四十三話 頂川救出作戦④
影慈はその頃、右手に灰燼の浸食を燃やしたまま、志之崎と近接戦闘をしていた。
といっても、灰燼の浸食をブラフにしつつ、氷刃で時間を稼ぐ戦い方だ。
「本当に近接戦闘が弱いのか? それとも裏があるのか……?」志之崎は疑いの目を向ける。
「さあ、どうだろうね……」影慈は首を微かにかしげる。その時、影慈のスマホのバイブが鳴る。
「少し失礼」灰燼の浸食をやや前方に放った後、風魔法で志之崎に向けて一気に散らす。
思わず志之崎は後方へ下がり防御態勢をとる。影慈はその一瞬の隙にスマホを確認する。朱音からのメッセージを見て安堵する。頂川の周りを囲っている氷黒壁を解除する。
「随分余裕だな……!」志之崎はスマホを見る影慈を怒り混じりに睨む。
「余裕なんて無いよ。むしろ逆だった。ここからは全力でいく……!」といっても、全力で離脱するというのが正しいんだけどね……。これ以上ここにいると、周囲が完全に少女の魔法で覆われる。ただ、これだけ闇魔法に意識を向けさせればこの攻撃は命中するはずだ……。
「《闇魔法――闇霧》! はぁあああ!」影慈の叫びと共に《闇霧》が周囲に一気に拡散される。
「それが、全力の技か。こちらも準備が整った。いくぞ!」志之崎は攻撃態勢に入る。全力の突進が闇を切り裂く。
しかし、影慈は闇霧に紛れて場所を移動していた。影慈が元々いた場所には一つの手榴弾を闇霧に乗せて置いておいた。手榴弾を見て、志之崎は咄嗟に風魔刀で防御壁を作ったようだ。ただし、〝閃光手榴弾〟のため防御壁では光の透過は防げない……。
その間に、影慈は美鈴に対し圧をかけるように《高速移動》しつつ、火炎魔法と共に閃光手榴弾を投げる。美鈴の意表を衝いたであろう攻撃は効果抜群であり、目眩ましをモロに食らっていた。
◇◇◇
影慈は一気に朱音、頂川と合流する。ルナ姉の分身はマナが無くなり消えていた……。
「このまま、離脱するよ! 風魔法で朱音ちゃんにも速力を付けるから、一緒に逃げよう!」
頂川は影慈が背負って逃走した。こうして、頂川救出作戦は幕を閉じた――。
◇◇◇
アジトに戻ってから、影慈、ルナ姉、綾島の三人で頂川、朱音を《回復魔法》で治療する。
「日下部、ルナ姉、朱音ちゃんマジでありがとな! 今回の騒動は俺が敵に気づけてたら防げた。申し訳ない」治療を受けながら、頂川は頭を下げる。
「頂川君は悪くないよ! あんなワープ使う人いると思わないし!」朱音がすぐに声を出す。
「そうだよ、君は悪くない。タイミングが偶然悪かっただけだよ」影慈は優しく声を掛ける。
「すまねぇな。日下部には借りを作ってばかりだな……」頂川は申し訳なさそうに呟く。
「ううん。気にしないで。僕達も君のおかげでいつも助かってるよ」影慈は微笑みを頂川へ向ける。
「……ありがとな。あと気になってたんだけど、日下部の雰囲気いつもと違ってないか?」
「頂ちゃん鋭いわね。今の日下部ちゃんは『策士モード』なのよ」ルナ姉が嬉しげに答える。
「えっ、日下部。あんた『モード』変えれんのか? そういや前にも一回そんなことあったっけな……。やっぱすげぇ奴だな……!」頂川は目を輝かせ感心した声を上げる。
「あはは、まあね……。たまにしか出せないんだけどね」
自分でも分かる。手汗が通常の三倍は出てると。頑張って顔に出さないようにする影慈であった――。
(影慈、本当に助かった。ありがとな! 俺もまだまだ未熟だな……)光葵は感謝を述べる。
(そんなことない! みっちゃんの気持ちも分かるし。それに困った時は一緒に支え合いながら生き抜こうよ。僕はそうしたい……)影慈の純粋な想いが伝わってくる。
(影慈、俺はお前に会えて本当によかった。俺も影慈を支えるよ……!)――。




