三十四話 修行の結果
「朱音、今日が約束していた一週間になる。最後の試験みたいなものだ。俺と対人戦で一撃でも入れれたら一緒に戦おう。それができなかったら、今までのことは忘れてくれ」光葵が話しかける。
「ええっ! 光葵と戦うの? それに対人戦なんて今まで練習してないよ」朱音は焦った声だ。
「マナ調整の練習が最優先だったし、一週間じゃ対人訓練まではできない……」
「それって、最初から私を連れていく気がなかったってこと……?」朱音から表情が消える。
「……それは朱音次第だ。俺はこれ以上大事なものを失いたくない。悪いが俺も本気でいく」
――〝人格共存〟左右の瞳は琥珀色、陰のある黒へと変わる――。
「光葵……。分かった。私も本気でいくよ!」朱音は戦闘態勢をとる。
焔の矢、焔の魔球、焔の壁で光葵を攻撃してくるも、どれも〝直線的〟な攻撃ばかりで《風魔法――高速移動》を使っている光葵を捉えることはできなかった。
「はぁはぁ……。ずるいよ光葵。最初からこんなつもりだったなんて」朱音は涙を浮かべる。
「最初からこうするつもりだった訳じゃない。でも、戦場ではそんな言葉は通用しない」
自分でも酷いことを言ってると感じる。だが、朱音が踏み入ろうとしているのはそういう場所だ。
「朱雀様、お願い。私にもっと力を……」朱音は朱雀に願っているようだ。光葵を認めさせる力が欲しいと……。
だが、途中で表情が変わる。光葵の戦いに臨む姿を見て何かを思ったのかもしれない。
「……私、甘えてた。何でも人に教えてもらえると思ってた。自分の今生きてる世界と同じで『どこか安全が保障されてる』と思ってた。でも違うね。光葵を見てると分かったよ……」
朱音の雰囲気が変わる。
光葵は直感的に理解する。ここからは行動一つが死に直結すると……。
朱音は今まで主に放つことでしか使っていなかった焔を身体に纏う。そして移動する際に手や足から焔を噴出し、凄まじい速度で加速する。
そして、〝大きさや威力〟に頼った攻撃から、確実に相手に攻撃を入れられる細かな攻撃も織り交ぜるようになっていった。
「ははは……。朱音、お前はすごいよ。でも俺も負ける気はない……」
「光葵に一撃入れるまで追い込んでみせる」朱い瞳に今までとは異なる光が迸る。
朱音の動きは速く、魔法のキレも大幅に上がっていた。しかし、一撃を入れるには一歩足りなかった。
「くっ、このままじゃ……。そうだ、こんな攻撃はどう? 《炎帝魔法――焔の渦》……!」
光葵と朱音の周りを焔が囲い込む。
「まだだよ! 《炎帝魔法――加速移動》!」
朱音は手足からの焔の噴射で一気に加速して、光葵を追い詰めてくる。
「壁際まで追い込まれそうだ。朱音……この短期間ですごいよ」光葵は淡々と言葉を紡ぐ。
「光葵……。余裕でいられるのも今のうちだけだよ」
「はっ!」
朱音の声と共に、光葵周辺の焔の渦が形を変え光葵を包み込んでいく――。
しばらく経ち「……光葵?」焔の外から朱音の声が聞こえる。
光葵は応えない。
「え? まさか、焼き尽くしちゃった……? 光葵……!」
朱音は思わず、焔の包囲を緩めたのだろう。
光葵は《氷黒壁》の壁内にいた……。刹那、朱音の顔の横へ《闇の弾丸》を放つ。
「えっ……」朱音は思わず尻餅をつく。
そして、焔の渦は徐々に霧散していく。
「……朱音。油断は死に直結する。折角のチャンスを無駄にしちまったな」光葵は氷黒壁を解除する。
「……嘘でしょ。これで終わりってこと……?」朱音は思わず呆然としているようだ。
しばらく光葵は押し黙る。そして口を開く。
「一撃は入れれてないけど合格だ。正直ここまで追い込まれるとは思ってなかった」顔を少しばかり綻ばせる。
朱音はぽかんとした後「もう! びっくりさせないでよ。バカ!」と光葵の胸の辺りをポカポカ叩いてくる。
「はは、悪い悪い。俺が思ってた以上にちゃんと戦えてたからさ」と笑う――。
改めて、朱音の父に、朱音に代理戦争で一緒に戦って欲しいと頼んだ。
「光葵君の目を見てたら分かるよ。いっぱい考えて出してくれた結論なんだろう。朱音のことを頼むね」優しい言葉だが、娘を心配している気持ちも伝わってくる。
「はい。ありがとうございます。危ない時は俺が全力で朱音のことを守ります!」
「……そうか。うんうん。君なら安心して任せられるよ。朱音のことこれからもよろしくね」
「ちょっと! 何か思ってた感じと違うんだけど!」顔を赤くした朱音が叫ぶ。
翌日の夕方に光葵と朱音は頂川達のいるアジトに向かっていた。頂川達には事前に、戻ることと仲間が増えることを伝えておいた。
光葵の家族には、しばらく友達の家にいさせてもらうことになったと伝えた。正直心配しているが、毎日連絡をくれるならそれでいいと言ってくれた。




