二十四話 亡くしたモノ
光葵と頂川は身体中に傷を負いながらも伊欲と戦っていた。
「頂川、まだイケるか?」
「ああ、イケるぜ! 日下部は環さんの方を助けに行け。こいつは俺が何とかする!」
光葵はこの言葉を聞き実際は一瞬だが〝永久に近い悩み〟を感じた。環を助けに行けば助かる可能性は上がる。だがほぼ確実に頂川は死ぬことになるだろう。俺は二人とも助けたい……!
「無茶承知で言う。二人ですぐに倒して環さんを助ける。それしか全員が助かる道は無い!」
「クソ……やるぜ……!」
「クハハ。仲間思いだなぁ……! 安心しろ。全員あの世で会わせてやるよ……」伊欲は冷酷に言葉を紡ぐ。
光葵も頂川も持ちうる全ての力を出す。しかし、手傷を負い、環にも意識が向いてしまっている光葵達は〝あまりにも弱かった〟――無慈悲に守護センサーが告げる。環の敗北を……。
「頂川……分かるよな?」思わず声が震えているのが自分で分かる。
「俺らは勝てなかった……守れなかった……」頂川は音が聞こえる程、歯を食いしばる。
(このままじゃ全滅だ! 主人格交代して! 僕の魔法で隙を作る。その間に逃げるんだ!)
(みっちゃん!!)影慈が再度呼びかける。
(すまん。後のこと頼む)
――〝主人格交代〟瞳が琥珀色から陰のある黒へと変わる。
「《合成魔法》《氷魔法×風魔法――氷刃》……!」伊欲に風の速力の乗った無数の氷の刃が襲い掛かり、動きを止める。
「おっ。なんだ? こんな技も隠してたのか……」
伊欲は思わぬ攻撃だったのか、氷刃をモロに食らう。
影慈は考える。マナも残り少ない、外にいる清宮を退けて逃走するしかない……!
「金髪君、君頼りの案でごめんね。残りの僕のマナで金髪君の足だけを高速で回復させる。残ったマナは全て《風魔法》で君の速力に変える。だから、僕を背負って逃げ切って欲しい」
影慈は頂川に逃走作戦を切羽詰まった口調で伝える。
「……了解だ」頂川は静かに《雷纏》を足に集中させているようだ。
影慈は限界を超える程のマナ出力で頂川の足を回復させる。意識が飛びそうだ……。
「環さんの付与魔法の効果がまだ残ってるみてぇだ。特に敏捷、マナ知覚アップが今の状況では役に立つ。敵の攻撃には意識を割かず『速力』を上げることにだけ集中できるか?」
頂川が影慈の目を見て真剣な表情で問いかける。
「了解。信じるよ!」
そこに、清宮が止めの一撃を狙いにやって来る……。
「行くぞ、日下部!」
一気にギアをフルに上げた迅雷の如き逃走が始まる――。
頂川、影慈に向けて、水の弾丸、水の大砲が複数回撃ち込まれるも全て躱す。
「こちらを見ずに完璧に躱している。しかもスピードは落ちていない……」清宮は思わず声を漏らす。
このまま行けば、逃げ切れる……環さんの付与魔法のおかげだ……。ありがとう……。
敵影は見えなくなっていき、最終的に人混みのある商店街まで辿り着き、逃げ切れたと判断する。
「金髪君、ありがとう……。今回は本当に助かった」影慈は疲弊もあり、声を何とか絞り出す。
「いや、日下部のおかげでもあるぜ。ありがとな……」
十秒程無言の時間が続く。
「環さん、殺されてたね……」影慈は呆然としつつぽつりと呟く。
「生きてればと思ってたが、灰みたいになっちまってたな」頂川は切ない表情で宙を見る。
「僕達はまだまだ弱いね。守りたいものがあっても見合うだけの強さがないと守れない……」
「……そうだ……守れなかった」頂川は俯いて声を震わせつつ呟く。
「このまま病院へ行こうか。二人ともボロボロだ。マナもほとんど残ってないし……」
「そうだな……。喧嘩してた時によく診てもらってた病院があるから、そこ行こうぜ……」
頂川の先導でその病院へと向かうことになる。道中は無言の時間が続いた……。
医師の診断で、入院して様子を見るように言われ、入院することが決まった。
主人格は光葵に交代した。夜になり、影慈から話がある。
(今回の戦いでは連携もうまくいかず、僕達の力不足もあり負けてしまった。かなり精神的に参ってるよ。でも、いつまでも落ち込んでもいられない。コレが〝戦争〟なんだろうね……)
(そうだな……。クソッ! 俺の判断が……いや、俺達が弱かっただけか……。……ごめん、ごめんな。環さん……)
不意に光葵の頭に貫崎の顔がよぎる。違う……強さだけが全てじゃ……!
