二十六話 憧れの魔法少女
翌日もアジトに五人は集まった。
「お邪魔します」
光葵は玄関に入る。いい匂いがする。クリームシチューか……?
台所に向かうと予想外の光景が目に映る。ルナ姉が〝三人で〟調理をしているのだ……。
「おかえり! みんなで夕飯食べようと思って、ちょうどクリームシチュー作ってたのよ」
ルナ姉のうちの一人が話す。
「ルナ姉……えっ? えっ? 三つ子⁉」思わず、思考より先に口が動く。
「やだもう、三つ子じゃないわよ! そういえば説明しそびれてたわね。私の固有魔法は《分身魔法》なのよ。だからこうして、手分けして調理してるわけよ」
ルナ姉は微笑みを浮かべる。
「ああ~なるほど。……なるほどですけど、急に三人に増えられるとびっくりしますよ!」
光葵は思わず、ツッコミを入れる。
「うふふ。でも日下部ちゃんの驚いた顔見れてよかった。難しい顔してること多かったから」
「あ、そうでしたか? すみません。色々考え込んじゃってて……」光葵は伏し目がちに答える。
「そうなのね。代理戦争しろって急に言われてもすぐ順応するのは難しいわよね……。そうだ、今後のことも話し合いたいし、今日はここでご飯食べない?」ルナ姉に明るく尋ねられる。
「そうですね。話し合いの場も必要ですし。それにすごく美味しそうな匂いがしてるので、食べたいです」光葵は少し口角を上げる。
「あら。そう言ってもらえると嬉しいわ。腕によりをかけるから、もうしばらく待ってて」
――「さあ、できたわよ!」
美味しそうなクリームシチューとパンが〝三人のルナ姉〟から運ばれてくる。少し、シュールな光景だ……。
クリームシチューを食べながら、全員で今後の動きについて話し合う。
「今後の動きの提案があるんですけど、いいですか?」光葵は手を上げて尋ねる。
「日下部ちゃん、敬語じゃなくていいわよ」ルナ姉は微笑みながら話す。
「そうですか……? じゃあ、普通に話すな。実は悪魔サイドの参加者の中に連続殺人犯がいる可能性があるんだ。俺は前に二回そいつと戦ってる。二回目の戦闘で相当なダメージを与えることはできたんだけど、まだ奴は生きてると思う」つい憤りを感じた表情になってしまう。
「それって三週間前くらいに話題になってた連続殺人事件の?」ルナ姉の声色が暗くなる。
「そう……。そいつが犯人と決まった訳じゃないけど、俺が二回目の戦闘をしてから連続殺人のニュースは聞かなくなった。犯人が逮捕された訳でもないようだし……」
「俺も日下部と一緒に二回目の戦闘の時戦ったんだ。ヤバい奴なんだよ! 仲間ごと爆弾で俺達諸共に殺そうとしたような奴だからな。何しでかすか分からん!」頂川が語気を強める。
「そうなのね……。二人はどう思う?」ルナ姉がカイザーと綾島の方へ顔を向ける。
「代理戦争に無関係な者を巻き込む輩がいるのは捨て置けぬ話だな」カイザーが答える。
「……私もそんな危ない人放っておくのはよくないと思う……」綾島の小さな返答がある。
「そうね。私も同じ意見よ」ルナ姉がこちらに顔を戻しつつ声を出す。
「そう言ってくれて助かる。できれば早めに見つけて倒しておきたい。二人以上で動けるように、二班に分けて捜索したいって考えてるけどどうだろう?」
全員からの同意を得られ、班分けは〝光葵とルナ姉、綾島〟〝頂川とカイザー〟に決まった。
今日からこの二班で〝漆原〟の捜索を始める。
◇◇◇
漆原の捜索中に光葵とルナ姉、綾島は休憩も兼ねて公園で話をしていた。
「綾島ちゃん、危険な敵を探すことになるけど大丈夫? 不安じゃない?」ルナ姉が尋ねる。
「……不安ではある。でも危険な人を野放しにしてたらダメだと思う」綾島は小さく答える。
「そうよね……。いざとなれば私が綾島ちゃんを守るから安心して! 日下部ちゃんもいるし!」
「俺も全力で戦う! これ以上被害を増やしたくないしな!」光葵は語気が強くなる。
「うふふ、頼りにしてるわよ。ただ、無理はしないでね」ルナ姉は微笑む。
「押忍。無理はしないけど、全力は出します!」
「私も戦えるから、協力しましょ! そういえば、綾島ちゃんは何で代理戦争に参加したの? どっちかというと争いは嫌いな感じがするけど」ルナ姉は純粋に思いついた疑問を投げかけたようだ。
「…………笑わないで聞いてくれます……?」綾島は迷った後に言葉を出す。
光葵、ルナ姉が「笑わないよ」と答える。
「……私、小さい頃から『魔法少女』になりたかったの。テレビで悪者をやっつける姿を見て憧れた……。『私の生きる現実』ではできないことをやってた。それがかっこよかった」
「そうだったのね。いいじゃない、魔法少女! 綾島ちゃんなら実際になれるよ」
「……私は魔法が使えたとしても、憧れてた魔法少女とはかけ離れてる……。彼女達は他者のために魔法を使って必死に戦ってる。私は自分を守るために……『復讐』のためにしか魔法を使えなかった……」
