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星の代理戦争~Twin Survive~  作者: 一 弓爾
星の代理戦争 後編

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五十一話 獣と狩人の饗宴

 時は十日後へと移る。

 とある人けが無い森の中に、大柄なスキンヘッドの男がいた。

「かなり《毒魔法》《召喚魔法》は使えるようになったな……。何人か参加者と戦ったが、倒しきれてはいない。ムカつく話だぜ」貫崎は木に寄りかかる。


 すると、守護センサーが反応する。相手は一人で見覚えのある男だ。ウエストバッグ、矢筒、弓を背負い武装している。


「よお、貫崎……! お前にリベンジすることが楽しみで鍛え続けてきたぜ……」


「伊欲だったな……。俺にボコられたのに懲りずに来たか……」貫崎は少しばかり心が躍っているのを感じる。


「クハハ。いつの話してんだ? 強い奴が勝つ。それだけだろ?」伊欲はスリングを持つ。


「フンッ! 来いよ! 白黒はっきりさせようぜ……。《召喚魔法――ケルベロス》……!」

 三首で四メートルはある巨大な漆黒の番犬が魔法陣から出現する。口には凶暴な牙が見える。そして三首それぞれ〝属性が違う〟。口から、炎を出している首もあれば、闇を出しているもの、毒を出しているものがいる。


「お前らしい『獣』だな。さながら俺は狩人か……!」伊欲の瞳に獲物を狩る鋭い光が奔る。


「ヤルかヤラれるかの殺し合いしようぜ……」貫崎がケルベロスと共に突っ込む。

 まず、ケルベロスの三属性のブレスが伊欲を襲う。


 伊欲はそれを《風魔法――風纏+高速移動》にて超高速で躱す。

 移動先に先回りした貫崎が獣の如き低い姿勢からの攻撃を仕掛ける。


「相変わらず、速いな……」伊欲はスリングの高速投擲をする。


「当たるかよ、んなノロい攻撃……!」貫崎は反射神経で投擲を躱す。


「今のは布石だぜ」そう言い、伊欲はもう片方の手に持っている五つの魔石を振り撒く。炸裂した魔石が貫崎を包む……。


 しかし、爆撃が〝紫の掻き痕〟でかき消されていく……。

「《毒魔法――毒爪ヴェノムクロー》……」貫崎は静かに呟き、両腕から発生させた獣のような毒の爪で爆撃を溶かしつつそのまま伊欲へ突っ込む。


「クハハ! やっぱお前いいな……! その魔法更に欲しくなったぜ……!」伊欲はスリングでの攻撃は止め、近接戦の態勢に変える。


 貫崎は毒爪、《毒弾ヴェノムバレット》で息つく間もなく攻撃し続ける。

 対して伊欲は《魔石放射》《風魔法――風打かざうち》で風の塊を棍棒のように振り回しぶつけつつ、魔石放射を放ち続ける。


 そこにケルベロスが凶悪な爪で伊欲へ鋭利な一撃を入れにくる。


「クハハ、邪魔すんなよ。ワンころ……! 《魔空砲まくうほう――七色ななしき》……!」

 両手を貫崎とケルベロス両方に向けて砲撃を放つ。風魔法の砲撃に魔石の〝火水雷土光闇〟の六属性が加わっている。


 凄まじい威力の砲撃は貫崎とケルベロスを吹き飛ばす。

「ガハッ……! やるな……」貫崎の獣のような瞳に歓喜の色が滲む。

 ケルベロスは十メートル程吹き飛び、大きな咆哮を上げる。


「獣二体相手にするのも愉しいが、勝てなきゃ意味ねぇからよ……」伊欲はマナ出力を上げ、高速移動で木が多い方へと身を隠す。


「待ちやがれ! 追え! ケルベロス!」貫崎がケルベロスに追うよう命令する。


 追いかける途中のケルベロスの上空から無数の矢が降り注ぐ。


「《魔石弓射――五月雨射ち(さみだれうち)》……耐えきれるか?」伊欲は静かに呟く。


 ケルベロスは矢数が多くかつ、炸裂する広範囲の魔石爆撃を躱せなかった。身体中に矢が突き刺さり、魔石の炸裂で傷だらけになる……。だが、その瞳の闘志は消えていなかった……。


「弓の発射位置で、場所が丸分かりなんだよ。俺が殺す……!」貫崎は伊欲のもとへ駆ける。


「よう……獣。気を付けろよ。森の中には罠が色々あるぜ……」木の上から伊欲は声を出す。


「フンッ! 狩人気取りが……。罠なんざ俺には関係ねぇ。全部溶かしてお前を殺すだけだ……!」


 貫崎にはプロとしてテニスを続けたことで獲得した〝圧倒的な野生の勘〟がある。その勘をフルに使い〝魔石の罠〟を避けながら伊欲へ狩猟豹チーターの如き速さで迫っていく。


「おいおい……折角用意した罠躱しながら来るかよ。まあ、その分狙いやすいがな……」伊欲は弓を引き絞る。《魔石弓射》で幾度となく貫崎の急所へ弓を射る。


 貫崎は射られる矢、罠を躱し、適時毒で跡形もなく溶かしきり突き進む。


「クハハ。いいねぇ……」

 伊欲が気づいているかは不明だが、伊欲の後方からケルベロスが来ている。


「狩人気取り、もう少しだ……。ぶち殺してやるよ……!」貫崎の飢えた獣の瞳は凶暴な光を宿す。


「……決めたぜ。『こいつ』はお前に使う……。《魔石魔法――特大魔石ボム》……」

 伊欲はウエストバッグから、直径十五センチメートル程の巨大な魔石を取り出し、風魔法も使い両手で貫崎目掛けて投擲する。

 既に形が崩れ始めている巨大魔石は貫崎の手前で大炸裂する――。


 直後、伊欲は特大魔石ボムの爆風を受けながら、俊敏にケルベロスの足元へ滑り込む。そして腹に向けて《魔石放射――七色》を放つ。ケルベロスは反応する間もなく、腹部に猛烈な一撃を受ける。

