三十六話 急襲
「日下部ちゃん、カイザーちゃん、戻ってくれてありがとう」ルナ姉はふらつきながら話す。
敵は二人だ。清宮、そして見知らぬ男がいた。三十代前半、髪は肩まであるホワイトベージュ、目つきは鋭く顔立ちが良い。身長は高くスラっとしていて、品のある高級ブランドの黒いスーツを着用している。また、左手につけている金時計が目立つ。
「ルナ姉、綾島さん大丈夫か? 俺達も戦う。無理はしないでくれ!」光葵は大声で叫ぶ。
――〝人格共存〟左右の瞳は琥珀色、陰のある黒へと変わる――。
敵との間に《闇魔法》と《氷魔法》を放つ。そして、カイザーを抱えながら《風魔法――高速移動》でルナ姉達のもとへ行く。
「……日下部、気安く我に触れるな」カイザーが不機嫌に呟く。
「カイザー、俺はこれ以上大切な人を失いたくない。後で文句は聞く。今は手を貸してくれ」
「……フッ、よかろう。汝の覚悟気に入った。敵を討ち破るぞ。結界、罠の看破は任せろ」
「君、闇魔法も使えたのね。一気に決めましょうか……。上道院さん」清宮が穏やかな口調で声を出す。
「そうだな……。『温井』いや今は『ルナ』と呼ぶべきだったか。降伏すれば命だけは助けてやるぞ」スーツの男は慈悲深さというより、傲慢さを感じさせる。
「至王ちゃん。ご忠告どうも。でも降伏する気はないわ」ルナ姉が語気を強める。
「そうか……。では、このまま四人を殺す。いくぞ……!」至王の目つきが殺意を帯びる。
――今の状況はどちらかというと劣勢だ。ルナ姉、綾島の傷が深い。光葵とカイザーで隙を作る必要がある。どうする……? ふと奥の台所に〝ルナ姉の分身〟が一人いるのが目に入る――。
「時間が無い、一方的に言うぞ。カイザー、綾島さんは後方支援。ルナ姉は『最後の一撃』を頼む」光葵は全員に指示を出す。
「ウォオオオ!」光葵は《高速移動》で至王と清宮に突っ込む。
「無策で突っ込んでくるか……。《合成魔法》《雷魔法×火炎魔法――雷火砲》!」至王が雷と火炎の合成砲撃を放つ。
「上道院さん。油断なさらず。《水魔法――水の大砲》……」清宮も同時に砲撃を放つ。
対して、光葵は「《合成魔法》《氷魔法×闇魔法――氷黒の盾》」で威力を殺す。そして、氷の刃で薙ぎ払う。
「すごい魔法ね」清宮は驚いた風な口振りで攻撃を躱す。
至王も同様に躱している。
「日下部! あと三歩先に『罠』がある! 他は周辺に無い」カイザーが叫ぶ。
「ありがとう。カイザー!」光葵はそれが分かった上で最短距離にて敵に詰め寄る。
光葵は更に加速して跳び上がる。〝罠〟は〝炎のような刻印〟が浮き出たかと思うと爆発した。その一瞬前に「《合成魔法》《氷魔法×闇魔法――氷黒壁、仙人掌」を発動する。氷黒壁は光葵の身体を覆い隠す。そして、氷黒壁の表面にはサボテンのように大きな棘が複数創出される。それらは清宮と至王を貫いた。
「ガハッ……。フハハ、自爆覚悟か貴様……」至王が呟き、雷火砲を放とうとしてくる。
「まだ、終わってない……」光葵はそのまま《氷黒壁――仙人掌》を周囲に爆散させる。
至王は雷火砲から瞬時に魔法を切り替え「《刻印魔法――空盾》」と詠唱する。空気中に〝刻印〟を打つことで盾を作り出したようだ。
「黒スーツ。このタイミングで防ぐのか……」
一方、清宮は反射神経である程度躱したようだ。
光葵は考える。清宮は〝五感が鋭い〟のか? どちらにせよ、このまま攻め切る……!
その時声が聞こえる。
「日下部、我等も攻撃に加わる! 《魔眼散弾》……!」カイザーの魔眼から発する散弾型のマナが清宮目掛けて放たれる。
「《光魔法――穿ち光線》……!」綾島も同様に清宮目掛けて攻撃をする。綾島の指先から放たれる光線と魔眼散弾が、清宮を撃ち抜き、台所まで吹き飛ばす。
「ルナ姉『最後の一撃』をお願い!」光葵は叫ぶ。そして至王に霧状の闇魔法を雪崩の如くぶつける。
「ハッ、こんな物量押しで俺を倒す気か?」至王は雷火砲を放とうとしている。しかし次の瞬間、台所にいた〝ルナ姉の分身〟が雷を纏った拳の一撃を至王のこめかみに打ち込む。
至王は頭から吹っ飛び椅子にぶつかり、椅子が大破する。
光葵は思考する。敵を倒したいが、ルナ姉と綾島の怪我と体力が限界だ。今しか逃走のタイミングは無い。
「このまま離脱する! カイザー俺の腹にしがみつけ! 《身体強化》《風魔法――高速移動》……!」光葵は仲間三人のもとに向かう。
カイザーは一瞬「は?」と言うも光葵の鬼気迫る表情を見たからか、言われた通りに動いてくれる。
光葵は、ルナ姉と綾島を両手で担ぎ、身体にプロテクトを張りつつ一階の窓を突き破り離脱する。
五分程走り続ける。
――「日下部ちゃん、日下部ちゃん!」光葵は、ルナ姉の声で我に返る。
「悪い、みんなが傷つく姿を見てると、気が動転してさ……」
「全く無茶な奴だ。いつ振り落とされるかと肝を冷やしたぞ」カイザーは不満げに声を出す。
「……だけど日下部君のおかげで助かった。ありがと。でも、そろそろ降ろしてほしいかも……」頬を赤く染め綾島が呟く。
光葵は「ごめん、ごめん」と言いながら、三人を降ろす。
「これからどうする? アジトが見つかるのは想定外だった」カイザーが腕組みする。
「そのことだけど、もう一ヶ所アジトがあるの。念のためと思って準備はしてたのよ」ルナ姉が声を出す。
「いや、ルナ姉のお世話にばかりなる訳には……」光葵はすぐに言葉にする。
「そうは言ってもみんな学生でしょ? それに私意外とお金持ってるの。仲間なんだし気にしないで」ルナ姉は優しい笑顔を見せる。
「……ありがとうございます。ルナ姉。俺達子どもじゃできないことが多いですね……」
「うふふ、何言ってるのよ、日下部ちゃん。すごく頼もしかったわよ!」
「えっ……。はは、そう言ってもらえると嬉しいです」光葵は本心からそう思った。
「とりあえず、頂ちゃんと朱音ちゃんに今日のこと連絡して、このままアジトに向かいましょ。あれだけダメージを与えれば追いかけてこないとは思うけど、早めに休息は必要と思う」
「そうだな。皆傷だらけだ。我が魔眼で周囲は警戒する。このまま向かおう」カイザーが魔眼で周囲を警戒しながら進む――。
新アジトに到着する。前アジトと同様に住宅地から離れた二階建ての4LDKだ。
まず全員の傷を回復させる。光葵、ルナ姉、綾島は《回復魔法》を使えるので、マナが残っている順で回復を行った。
その後、ルナ姉、綾島は傷が深かったためベッドで休んだ。
頂川と朱音も放課後に新アジトに来た。
二人はとても心配していたが、光葵から「今日はみんな休息が必要だから、今後のことは明日に話し合おう」と伝え、二人には帰宅してもらった――。