綾島の髪が長く表情は見えないが、雰囲気が薄暗くなっていくのを感じる。
「復讐……? 綾島ちゃん……それって……?」ルナ姉がやや焦りつつ問いかける。
「……私、高校に上がってからいじめに遭ってたの。ブスだから気持ち悪いからっていう理由だった……。学校に行く度に水をかけられたり、持ち物を隠されたり、悪口を言われ続けた。途中から不登校になったんだけどね……。代理戦争の契約の話があった時に思ったの。憧れてた魔法少女になれる……それ以上にあいつらに『復讐』できるって…………」
光葵とルナ姉は言葉を発さず綾島の話の続きを待つ……。
「二人とも何も言わないの? 私は魔法を使い『代理戦争に無関係な人』に危害を加えたかもしれないのに……」綾島は声を少し大きくする。
「……綾島ちゃんとは会ってから一週間くらいしか経ってない。でも、綾島ちゃんが自分の復讐のために魔法で人を傷つけてるとは思えないのよね。完全に私の勘でしかないけどね」
「あはは……。そんな風に言ってくれるんだ……」綾島は涙を流し始める。
「復讐自体はしようと思っていじめの主犯の所には行った。固有魔法の《光魔法》で脅したよ。今までしてきたことを後悔させてやろうと思った。でも手を上げることはできなかった……。その子が許しを乞うからじゃない、力を得た途端に自分の気に食わない人を虐げる『同種』の人間になるのが嫌だったから…………」綾島は俯いて言葉を紡ぐ。
「綾島ちゃん!」そう言い、ルナ姉は綾島を抱きしめた。
「ルナ姉、何して……」綾島は急な事態に焦って声を上げたようだ。
「嫌だったらごめんなさいね。でも、あなたが今まで遭ってきた苦しみ、葛藤を考えると今すぐにこうするべきだと思った。今まで本当に本当に頑張ってきたのね……」
「ルナ姉……」綾島はそう言いルナ姉の背中に手を回し、すすり泣く。
――数分が経った。
「ごめんなさい。急にこんな暗い話をして。それと二人とも私の話を聞いてくれてありがとう」
綾島の表情は見えづらいが、どこか吹っ切れたような雰囲気を感じる。
「いいのよ。私こそ言いにくいこと質問しちゃって、ごめんなさいね」
「綾島さん……すげぇ苦労してきたんだな……」光葵は、今の話に影慈の気持ちが共感していることもあって、自然と涙が溢れてくる。
「初めてこんなこと他人に話した。気持ちが楽になったよ……。ありがとね。漆原って人探さなきゃだし、そろそろ行こっか」綾島は立ち上がろうとする。
「そうね……。あ、そうだ。余計なお世話だったらごめんね。もし見た目を気にしてるんだったら、私がメイクを教えてあげられるわ。外見だけで人の価値は決まらないけど、工夫することで変われるものもあると思うの」ルナ姉が優しい声色で提案する。
「……メイクか。考えたこともなかったな。でもブスな私がメイクしても……」
「ブスとか自分を下げるようなこと言わないで」そう言い綾島の長い前髪をルナ姉が上げる。
「えっ! ルナ姉髪は上げないで……」綾島がまたも焦った声を上げる。
「あなたは美しいわ。人の痛みも分かるし見た目も私は好きよ」ルナ姉は真っ直ぐに、綾島の目を見つめる。
「……そんなお世辞はいらないですよ……」綾島は、ルナ姉の眼差しから目を逸らすように下を見る。
「お世辞じゃないわ。『私は』あなたの見た目も心も好き。これは私の気持ち。誰にも曲げられないし、変えられない本心よ」ルナ姉は一切の嘘が無いと瞳で語っているように見える。
「……ルナ姉は不思議な人だね……。ありがと。また時間がある時にメイク教えてくれる?」
「もちろんよ! 髪型も変えちゃうのもいいかもね」ルナ姉は明るく応える。
このやり取りをしている間も光葵は涙が止まらなかった。
夜になりアジトに戻る。今日は二班とも収穫は無かった。
「しばらく漆原探しに時間を使うことになると思う。改めてだけどよろしくお願いします」光葵が丁寧に言葉を発する。
「そんな輩放っておけぬからな。早い所見つけて討取るぞ」カイザーが力強く応える。
その時、机に置いてあった光葵のスマホの画面が通知で光る。
待ち受けを見て「誰だこのツインテールの女の子。日下部の彼女か?」と頂川が聞いてくる。
「ああ。この子は俺の妹の若菜だ。可愛いだろ?」つい顔が緩んでしまう。
「お、おう。可愛い子だな」頂川からどこか焦ったような返答がある。
「他にも可愛い写真がたくさんあるぞ。これ見てくれよ。寝顔がめちゃくちゃ可愛いんだ」
なぜか時が止まったかのように、場が静まり返る。
「日下部……お前はもっとなんつうか硬派な奴だと思ってたぜ」頂川が渋い声を出す。
「日下部ちゃんってシスコンだったのね……」唖然とした様子でルナ姉が呟く。
「何言ってんだよルナ姉、俺はシスコンじゃないぞ……」




