四十九話 侍達との死闘②
一方、カイザー、比賀は幸一郎と戦っていた。
「痛た……。すごい魔法の使い方するね……」首をポキポキと捻りつつ幸一郎が話す。
「あんたの魔法は厄介だったんでな。無理にでも引き離させてもらった」比賀が答える。
「比賀、我がワープ位置を特定し適時知らせる。共に討取るぞ」カイザーの魔眼が黒く光る。
「……今言うことじゃないかもしれんが、なぜ全員に対して呼び捨てなんだ? あんたいくつだ?」比賀がカイザーの方を一瞬見て、やや不機嫌に尋ねる。
「十四だが? 呼び捨てなのは昔からだ」カイザーは当たり前のように答える。
「私はあんたの倍は生きてる。年上だから敬えと言うつもりはないが、年が半分以下の奴に呼び捨てにされるのは、正直不愉快だ。あんたもガキと言われたら嫌だろう?」比賀は眉をひそめる。
「それはそうだが……。他の者はそのようなことは言ってないぞ」カイザーはやや焦りつつ返答する。
「ありゃりゃ。揉め事? 隙があるなら全然攻撃するよ? 《転移手品――カッティングトランプ、大鳩》」
ワープホールから複数の攻撃が比賀、カイザーを襲う。
「ちっ、まあいい。あんたが私を呼び捨てにする限り、私は『ガキ』と呼ぶ。いくぞガキ」
「なっ、無礼であろう! 比賀……さん。いや比賀!」結局呼び捨てのままだ。
《乱れ渦》でワープホールからの攻撃を乱し霧散させる。この技は強力だがマナ消費が大きい……。あまり連発はできないな。
「ガキ、魔眼での攻撃は『近中遠距離』全てできるんだったな? 私は近距離の方が戦いやすい。合わせてもらえるか?」比賀は敵から目を逸らさず尋ねる。
「ガキではない……! だがそうだ。全距離にて戦える。比賀の戦い方に合わせる」
「可愛げのないガキだな。まあいい。いくぞ!」乱生魔法で攻撃を逸らしつつ距離を詰める。
「あはは。全く君達とは相性が悪い……」幸一郎はそう言い、片目を隠し自身がワープする。
「比賀、後ろだ。対応する。《魔眼散弾》!」黒いマナの弾丸が散弾銃の如く放たれる。
「おっと。先読みもか……。《空間転移――転移返し》」魔眼散弾がワープホールに吸い込まれ、カイザーの後ろから放出される。
「危ない!」比賀が乱生魔法でカイザーを引き寄せ、転移返しを躱す。
「すまない比賀……。しかし戦いづらいな……」カイザーが呟く。
「そうだな。奴自身もワープするから捉えづらい。『目に映る範囲』でしかワープができないという弱点を衝くのが得策だろうな。……ガキ、作戦がある。手短に言うぞ」――。
◇◇◇
その頃、光葵と朱音は戦いを有利に進めていた。
闇霧での《インビジブルゴーレム》の位置把握が致命的な攻撃を未然に防いでいたからだ。
「朱音、決定打は打ててないが、この調子でじりじり攻めるぞ。侍のスピードも少女の『見えない攻撃』も一撃が強力だからな」
「オーケー! 私もマナを使い過ぎないように注意しながら細かな攻撃を入れるよ」――。
◇◇◇
場面はカイザー、比賀に戻る。
カイザーのワープの先読みで、敵の攻撃はかなりの精度で躱せるようになっていた。しかし、幸一郎へ攻撃を入れることができていなかった……。
「やるねぇ。適応が早い。今度はこんな攻撃はどう? 《水製道具――ジャグリングボール》……!」幸一郎の両手の指にはめられた八つのボールが、ワープホールを通じ不規則に高速で飛んでくる。しかも、地面に当たった際にも跳ね返る仕様であり、予想外の位置からも攻撃が当たる。
「くっ、攻撃のパターンが多いな……。だが、狙っている場所までもう少しだ……。ガキ追い込むぞ……!」裂傷や打撲などの傷が増えている比賀が、強い口調で伝える。
「ああ……同時にいく! 《魔眼散弾》!」カイザーは幸一郎の周辺一帯に向けて魔眼散弾を放つ。
