三十三話 修行の日々
それから、一週間の修行の日々が始まった。
光葵の家族にはしばらく朱音の家で泊めてもらうことになったと伝えた。また、頂川達にも少なくとも一週間はアジトに行けないこと、漆原を倒したことを伝えられていなかったことを謝っておいた。
今日は初修行の日だ。修行は朱音が学校から帰ってきた夕方から行う。
〝南城神社〟の敷地に非常に広く目立たない場所があったため、そこを使わせてもらうこととなった。
「朱音、魔法は意識的に使えるのか? マナの知覚とかもできるか?」
「魔法はイメージしたものを出せる感じかな。マナの知覚も何となく分かる。といっても、朱雀様の加護があるからだと思うけど」朱音は少し頭を捻りながら返答する。
「なるほど。そこまでできるなら、実践から入って大丈夫そうだな」
「うん! まずは何をしようか」朱音は明るい顔をする。
「とりあえず魔法を見せて欲しい。この前助けてもらった時にも見てたけどな」
光葵は《氷魔法》で分厚い氷壁を創出した。「ここに《炎帝魔法》で何でもいいから攻撃して欲しい」
「オーケー」朱音は右手にマナを集中する。「《炎帝魔法――焔の矢》……!」
燃え盛る焔の矢が氷壁を一気に溶かし、そのまま奥の岩にぶつかる。焔の熱で岩をも溶かしつつあった。
「朱音……。お前……すごい魔法だな……」正直驚いた。マナ出力が桁違いだ。
「はぁはぁ、そう? それはよかった」笑顔こそ見せているが、辛そうな顔だ……。
「威力がある分、マナの消費と負担が大きいんだろう。マナ調整の練習が必要だな」
「分かった。光葵、心配そうな顔してるね……。練習頑張るから心配しないで!」
「そうか……。俺も頑張るな。氷壁一瞬で溶けてたしな……。もっと強くなってやる……!」
「うんうん! 一緒に頑張ろう!」朱音は両腕を曲げて見せる。
修行を始めて、四日が経った。朱音はマナ調整の精度が上がっていき、一撃放つだけで息が切れることは無くなった。複雑な心境ではあるが、同時に頼もしくも感じていた。
休憩中に朱音から話がある。
「最近SNS見てると街中で爆発音が聞こえたとか、晴れてるのに雷が光ってたとか、おかしな投稿が目に入るんだよね。これも代理戦争の影響?」
「あ~どっちも思い当たるな。雷に関しては仲間のうちの一人かもしれん」光葵は少し笑う。
「そうなんだ! あと『Hоpes』っていう社会運動団体をよく見かける気がする。『世界平和や平等』のための運動をしてるみたい」
「前までならどこか他人事に感じてたかもしれないけど、代理戦争に参加してる今では『世界平和』とかの単語にむしろ当事者意識を感じるくらいだわ」我ながら不思議な気分だ。
「そっか。代理戦争を勝ち抜けば、世界を変えられる程の力を与えられるって話だもんね」
「うん。実際にどんな風に世界を変えられるかまでは、よく分からないんだけどな」
「う~ん、具体的には今の段階じゃ分からないんじゃないかな」朱音から頭を捻りながらも答えがある。
「それもそうだな……。さて、じゃあ修行を再開しようか」と立ち上がる――。
「朱音の魔法で氷壁溶かされないように補強してみるな。《合成魔法》《氷魔法×闇魔法――氷黒壁》」これは氷壁に闇魔法を霧状に纏わせたものだ。
「なんかすごそう!」朱音はそう言い右手を前にかざし《炎帝魔法――焔の魔球》を放つ。
闇魔法が焔の魔球の威力を殺しつつ、そのまま衝突する。爆音を立てて氷壁は弾け飛ぶ。
「やっぱり朱音の魔法は威力があるな。相当マナ込めたんだけどな……」正直驚きが大きい。
「いやいや、前よりずっと強固になってると思うよ。というか、あの闇魔法って何なの?」
「そういえば、俺の魔法の説明してなかったな。闇魔法の主の能力は『侵食と破壊』なんだ。副次的な能力もあって、『意識の混濁、自由を奪う』などがある。今さっきの氷壁には、闇魔法の『浸食と破壊』の力を『防御』として使ったんだ」
「へ~! そんな使い方もできるんだね! 闇だからなのか霧状で使い勝手も良さそう」
「そうそう。基本形態が『霧状』だから使いやすいんだよな。凝縮して『固体化』もできる」
「なるほど。良い魔法だね! 逆に光魔法とかもあるの?」朱音は素朴な疑問を投げかけている様子だ。
「あるよ。光魔法の主の能力は『浄化と消去』。副次的な能力として『意識の覚醒、除去』などがある。毒の除去も可能だ。闇魔法と光魔法の大きな違いは『破壊する』のか『消し去って無にする』かなんだ」
「魔法の種類一つでもかなり色々違いがあるんだね」朱音は素直に驚いた様子だ。
「実は俺も覚えるまで何回も守護天使に教えてもらったよ」と微笑む。
「俺の使える魔法も伝えるな。火、風、氷、闇、回復、プロテクト、身体強化、生成魔法だ」
「たくさんあるんだね。覚えれないよぉ……。一つ気になったんだけど生成魔法って?」
「一応伝えただけだし、覚えないでも大丈夫。生成魔法は……」つい間が空いてしまう。「こんな感じで物を生成できるんだ」そう言い、左手を青白く光らせ、少しずつ形を成していく……。
正直この魔法には悪い思い出しかない。だが、生き抜くためには魔法は複数必要だ……。
「おお~、何かが作られてる?」朱音は近づいて来て、生成されていく過程を興味深げに見ている。
〝催涙スプレー〟ができるまでに一分程時間がかかった。思いのほか時間がかかったな……。生成した催涙スプレーを朱音に渡す。
「これ朱音が持っておいた方がいいと思う。悪い奴がいた時にも使えるだろうし」
「催涙スプレーだよね? こんなこともできるの? 魔法ってすごいね。ありがとね、光葵!」朱音は嬉しそうに催涙スプレーを構えてみせる。
「はは。まあ、元々俺の魔法じゃないんだけどな。使える魔法は使わせてもらう……」
生成魔法は漆原から奪った時点で生成したことのあるものは〝光葵に知識が無くても〟生成できた。
その数を考えると怒りすら感じたが、戦いをする上では有利だろう――。
こうした日々を送りながら、約束していた一週間となった。




