二十八話 決意
警察からその日のうちに若菜が殺されていたことの連絡が家にあった。道場生が殺された際の凶器が様々であったこともあり、三週間程前の連続殺人犯の可能性があるとのことだった。
父も母も号泣していた。光葵は枯れ切った涙の代わりに、心が死んでいくのを感じながら茫然自失とした。
「俺は大事なものを守れなかった……。俺は一体何のために生きている。俺が生きていることで無関係な人が巻き込まれる……。これ以上ココには居られない。もうこれ以上失いたくない……」
翌日も心が、魂が刈り取られたような気持ちだ……。肉体はあるが消えてしまいそうだ。
スマホに頂川達からメッセージが来ていた。かろうじて「用事があり、しばらくアジトに行けないかも。ごめん」とだけ返信した。
深夜になり、これ以上周りの人を巻き込まないために家出をすることにした。
家族には手紙を書いた。「若菜が死んでしまって、心の整理がつかない。しばらくの間、旅に出て気持ちを落ち着かせたい。わがままを言ってごめんなさい。毎日連絡は入れるようにします」
「ごめんな……。父さん、母さん。俺のせいで……」光葵はそう呟き玄関から出ていこうとする。
すると父が二階から降りて来た。
「どうした光葵。こんな時間にリュックなんて背負って」
「……若菜が死んで気持ちの整理がつかないんだ。しばらく旅に出て気持ちを整理したい」
「何を言ってるんだ。気持ちの整理がつかないのは俺も同じだ。だが、若菜が事件に巻き込まれた直後にお前を旅に出すことなどできない」父は真剣な声と表情だ。
「父さんの言ってることは分かるよ。でも、もうどうしようもないんだ……」光葵は暗い顔をする。
「お前まさか……光葵までいなくなってしまうなんて俺は耐えられない。絶対にダメだ!」
「父さんが思ってるようなことをする気はないよ。必ず戻ってくる。でも、今は一人でいたいんだ。お願い父さん」光葵は目に涙を浮かべる。
「……。少し待ってなさい」
父は部屋に戻る。少しして、「最近お金を下ろしてきたところだったからな。タンス貯金もかき集めてきた」と十万円を手渡してくる。
「絶対に危ないことをしてはいけない。あと毎日無事かをメッセージでいいから送りなさい。そして気持ちの整理がついたタイミングで家に帰ってきなさい。光葵分かったな?」
「分かった。ありがとう父さん!」と言い抱きしめ合う。
「今日はもう遅い……。旅に出るのは明日にしなさい。宿泊施設で親権者の同意がいるなら俺が書こう。お前には俺達家族がいることだけは忘れないでくれよ」子どもを大切に想っていることが声から伝わってくる。……ありがとう父さん――。
翌日になり、父が母にも話をしてくれていた。母はとても心配して泣いていた。
「光葵、必ず戻ってくるんだぞ。俺達はお前を大切に想っている」父の目にも涙が浮かぶ。
「分かってる。心配かけて本当にごめん。気持ちの整理がついたら必ず帰るよ」
この言葉を言いながら再度誓う。もう大切な人を失いたくない。みんなを守って必ず生き抜いてやる……。