(…………こんな方法で強くなれたりはしないかな? 〝魔法戦士〟ってあるよね。そんな感じで、僕の魔法とみっちゃんの近接戦闘を合わせたような形で戦えないかな?)
(……たしかに、その戦い方ができれば幅を持たせれそうだな。そうなると〝人格の共存〟が必要なのかな? メフィさん。聞こえますか?)
すぐさまメフィに呼びかける。
(うむ。話も聞いていた。〝人格の共存〟だな。不可能ではないがかなり難しいと思う。今は一つの肉体に心、魂が半分ずつ入っており、〝主人格を固定〟して安定している状態だ。人格をも半分ずつ共存させるとなると、〝心、魂のシンクロ率〟が相当なレベルに達しないと難しい。二人も常に全く同じことを考えている訳ではないだろう?)
メフィが淡々と尋ねる。
(そうですね。考えや物の見方なども違いますし)影慈が考えつつも答える。
(考え方や感情が同じになれば〝人格の共存〟ができるのか?)光葵が尋ねる。
(全く同じにならなくてもよいが、〝限りなく近い感情、思考〟を二人が持つことが必要だ)
(分かりました。難しそうですね。教えて頂きありがとうございました)影慈が礼を述べる。
(また、何かあれば聞いてくれ)
そう言い、メフィの存在の知覚は消えていった――。
入院中にもマナが回復していくため、《回復魔法》を使いながら光葵と頂川の傷を治していった。結果、医師は驚いていたが、三日で退院することとなった。
「日下部のおかげで早く回復できたぜ。いつもありがとな」頂川の笑顔を久々に見た気がする。だが、いつもの明るい笑顔ではない……。
「こちらこそありがとな。家に顔出して退院したってことは言っておかないとだよな」光葵が確認する。
「俺は日常茶飯事だし、親もあんま気にしてないけどな」
頂川は気にしていない様子だ。
「そうか……。とりあえず一旦家に顔出すわ。合流は明日でもいいか?」
「大丈夫だぜ。また、連絡するな」頂川がそう言い別れる。
◇◇◇
家に帰ると平日の昼間のためか、誰もいなかった。今なら集中してできそうだ。
(影慈、〝人格の共存〟のための〝心、魂のシンクロ率〟を上げるっていうのやってみないか? 〝限りなく近い感情、思考〟になれればいいみたいだけど……)
(うん。でも難しそうだね。曖昧な感じだし)
(そうだよな。共有しやすい感情は……〝仲間を守りたい〟〝強くなりたい〟とかかな?)
(たしかに! それは僕も強く思ってる。早速やってみよう)影慈が気合の入った声を出す。
その後、二時間程〝人格の共存〟に挑戦してみるもできなかった。
(コレ、相当難しいな)光葵が呟く。
(心の底から同調する必要があるのかも。それぞれの価値観もあるしすぐには難しいかもね)影慈が推測を述べる。
(少しずつでも感覚を掴んでいくか)
仲間を二度と失わないように早く強くなりたい。二人の気持ちは同じだった――。




