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三話 融合

 気が付くと、廃ビルの下の地面で倒れていた。


 血が出ているわけでもなく、傷一つない。


 まるでついさっきまで夢を見ていたような気分だ。


「影慈! 影慈!」

 何度も叫ぶ。しかし、返答はない。


 これは一体……。呆然とする。


 ふと髪の毛が天然パーマになっていることに気づく。この特徴的なパーマは……。


「影慈……」思わず涙が零れる。


 もう話せないのか? これが契約の結果なのか? 頭の中で様々な思考が巡る。


 すると不意にメフィの声が身体の中……正確には肉体、心、魂で感じている感覚がある。


(あ~、今聞こえるか光葵?)


(聞こえてる。というか感じてる、〝知覚〟してるような感じだ)と返答する。


 返答すると言っても声に出して返答するのではなく、精神世界で会話をしているようなイメージだ。


(そうか。うまくいったようだな。私も二人の肉体を一つにしたのは初めてでな。うまくいくか少しばかり心配はしてたんだ)


 メフィはケロッと話す。


(そうだったのか……。いや、そんなことより影慈は? 影慈の存在を感じられない……)


(おそらくだが、ベースとなった肉体の光葵は、心と魂が目覚めるのが早かったんだろう……。しばらく時間は要するが、影慈も心と魂が目を覚ますと思う。肉体、心、魂は統合できているはずだ。光葵が目を覚ませているのだからな)


 その言葉を聞き、ほっとする。


 とりあえず今日は帰って休もう。影慈と話せるようになったらもっと話したいこともある……。


 そのまま家へ帰り、疲れからすぐに眠りについた。


 ◇◇◇


 次の日になっても影慈の心と魂は目覚めなかった。

 メフィは時間がまだかかるだろうから、気にするなと言っていたが、やはり気になってしまう……。




 学校の席に着くと、朱音がやってくる。


「光葵パーマかけたんだね。昨日まではストレートだったよね……?」


「あ~。俺もイメチェンしたくてさ」

 

 光葵は笑いつつも返す。


「何それ!」


 朱音もつられたように笑う。


 ◇◇◇


 放課後。


 足早に家に帰り自室に籠る。


(影慈聞こえるか? 聞こえたら返事してくれ!)


 しばらく返答はなかったが、少しずつ声が聞こえてくる感覚がある。


(みっちゃん? おはよう)寝ぼけたような返事だ。


(影慈! よかった……。けど眠そうだな)思わず笑う。


(ついにお目覚めか……。良かったよ)


 メフィが静かに話し出す。


(この前は時間があまりなかったから、細かい説明まではできてなかったんだ。星の代理戦争についての補足をさせてもらっても良いか?)


(聞いておかないと困りそうだしな。聞かせてくれ)

 光葵は真面目な声色で答える。


(わかった。十対十の戦いになるが、天使サイドか悪魔サイドかを見分けるために〝守護センサー〟という能力が契約者には備わっている。具体的には、半径五十メートル圏内で天使か悪魔の〝存在を感知〟できる。そして半径二十五メートル圏内で〝天使か悪魔かを識別〟できるようになる)


(一定の距離に近づかないと敵か味方かも分からないということですか?)

 影慈が質問する。


(そういうことだ。あと、重要なのが守護天使、悪魔によりもたらされる〝固有魔法〟や〝基礎魔法〟の存在だ。基本的に固有魔法の方が能力が高い。また、最初は固有魔法は一つしか持っていない。〝ルール上持ち込める固有魔法が一つ〟という縛りがあるからだ)


 メフィは一呼吸置き言葉を紡ぐ。


(そして、敵サイドの者を殺害もしくは降伏させることで〝相手の持っている固有魔法を一つ選んで奪う〟ことができる)


(つまり戦って勝つ事で、魔法を多く持つことができ、有利に戦闘を進められるんですね)

 影慈が聞いた話をまとめる。


(そうだ。敵への勝利でもう一つ良い事がある。分かりやすく人間界のRPGゲームで例えるなら、経験値が手に入る。少しニュアンスは違うがな。〝マナに対する理解度や知覚度〟が上がるんだ。結果的に、魔法が強くなったり、使用するマナの量を節約できるようになる)


(マナの理解度や知覚度か……イメージが湧きづらいな。もう少し分かりやすく教えてもらえないか?)

