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四話 穏やかな刻 確執の刻

 次の日になり、いつものように若菜と登校する。



 途中で若菜と別れてからふと思った。


(影慈、俺達三日後には代理戦争に参加することになるんだよな)


(うん……。魔法とかマナとか分からないことだらけだよね。これからどうなるんだろ……)


(まあ、分からないこと考えててもしょうがない。とりあえず、前に言ったように影慈に楽しい思いを俺はしてほしい。今から学校にも行くし、楽しむことを考えてみてくれないか?)


(……そうだね。折角生きなおすことができたんだし、楽しむよ)


 影慈は微笑む。



 学校での生活を〝二人〟で過ごすのも楽しい。


 光葵は勉強が苦手だが、影慈は得意だ。

 光葵のわからないことを、影慈が教えてくれることもあり、二人で協力しながら過ごした――。


 ◇◇◇


 家に帰り影慈に話しかける。


(今は代理戦争は気にせず楽しく過ごしたいと思ってる。どうかな?)


(みっちゃんの気持ち嬉しいよ。でもこのまま何もせず過ごすのは気がかりではあるかも)


(まあそれはそうだけどな……。じゃあ明日! 明日までは楽しもう。明日は空手に行く日なんだ。影慈が楽しめるかは分からないけど、空手もやってみて欲しい!)


(空手か、僕にできるかな……というか、肉体を動かす〝人格の交代〟ってできるのかな?)


(あ、そういえばそうだな。メフィさん! 聞こえますか?)


(聞こえている。話の内容も聞いていたぞ。〝主人格交代〟についてだな? 実は既にバロンスに確認はしていたんだ。主人格を交代するには光葵、影慈、君達が同時に〝主人格交代〟と念じればいい。そうすれば、主人格が交代できるはずだ)


 ◇◇◇


 翌日は学校に行き楽しく過ごした。

 そして放課後になった。今日は空手の日だ。


「押忍!」挨拶をして道場に入っていく。


 少しすると「お兄ちゃん押忍! 今日も修行だ! 頑張ろう」

 若菜が気合を入れにくる。


「おう!」

 我が妹ながら、道着姿も可愛い……。


 いや、今は影慈だ。気持ちを切り替えろ。


 できるなら、最初から影慈に空手をして欲しい。

(今、主人格交代してみないか?)と影慈に尋ねてみる。


(できるかな……スポーツとか苦手だし。でもいい機会……なのかな。やってみるよ……)


(大丈夫だよ。難しそうだったらすぐに交代するし! 早速、主人格交代してみるか……)


 同時に〝主人格交代〟と念じる。

 

 すると、意識が飛ぶ感覚と共に、自分が〝肉体の中の心、魂に成り代わった〟ような感覚になる。もちろん肉体を動かすことはできない。



 ◇◇◇



(影慈、体は動かせるか?)

 影慈に光葵の声が聞こえてくる。


(うん、動かせるよ。なんかすごく久々に地面を踏んでる感じがする)

 不思議な感覚だ。


 ふと設置してある鏡に目が行く。そこで違和感に気が付いた。〝瞳の色が変わっている〟のだ。


 光葵の瞳の色は琥珀色だ。でも今の瞳の色は少し陰のある黒……影慈の瞳の色になっている。

 

 主人格を交代すると瞳の色に変化が出るようだ。


(不安かもしれないが、師範の動きを真似してれば大丈夫だ!)

 光葵に励まされる。


 影慈は師範の真似をしながら突きを繰り出す。


 しかし、スポーツ経験が乏しい影慈の突きは〝へにゃへにゃぁ〟という効果音が似合うようなものだった。

 周りの道場生も思わず二度見する……。


(最初はみんなこんなもんだ。周りの目なんて気にするな! コツを言うから参考にしてくれ。身体の軸はぶらさない、拳は最短距離で打ち抜くイメージで……)


 光葵がコツを少しずつ伝えてくれる。するとだんだんと影慈の突きは〝見られるレベル〟になっていった。


 ◇◇◇


 主人格交代をした光葵は、帰り道に影慈に尋ねる。


(どうだった? 初空手は?)


(そうだね……。何回か恥ずかし過ぎてトイレに逃走しようかと思ったよ……。でも楽しかった。空手やらせてくれてありがとね!)


 運動を楽しんだ後特有の爽快感がこちらにも伝わってくる。


 今日食べた夕飯はいつもに比べてより美味しく感じられた。


 ◇◇◇


 翌日。


 学校に着くと、朱音が席にやってきた。


「おはよう。光葵。夜月影慈君って覚えてる?」


 朱音は深刻そうな顔で尋ねる。


「…………覚えてるよ。どうかした?」


 光葵はこう答えたが、内心嫌な予感はしている。


「影慈君、五日前から行方不明で捜索願が出されてるみたい」


 やはりそうだ。影慈には父がいて捜索願が出されていても何らおかしくないだろう。


「心配だな……。教えてくれてありがとな」


 そう答えるのが精一杯だった……。


 ◇◇◇


 放課後になり、影慈に話しかける。


(影慈……親父さんのことだけど……)


(ごめん。こうなる可能性は分かってた。けど怖さもあって言い出せてなかったんだ……)


(それは、仕方ないことだ。誰も影慈のこと責めないよ)


 光葵はできるだけ優しく伝える。


(……ありがとう。でも僕の肉体はもうないし、戻りようもない……)


 影慈は静かに話す。


(でも、このまま親父さんに何も言わずでいいのか? 影慈が今まで酷い目に遭っていたこと少しは理解してるつもりだ。それでも……親父さんが心配してる気持ちは本当なんだと思う)


 数秒の沈黙の後。


(……明日から代理戦争だ。もうお父さんに会えないかもしれない。正直会いたくもないというのが本音だけどね。でもみっちゃんの言うことも理解はできる……家を見に行こう)


 影慈はぽつりと呟いた。


 ◇◇◇


 影慈の家に着いた。


 夜月という表札は薄れており、小さな庭も草が生え放題になって手入れされている様子ではない。


 ただ、庭の窓から中の様子を見ることができた。


 机の上には酒の缶が乱雑に放置されていた。

 そして椅子に腰を下ろしうなだれている影慈の父の姿があった。


 父の姿を見た時点で、影慈の心が動揺していくのを感じ取れた……。


 よく見ていると、影慈の父はうなだれているのではなく、むせび泣いているのだと分かった。

 

 影慈の心が動いていくのを感じる。


(あの姿が見られて〝ある意味〟嬉しいよ……でも、僕にとっては〝あんなお父さん〟はお父さんじゃない。……だけど、ほんの少しだけ救われたよ。お父さんにも愛情があったことが分かって……)


 影慈はそう言い黙り込んでしまった。


 光葵は少なくとも、今父と会うことを受け入れられない影慈の気持ちを察し、その場を後にした。


 影慈にとって、父との確執はあるままだ……。

 それでも、明日から代理戦争が始まる。


 今は代理戦争に集中しなくてはいけない……。


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― 新着の感想 ―
初めまして。ここまで拝読いたしました。 一つの肉体に二つの魂、そして代理戦争と面白い設定だなと思いました。人格を交代することもできるようですし、ここも今後の展開や戦略的などに関わってきそうですね。 二…
影慈が主人格として初めて空手に挑む姿が微笑ましく、彼の「生きなおし」が本格的に始まったと感じました(*^-^*)
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