五十六話 侍の願い
同時刻、美鈴の守護センサーの反応が消えた。
「お前ら……。これ以上俺から大切な者を奪うか……!」志之崎は咆哮を上げ、右脇腹に突き刺さったグングニルを強引に引き抜く……。地面の血溜まりが倍以上に広がる。
そして、目の前に広がるもの全てを破壊し尽くす勢いで、《風魔刀――駆天乱斬》を放つ。
「マナ出力が桁違いだ。死ぬ気か……」そう思わせる程のマナ出力の魔法が光葵に襲い掛かる。《想像的生成、擬似聖盾アイギス》を使うも、強烈な勢いで斬撃と共に吹き飛ばされる……。
志之崎はそのまま、頂川の方に向かう。まずい……!
◇◇◇
「金髪! 美鈴を返せ!」志之崎は鬼の形相で神風の如き速さで斬りかかる。
「それだけ大切に想われてるなら安心だぜ……」頂川は斬撃を全て躱し、姿を消した……。
「消えた……? いや、美鈴が無事ならいい……」志之崎は美鈴を抱えて美鈴家へ向かう。
◇◇◇
美鈴家にて。
「アンナさん……。申し訳ない。俺が弱いばかりに美鈴を護れなかった……」志之崎は頭を下げる。
「シノさん……! すごい怪我ですよ。早く手当を……!」アンナは驚きの声を上げる。
「コレはいいんだ。伝えたいことがある。聞いてくれ。美鈴はここ三ヶ月の記憶がなくなっている。詳細は言えないが色々と事情があってな……。頼みが一つある」アンナの目を真っ直ぐ見つめる。
「……何でしょうか?」アンナは素直に応じてくれる。
「美鈴に生きる大切さや楽しさを伝えてあげてほしい。この子は両親が死んでしまい、孤独を感じることもあるだろう。それでも、アンナさんがいれば……愛してくれれば真っ直ぐいい子に育つと思う。今までお世話になりっぱなしで、最後に頼み事をして申し訳ない。何卒お願いしたい」志之崎は再度深々と頭を下げる。
「頭を上げてくださいシノさん。分かりました。もちろん、そうするつもりです!」
「そうか……。よかった……」志之崎はアンナの芯のある顔を見て、その場を立ち去る。幸せになってくれよ美鈴……。