 

 光葵は頭をついていかせるので精一杯になってくる……。


(説明を後回しにしていたのだが、契約者が既に使用できるマナとまだ使用できないマナがある。前者のマナを〝顕在マナ〟と呼ぶ。後者の今後使用できる見込みがあるマナを〝潜在マナ〟と呼ぶ。言わば潜在能力のようなものだ。マナの理解度や知覚度が上がると、潜在マナを解放することが可能となる)


 メフィは間を空け言葉を紡ぐ。


(まとめると、マナの知覚度が上がることで、潜在マナを引き出したり、魔法の扱いが巧くなったり、無駄にマナを使わず魔法を発動できるようになる)


(なるほど。マナの知覚度が上がることで魔法に関わる能力全般が上がる感じか)

 光葵は理解できたことを口に出す。


(大体はその理解で構わない。ちなみに、必ずしも勝たなければマナの知覚度が上げられない訳じゃない。戦いやトレーニングをすることでマナの扱いや知覚度は上がっていくからな。ただ、勝利した時の方がマナの知覚度は上がりやすい)


(分かりました)

 光葵は影慈と同時に返答する。


(星の代理戦争が始まるのは〝四日後〟からだ。それまでは魔法も使えない。あくまで戦うのは君達人間だ。守護天使、悪魔は必要な情報の伝達程度しかできない。他に質問はあるか?)


(いや……今は思いつかない)


(僕もです。色々と教えてくださりありがとうございます)

 影慈が丁寧に感謝を伝える。


(礼には及ばないさ。そもそも代理戦争に巻き込んでいる訳だしな。もし、聞きたいことなどがあれば私の名を呼んでくれ。呼びかけに応じよう)


 そう言い終わると、メフィの存在の知覚がスッと消えていった。


(影慈……なんかすごいことになってきたな……)


(そうだね、みっちゃん……)


(まあ、不安になってばかりでもよくないし、とりあえず夕飯でも食べよう。)


 みっちゃん家でご飯か、不思議な気分だ……と思う影慈の気持ちが光葵に流れ込んでくる。 



 ◇◇◇



 ちょうど夕飯時のため、リビングに向かう。カレースパイスのいい匂いがしてくる。


「あ、ちょうどご飯できたわよ」

 母が笑いかけてくる。


 既に父と若菜も来ていた。今日は父の仕事が早く終わったらしい。


「じゃあ、みんな揃ったしご飯食べよう!」


 若菜が元気よく号令を掛ける。


「いただきます!」という声がリビングに響く。


 あ~、やっぱ母さんの作るカレーは美味いな。パクパクと頬張っていく。


 若菜は「幼馴染の子と会ってみんな結構変わっててびっくりした」という話を笑いながらしている。


 それを父も母も嬉しそうに聞いている。穏やかな時間だ……。


 すると、だんだんと目頭が熱くなってくるのを感じた。


「え? お兄ちゃん泣いてるの? 大丈夫?」

 心配そうに若菜が顔を覗き込んでくる。


「な、なんでもないよ。カレーが美味しくて、あったかくて……」〝自分の言葉ではない言葉〟が口から溢れてくる。


「なんだなんだ。母さんのカレーが美味しすぎて泣いてるのか光葵?」


 父がからかい半分心配半分といった口調で尋ねてくる。


「お腹減ってたからかな……。母さんおかわりもらっていい?」少し急いで聞く。


「泣くほど喜んでくれるならもっとカレー作るよ!」


 ニコニコとカレーをついでくれる。


 温かい幸福感がどんどんと胸に広がっていく。

 

 光葵はいつも食べているご飯のありがたみを噛みしめ、涙を流しながら二杯目のカレーを黙々と食べた。




 部屋に帰り影慈に話しかける。

(影慈……さっきのって……)


(ごめん、みっちゃん。肉体一つに僕の心と魂も入ってるから、僕の感情も影響を与えちゃうみたいだね)


(うん、それもそうなんだけど……)


(ああ、さっきの感情についてだよね。昔の仲が良かった僕の家族のこと思い出しちゃってさ。それにみっちゃんの家族はみんな温かいね。若菜ちゃんも大きくなって綺麗になってた)


(そうか……ありがとな影慈。影慈のおかげで家族のありがたみが身に染みて分かった気がする)


 ――少し間を空けて。


(あと、若菜可愛いだろ! 自慢の妹なんだ。可愛いだけじゃなくて気も利くし、空手もしてて頑張ってる。ほんとにいい子なんだ!)


 光葵は興奮気味に伝える。


(あはは……みっちゃん昔から若菜ちゃん大好きだったもんね。仲が良いのはいいことだよ)

 

 影慈はどこか気を遣ったような言い方をする。


(影慈……お前今〝シスコン〟って思わなかったか? 俺はシスコンじゃないぞ……?)


(そうだね。みっちゃんはシスコンじゃないよ)

 抑揚の無い返答がある。


(影慈……。俺はシスコンじゃないぞ……)


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― 新着の感想 ―
設定がしっかりしていて、そしてキャラクターが魅力的で引き込まれます。 彼らの感情がリアルで、胸が掴まれるような気持ちになりました。 絶望の先にある希望に手を伸ばしたい、そう思います。 ブックマークさせ…
影慈は「もう失ったと思ってた日常」に再接続していって、 光葵は「誰かを背負って生きる重み」に向き合っていく… 2人でひとりになった彼らのこれからを、ずっと見届けたくなりました。
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