三十七話 上道院 至王という男
翌日の放課後に頂川と朱音がアジトにやってくる。
「昨日にアジト襲われたんだよね! みんな大丈夫?」朱音が心配そうに聞く。
「大丈夫よ。一日寝て、回復魔法を使ったから動けるわ。まあ、戦闘できる程回復はしてないけどね」ルナ姉は優しい笑顔とは裏腹に、身体中にガーゼや包帯を巻いている。
「そっか……。私も学校休んで代理戦争に専念した方がいいかもね。みんなを守りたいし」朱音は顎に手を添える。
「たしかにな! 日下部の話を聞いてから、俺も学校休むのは考えてたからよ」頂川も声を出す。
「うーん、俺が言うのも何だが、学生は学業が本分だ。無理に休む必要はないと思う」光葵は二人に自分の考えを伝える。
「でも、昨日の話を聞いたら少しでも助けになりたいよ……」朱音は悲しい声を出す。
「……この決断はすまないが、お前達に任せる。俺からはこれ以上言えることも無いし……」
「分かった。今日帰ったらお父さんに聞いてみる」朱音から返答がある。
「俺は家族が放任主義だから大丈夫と思うぜ。あ、でも問題があんだよな。今学校の新番長を巡って二つのグループが対立してるんだ。その仲裁をしたいから一週間くらい時間が欲しい」
「ええ! 頂ちゃん、番長してたの⁉」ルナ姉が率直に驚嘆の声を上げる。
「ああ、『元』だけどな。急に俺から番長が変わったから、まとまってなくてな……」頂川は困ったように笑う。
「大変ね……。状況が落ち着くまではこっちのことは気にしないで」ルナ姉が優しく伝える。
「ありがとな。ルナ姉」頂川が明るい声で感謝する。
「そういえば、ルナ姉。昨日戦ってた時に上道院至王って黒スーツの男と話してたけど、知り合い?」光葵は純粋な疑問を投げかける。
「知り合いよ。といっても昔のだけどね。みんなは上道院コーポレーションは知ってる?」
「エネルギー、製薬、製造とか色々やってるでっかい会社だよな」光葵がすぐに返答する。
「そうそう。その会社の御曹司なのよ、至王ちゃんは」
「珍しい名前だから、関係者かなとは少し思ったけど、御曹司だったんだな……」
「私、過去に商品仲介人やってたことがあるの。結構やり手だったのよ。その時に商品の調達で困ってた至王ちゃんの手助けをしたことがある。そこで知り合いになったの」
ルナ姉は懐かしそうに話す。
「なるほど。それで話してたんだな。でも、情がない印象だった……。あと、機転が利いて敵にいると厄介そうな相手だ……」光葵は素直に思ったことを口にする。
「昔はもう少し優しい雰囲気だったんだけど、変わっちゃったのね……。至王ちゃんは頭の回転がズバ抜けていいから、敵だと確かに厄介ね。罠や魔法強化などに使える《刻印魔法》《結界魔法》も強力よ。私と綾島ちゃんも至王ちゃんにかなりダメージを負わされたから……。二つとも固有魔法よ」
「つまり、至王は少なくとも天使サイドを一人は倒してるってことか……。今後注意しないといけない奴だな……」
光葵は思う。厄介な敵が増えていく……。みんなを守らないと……。
「あ、そうだ。このアジトなんだけど、もし私が負けた時は、そのまま使ってくれていいわよ。金庫にある程度お金も入れてるから、うまく使ってちょうだい。鍵もみんなに渡しておくわ」
ルナ姉が鍵を準備し始める。
「ルナ姉、そんな縁起でもねぇこと言うなよ……」頂川が悲しげにルナ姉を見る。
「もしもの時よ! 昨日みたいに何があるか分からないからね」――。