「《乱生魔法――乱し打ち》!」比賀は両手を使い、空間を鞭のようにしならせて打ち付ける。
「同時攻撃か……」幸一郎は魔眼散弾を転移返しでワープさせつつ、《乱し打ち》は打ち付けられた逆方向に素早く走り躱した。
――このタイミングを待ってたんだ……。比賀は心の中で呟く。
「《乱生魔法――乱し固め》!」
比賀の両手が拍手をするように中央に寄せられる。それに合わせ、幸一郎周辺にあったクレーンゲームやメダルゲームなどが幸一郎を押し潰すように四方八方から高速で集まる。
「まずい……! ワープじゃ間に合わない! 《水製道具――箱》……!」
幸一郎は箱状の水で自身を覆う。
しかし比賀の高出力の魔法は箱を押し潰す。バキバキッという金属音が響き渡る……。
「……ガハッ、ギリギリ……だ」
身体中の骨が中央に寄り、歪にゆがんだ幸一郎がワープでカイザーの後ろに回り込んでいた……。「せめて君だけでも」その手には洋剣が握られている。
「ガキッ!」比賀の叫びと共に銃声が鳴り響く――比賀の撃った自動拳銃だ。
頭部を撃ち抜かれた幸一郎はそのまま倒れ込む。
――比賀は《空間転移》を奪取した……。
「……比賀……すまん。油断した。ありがとう」カイザーは一瞬の出来事に頭が追い付いていない様子で感謝を述べる。
直後、叫び声が聞こえてくる。美鈴のものだと思われる……。
◇◇◇
「キャァアアア! 銃声……コウさんのセンサーの反応が無くなった……。シノさん……シノさん……!」美鈴が我を失い半狂乱で叫びを上げる。
「幸一郎……! クソッ! 俺がもたもたしていたから……」志之崎は刀を割れる程握る。
「……許さない……あなた達全員……絶対に許さない……!」美鈴の瞳は怒りのみを帯びたものに変わっていく……。「インビジさん……全員殺して……」静かに、ただただ殺意のこもった声を出す。
次の瞬間、光葵は知覚する。闇霧で触れているから分かるのだろう。少女の顕在マナが恐ろしく跳ね上がり、固有魔法がより大きく、強力に変貌していくのを……。
「朱音! これ以上はダメだ。明らかに危険だ。全員で逃走する!」光葵は焦りが混じる声を出す。
「分かった!」朱音は短く答える。《炎帝魔法――加速移動》で逃走する。
「逃がさない……!」美鈴と志之崎の言葉が同時に聞こえる。
「お前達もだろうが、俺も仲間が大事だ! 《合成魔法》《火炎魔法×風魔法――風炎砲》……!」
高温の炎に風を加えジェット噴射のように放つ。光葵自身は噴射の勢いで後方に吹き飛ぶ。攻撃しつつ逃走も兼ねた一撃だ。そのまま、入口の窓硝子を突き破り地面を転がる。
「痛ってぇ……」顔を上げると仲間三人が手を差し伸べていた。
「早く逃げるぞ。今のあいつらはやばい……!」比賀は直感で感じたことを口にしているようだ。
「だな……。カイザー、お前は逃走する魔法がないだろ? 俺が担いでいく!」光葵が急いでカイザーに伝える。
「またか……」文句を言うカイザーを背負う。
朱音は加速移動、比賀は空間転移で逃走した。
◇◇◇
アジトに辿り着く。頂川と綾島が出迎えてくれる。
二人に今日の出来事を共有する。
「そんなに危険な戦いだったんだね……。ごめんね……私……」綾島が謝り始める。
「いや、謝るところじゃないよ。戦いは無理強いしてするものでもないし、みんな無事帰れたんだ。それで十分だ……」光葵は心からそう思い言葉にする。
「そうだよね。ごめんね。すぐ湿っぽい話にしちゃって。回復魔法で治療するよ」――。
――その時、頂川は他の仲間とは異なる想いを心に浮かべていた。幸一郎の死……頂川が監禁されていた時とはいえ、あの三人の〝微笑ましいやり取り〟は本物だった。コレは戦争だ。分かってる……。分かっているが……。それでもあの〝優しい時間〟を奪うことは正しいのか……? 答えは出なかった――。