「グオオォォオ……!」ケルベロスは唸り、そのまま倒れ込む。


「獣狩り完了だ。相当な時間使って準備した甲斐があったぜ。あとは止め刺すだけか……」伊欲は満足げに呟く。


「…………お前は勝手に人を死んだと思い過ぎだ……。《毒盾ヴェノムシールド》……」

 貫崎の構えている毒の大盾は、特大魔石ボムを防いだ。引き換えに大盾は崩壊寸前だが……。貫崎はそのまま大盾を脇に捨てる。草木が毒で溶かされる……。


「だが、お前程殺しがいがある奴はいねぇかもな……」貫崎は渇望した獲物を前に歓喜の目を向ける。


「クハハハハ! 同感だなぁ! 全力で殺してやるよ……!」


 伊欲は緑の魔石を三つ飲み込む。〝風属性〟が一気に強化されたようだ。《風纏》がより強化され周囲に風の刃を撒き散らす。


「フンッ! やることは似たようなもんだな……!」

 貫崎はガス状に変化させた毒を鼻と口から吸い込み、毒を以て身体能力を一気に引き上げる。


 ここまでくると、最早小細工などはなかった――。

 両者共に持ちうる魔法、力を相手にぶつける。


 伊欲は風纏で上がったスピードと、風の斬撃、魔石放射、魔石の炸裂で攻撃を繰り広げる。


 貫崎は毒爪、毒弾、毒霧爆散で応酬する。


 互いに己の傷など気にせず戦いが続く……。


 最終的に決定打になったのは、今まで使わずに温存していた貫崎の毒牙ヴェノムファングだった。

 伊欲の〝風纏の鎧〟を食い破り、直接貫崎の牙が伊欲の喉元に毒を打ち込む。


「ガッ……! ク……ハハハ。ヤラれたよ……。貫崎……お前の方が強い……」

 伊欲は首元から紫に変色していき、そのまま倒れる。


 やがて、守護センサーが知らせる。伊欲の死を……。

「……伊欲、お前も十分強かったぜ。全力出させてくれてありがとよ……」

 貫崎は血を吐き捨て呟く。

 そして、魔法奪取の選択を行う――選んだのは《風魔法》だ。貫崎は腰を下ろす――。



 数十秒後、守護センサーが反応する。

「今か……」貫崎は苦しげに笑みを浮かべる。


 目の前には、少女と侍がいた……。


「お前が戦っているのは分かっていた。その上で傷ついたお前を狙わせてもらう」志之崎はせめてもの礼儀といった口調で話しかける。


「ごめんね、坊主の人……」美鈴がどこか狂気じみた瞳で静かに言葉を発する。


「フンッ! 戦いにおいて傷ついた奴を狙うのは定石……。来いよ……!」

 貫崎の後ろから動けるようになったケルベロスがゆっくりと主を守るために前に出る。


「大きいワンちゃんは私が殺すよ……。シノさんはこの人をお願い……」美鈴が淡々と呟く。


「嬢ちゃん……。なめんなよ。『俺達』はまだ終わっちゃいないぜ……!」

 次の瞬間、ケルベロスは《インビジブルゴーレム》の一撃で粉砕された……。


「な……。手負いとはいえ、ケルベロスが一撃だと……?」貫崎から驚嘆の声が漏れ出る。


「……悪いが、お前の相手は俺だ」志之崎が日本刀を構え突っ込んでくる。


「来い……! 《合成魔法》《毒魔法×風魔法――毒刃ヴェノムエッジ》!」

 貫崎は毒を纏う風の刃で志之崎を全力攻撃する。


「《風魔刀――散らし風》……」志之崎は攻撃をいなし散らす剣技を放つ。隙を作り出した後、刀の一閃にて貫崎の首を刎ねた……。



 ――その後、志之崎は魔法奪取の選択を行う。とんだ巡り合わせだな……まさか、最初に戦った奴の魔法が選択肢にあるなんてな……。そう思いながら《風魔法》を選ぶ。


「シノさん、どの魔法を選んだの?」美鈴が顔を覗き込む。


「風魔法だ。今の時点でも風魔法は使えるが『基礎魔法』としてのサブ程度の出力だ。奴らに報復するにはもっと力が必要だと思ってな……。それより美鈴はよかったのか? 俺が坊主の男を倒してしまえば、美鈴は魔法を奪えないが……?」志之崎は静かな口調で尋ねる。


「いいの。美鈴ね。最近力が溢れてくる感じがするんだ。それに、シノさんと二人で生き残ろうと思ったら、シノさんに魔法は多く持ってて欲しい……」どこか大人びた口調で話す。


「……分かった。じゃあ、俺が美鈴を護ろう。そして二人で生き残ろう……」


「うん! ありがと、シノさん。一緒に生き残ろう!」美鈴はあどけない笑顔を向ける。


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― 新着の感想 ―
貫崎と伊欲の一騎打ちは圧巻の熱量で、まさに“獣と狩人”の名にふさわしい死闘でした。 戦いの果てにある静寂と、志之崎たちの追撃による絶望感の対比が見事です。
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