四十二話 頂川救出作戦③
ルナ姉が幸一郎の魔法の特徴に気づいてから、戦い方は変わっていた。
幸一郎の〝死角〟を狙う戦い方だ。朱音の《焔の壁》や分身して二人になったルナ姉が様々な角度から攻撃する。
「君達もなかなかトリッキーな戦い方をするね。正直戦いづらいよ」幸一郎は楽しげに呟く。
「それは、あなたもね!」朱音が焔の壁を更に放つ。一定量マナを込めて放っているため、焔の壁は霧散せず、既に三つの壁が幸一郎を囲い込んでいた。
「金髪の彼にこだわってると、動けなくなりそうだね……」幸一郎の顔から汗が一筋落ちる。
そこへ身を隠していたルナ姉の分身が雷を纏い、幸一郎の死角から一撃を入れようとする。
「……死角を意識するのはマジックでは基本……。《水製道具――大鳩》……」水魔法で巨大な鳩を放ち、ルナ姉の分身を吹き飛ばす。分身はそのままマナレベルで分解され霧散する。
次の瞬間に〝もう一人のルナ姉〟が幸一郎に《水魔法》を纏い飛びつく。
「狙うならやっぱこの瞬間だよね! 《水製道具――洋剣》」幸一郎は洋剣を即座に作り、ルナ姉を刺し貫く……。
「痛いじゃない。イケメンちゃん」ルナ姉はそう言いながら、水魔法で伝導率を上げた状態で、雷魔法による強力な〝放電〟をする。
「うぐっ……。自滅覚悟かい?」
幸一郎は数秒間、ルナ姉を洋剣で切り裂こうともがくも、予想を超えるマナ出力だったようだ。幸一郎はたまらず〝目に映る範囲〟にワープした。
しかし、そこにはワープ先を予測した朱音が加速移動してきていた……。
「《炎帝魔法――焔の双鎚》!」朱音の両手から焔の塊が出現し、幸一郎の鳩尾に打ち込まれる。幸一郎は勢いで数メートル吹き飛ぶ。
「……君達強いね」
幸一郎は身体を痙攣させながら、何とか片目を隠しワープで離脱した。
「あ、逃がしちゃった……。でも、最低限の仕事はできた。早く連絡しないと……」朱音は影慈にメッセージした。「こっちは片が付いた」と――。




