まれた不良達が気にかかるな。


「頂川、お前の仲間達なんだが今回の騒動については……」


 話している途中で頂川が舎弟に言葉をかける。


「お前らすまん。今回のことは俺の不注意だった。信じれるか分からねぇが、俺は今魔法を使った代理戦争に参加している。だから一緒にいると危険な目に遭わせてしまう可能性があった。巻き込んじまって悪い!」


 頂川は頭を下げる。


「いえいえ、頂川さんのこと守れず逆に不甲斐ないっす。守ってくれてありがとうございました!」

 舎弟達が一斉に頭を下げる。


「お前ら……」

 頂川の目に涙が浮かぶ。


「俺達は頂川さんが今どんな状態なのか分からないです。でも、何か事情があるんですよね。今日あったことは誰にも言わないっす」


 噓偽りを感じさせない言葉がある。


「すまん。そうして欲しい。明後日学校に登校した時に改めて次期番長については決めるつもりだ。それ以降は次期番長を守ってやってくれ!」


 頂川が舎弟全員の目を見て伝える。


「もちろんです! 頂川さん今までありがとうございました!」

 再度、舎弟達が頭を下げる。


 そして頂川が光葵を見て口を開く。

「この後話できるか?」


 それに対して頷きで答える。


「お前ら今日はすまなかった。この人と話すことがあるから先に帰ってもらってもいいか?」


「分かりました!」

 舎弟達は出ていく。


「悪いな。待たせちまった。少し話したくてな……」

 頂川は軽く頭を下げる。


「俺も話したかったからちょうどいいよ」

 光葵は気にしないでくれと、手を軽く振る。


「なんで俺が戦ってる所に来てくれたんだ? 急に襲われたから、色々驚いててな……」


「実は頂川が戦ってる所にちょうど遭遇したのは、仲間になれそうな天使サイドの参加者を探してたからなんだ。そこで提案なんだが、もし頂川がよければチームを組まないか?」


「お! それ名案だな! 俺も一人で戦い続けるのは流石に厳しいと思ってたんだ」


「よかった! ……一応聞くんだが、守護天使から守護センサーの説明はあったか?」


「守護センサー? ああ~そんなこと言ってたな。あんま覚えてないけど」

 頂川は豪快に笑う。


 おいおい……こいつと組むの大丈夫か……途端に不安になってきた……。


 その後、大体の星の代理戦争のルールを伝え直し、連絡先を交換し別れた。



(影慈……大丈夫そうかな?)


(う~ん、でもすごく良い人みたいだったし大丈夫じゃないかな、多分……)

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