五十八話 漢の決断 告白
その頃、光葵は頂川と合流していた。
「頂川大丈夫か? 侍がすごい速さでこっちに来なかったか?」光葵は焦りながら尋ねる。
「来たぜ。でも大丈夫だ。それと一つ頼みがあるんだ。あの侍は何とか説得して『降伏』させるようにして欲しい」血まみれの頂川は明るく話す。
「え? なんで?」光葵は素直に疑問を返す。
「ああ~。嬢ちゃんと漢の約束したからな。嬢ちゃんは説得して降伏してもらった」
「え……? あの少女を……? 凄すぎるだろ、頂川……」光葵は思わず、驚いた顔のまま言葉にする。
「ハハ、まあな。命は大事にしなきゃな……」頂川は物憂げな表情をする。
次の瞬間、頂川が切羽詰まった表情に変わる。「危ねぇ!」
店の看板の陰から〝至王の分身〟が《刻印雷火》を放つ。頂川は《拳打雷貫》で防ぐもダメージはかなりのものだ……。
至王の分身はマナを使い切りその場で霧散する。
すぐ後に綾島の叫び声が聞こえてくる。
「頂川! 大丈夫か⁉ それに今の叫び声……」光葵は急な事態に慌てて早口で話す。
「俺は……大丈夫だ。んなことより、綾島さんの声が聞こえた。多分ヤベェ状況なんだろ……!」
「いや、でもお前怪我が……」光葵の声を遮るように頂川は話す。
「日下部……。今は一秒でも惜しい」ギラつく頂川の目は語る。仲間の命がかかってる、俺のことは気にするなと……。
「分かった、行こう!」光葵は命を削り出力を上げた《高速移動》で綾島達のもとへ向かう。
光葵と頂川は目の前に広がる光景に反射的に身体が動く。
至王は分身も含め十人いた。
まず光葵は高速で《氷黒壁》にて綾島、朱音を覆い隠す。
頂川はその間に片っ端から至王の分身を消して回る。
しかし、光葵も頂川もマナを相当消耗しており、かつ怪我が酷い状態であり、共に身体中から血飛沫を撒き散らしている。
特に頂川は出血が酷く、時折ふらつきながら戦う……。
「フハハ。死に損ない共が! まとめて殺してやる……!」至王は殺意を身体中から発する。
頂川と一緒に分身の一人を消した際に頂川から話がある。
「日下部、このままじゃ全滅だ……。俺はお前と組めて一ミリも後悔してねぇ。みんなを頼む。あと絶対負けんなよ……!」そう言い《覚醒の霆》《疾風迅雷》を限界を超える出力に上げたようだ。口からは血反吐の塊が出る。
「何言ってんだ。頂川お前……」
光葵が話しかけた時、既に頂川は至王に向かい、稲光の如きスピードで迫っていた。おそらく、覚醒の霆で本体と分身の違いが分かるのだろう。
「これ以上、仲間傷つけんじゃねぇ!」頂川は一瞬にして至王の前まで移動する。
「速いな……。だが反応できない程ではない……。《合成魔法》《刻印魔法×雷火砲――刻印雷火》……!」
至王の《刻印雷火》と頂川の《拳打雷貫》がぶつかる……。頂川の右手は刻印雷火を相殺するも消し飛んでしまう……。
「終わりだな……」至王は呟く。
「なめんな……! 連続では撃てねぇだろ? 《合成魔法》《雷魔法×貫通魔法――雷神鎚》……」頂川の左手に《雷神鎚》が創生される。
「最期の一撃だ。よく味わえ……!」頂川は至王を雷神鎚で殴り飛ばす。
至王は立て看板三つをぶち抜き、電柱にぶつかり骨の軋む音と共に口から血を吐き出す。次の瞬間、至王の分身達は消えていく……。
そして、頂川の身体も形を維持できない程マナを使い、パラパラと灰のようになり消えていく……。
「頂川……! そんな……なんで……こうなるんだよ……」光葵は力無く膝をつく……。
刹那、頂川の声が頭に響く「俺はお前と組めて一ミリも後悔してねぇ。みんなを頼む」――そうだよな……。お前の命と覚悟、絶対無駄にはしない……!
至王を見ると、立ち上がってはいるが、ふらつきながら逃走していた。
「これ以上は俺も戦闘不可だ……。それより今は綾島さんと朱音だ……!」氷黒壁を解除し、二人のもとへ向かう。
そこで光葵は頭によぎってはいたものの、見たくなかった光景を見ることになった。
「日下部君、朱音ちゃんが……回復魔法使ってるんだけど、もう……」綾島は涙を流す。
もう止めてくれ……。これ以上俺から奪わないでくれ……。光葵は泣き崩れる。
「うっ……朱音……。お前まで……。俺は何も守れない…………」
「光葵……。私は……多分もうダメ……。昔から……そういう優しいとこ……ずっと大好き……だった……」だんだんと朱音の命が消えていくのを感じる……。
「朱音……。朱音ちゃん……。必ず救う……『俺達』が……」
成功するかは分からない。それでも少しでも可能性があるなら……。「《理の反転》……」黄金色に光る右手で朱音の頬に触れる。
「朱音……。頼む。神がいるかは分からない。でもこの一回きりでいい。奇跡を……」祈るように魔法を発動し続ける。マナが底を尽きそうだ……。俺の命を使ってもいい、頼む……。
――それから、どのくらい時間が経ったか分からない。
「…………光葵?」朱音の声が聞こえる。
「朱音……よかった。本当によかった!」光葵は思わず抱きつく。
「ええっ! ちょっと光葵!」朱音が焦って声を上げる。
光葵に続くように綾島も抱きつく。
「朱音ちゃん……。よかった。私……本当に……」綾島は更に涙を流す。
「二人共……。ありがと。正直、死んじゃうって思った」朱音は二人を抱きしめ返す……。
朱音はふと驚いたように声を出す。「私、魔法が使えなくなってるみたい……」
「な……そうなのか……。今使った《理の反転》は未完成なんだ。その影響かもしれない。ごめん、折角朱雀様に選ばれてたのに……」光葵は頭を下げて謝る。
「いいよいいよ。朱雀様の存在もうっすら感じるし。それに命救ってもらったんだしさ!」
「……でも申し訳ない。俺の戦争に巻き込んだんだ」話してる途中で朱音が話し出す。
「もう! その話は私が協力するって決めた時に済んだことじゃん! 私自身後悔してないし。だからこの話は終わり! でもここから先は魔法使えないし、協力できないね……」
「うん……。むしろ今までありがとな。……あと、さっきの返事だけど……。ごめん答えるなら今しかないかと思って……」光葵はつい顔が赤くなる。
「えっ? あ、さっきの! あれはその……死ぬくらいなら言っとこうと思って……!」朱音は顔を赤らめ視線を落とす。
「……朱音の気持ちすごく嬉しい。ありがとう……。……でも今は命懸けの戦いをしてる。それに勝ち残っても普通の生き方はできないと思うんだ……。だから、その……嬉しいんだけどごめん……」光葵は言葉で言い表せない想いになる……。
「……ううん。いいよ。光葵ならそう言いそうって思ったし! 気を遣わせてごめんね!」
「そんなことは……。いや、朱音。改めてありがとな。本当に助かったよ!」
「ふふ。いいよ。困ったことがあったら言って。力になれるなら協力するし!」朱音は微笑む。




