二十二話 三人連携技
貫崎と離別してちょうど一週間が経った。
その間に光葵と頂川、環は修行を重ねていた。
「環さん、《土魔法》だいぶ使えるようになったんじゃない?」頂川が気さくに話しかける。
「ありがとう! 土魔法で『ゴーレム』を作れるようになったから、これで多少は戦力になれると思う!」環は嬉しそうに答える。
「うんうん! 一緒に修行してる期間も長くなったし、戦う時は練習した連携技を使って戦おう」光葵がそう話した時、守護センサーが反応した。
センサーが示す方向には、昔レンタルビデオ屋だったであろう建物がある。商品なども残ってなさそうなくらいボロボロな印象だ。
「前の戦闘からちょうど一週間だ。いけそうか?」光葵は二人の気持ちが気になり尋ねる。
「俺はいけるぜ」頂川のギラギラした目が光る。
「私もいける。今度は足引っ張らないようにするね!」環の目にも覚悟を感じる。
「……分かった。行こう」
少しずつ建物に近づいていく。途中で気づく。相手は悪魔サイド二人であるということに。
「相手は二人みたいだ。環さん、戦闘になる前に《付与魔法》お願いしてもいいですか?」
「オーケー。《付与魔法――攻撃、防御、敏捷、マナ知覚アップ》」
三人の基礎能力が上がる。
「牽制の意味も含めて、魔法を撃ち込みながら突入したいと思う。いいか?」
光葵は二人の了承を得て一気に突入する。
《氷魔法――氷の矢、氷槍》、《雷魔法――雷槍》、《土の弾丸》三者の魔法が硝子を突き破り建物内に爆裂音を響かせる。
土埃が舞い、中に置いてあった物品が破損し、散乱した店内にて――。
「危っぶねぇ! 急に魔法撃ち込んで来やがって……!」
ブラッドオレンジのオールバックの男が〝薄桜色のプロテクトフィールド〟を展開しながら声を出す。
「伊欲さんの《魔石魔法》で助かった。ありがとう。プロテクトも張ってたけど、思った以上に強力だったね……」女はにこやかに話す。
「おうよ。相手は三人だ。油断せずいこうか……清宮さんよ」伊欲の目に鋭く光が奔る。
清宮と呼ばれた二十歳程の女性は、神聖な雰囲気を纏っている。ミディアムの長さの黒髪。そして、目の色に特徴がある。白銀の虹彩に灰色の瞳孔。思わず吸い込まれそうだ。
「防がれたか……。でもずっと防御し続けることはできないと思う。このまま魔法を撃ち込もう」光葵は頂川と環に指示を出す。
「了解!」二人の言葉と同時に再度魔法を撃つ準備をする。
「敵三人はまた魔法撃ってきそうだな。二手に分かれるか!」伊欲は清宮に提案している。
「そうね。このまま、固まってても的になってしまうし、分かれて攻めましょう」清宮が穏やかに答える。
直後、伊欲と清宮は単独行動を始める。
「バラけたか。俺達は固まったまま攻撃しよう! まずは、動きの速い女の方を狙おう」
伊欲は赤、青、黄などの魔石を《風魔法》に乗せて高速投擲。
清宮は「《水魔法――水の大砲》」を放ってくる。
清宮を狙って全員で魔法を撃ち込んだため、水の大砲は撃ち墜とし、清宮に魔法がぶつかる。
しかし、清宮には攻撃は通っていないようだ。「伊欲さんの魔石には感謝ね。危なかった」清宮の手の上で〝薄桜色に光る魔石〟が砕けている。
「プロテクトが強力だな。手に持っていた魔石とやらの力で防がれたみたいだな」光葵は推測を口にする。
「プロテクトが堅いなら、俺の『新技』が効くかもな」頂川がニヤリと笑う。
他方、伊欲からの魔石の攻撃は《付与魔法×一斉プロテクト》で防いだ。
魔石炸裂による衝撃は強力だったが、付与魔法を重ね掛けし、防御力を上げた光葵達のプロテクトは強固で傷一つ負うことはなかった。
この魔法は連携技として素早く発動できるよう練習していたものだ。
「もう一度、女に攻撃しよう! 頂川は『新技』を頼む!」再度二人に指示を出す。
「おう! 任せろ! 《合成魔法》《雷魔法×貫通魔法――雷貫》!」頂川は貫通魔法に雷を纏わせた強力な直線攻撃魔法を放つ。
「清宮さんよ! あいつらのプロテクトは半端じゃなく堅い。多少のダメージは覚悟で距離詰めるぞ。近づけばやりようはある!」
伊欲は清宮と距離が離れており、大きめの声で伝えたようだ。
「分かった。あと彼らの異常に堅いプロテクトには『何かタネ』がありそう」清宮が答える。
次の瞬間、光葵達の攻撃が清宮に襲い掛かる。
清宮は右手に持った〝プロテクト魔石〟と自身のプロテクトを使い防御する。
しかし、頂川の雷貫はプロテクトを貫通し、清宮の右腕を真っ赤に染め上げる。
「くっ……痛いわ……」清宮は《回復魔法》で治療しつつも足を止めず光葵達に詰め寄る。
このタイミングで付与魔法が切れる。
「環さん、もう一度付与魔法お願いできますか?」
「任せて! 《付与魔法――攻撃、防御、敏捷、マナ知覚アップ》……! 今の形ならいけるよ! 私もいつまでも守られてばかりじゃいられないから!」
「環さん、助かります。もう一度同じ攻撃を……」
話している途中で、敵二人が予想以上に早く接近していることに気づく。
こちらが三人で固まっていれば容易にプロテクトは破れないだろう。だが、近接だからこそ威力のある攻撃もある……。どうする……?
(みっちゃん。迷う気持ちは分かる。環さんの魔法特性的に、二人以上と行動する方がいいと思う。だから分断されないように動こう!)影慈が迷う俺を察して意見をくれる。
「環さんは俺か頂川どっちかと行動して。分断されるとまずい」影慈の意見を二人に伝える。
その時、伊欲の声が聞こえる。
「清宮さんよ。一旦合流だ! 《風魔法――高速移動》!」
伊欲のスピードが一気に上がり、清宮の隣に移動する。その場でごく短く打ち合わせをしている。
「くっ、速い! 攻撃が来るか……。二人とも備えて!」光葵は二人に声を掛ける。
頂川と環が「了解」と返答する。
「二人でいくぜ……清宮さんよ」
「《複合魔法》《水魔法×魔石魔法――水龍咬、三属性付加》……!」
清宮の創出した〝水龍の頭〟に魔石が加わり〝雷風闇〟の属性が付加されたようだ。斑模様となった龍が光葵達のプロテクトに凶暴に噛みつく……。
ビキビキッ! プロテクトが悲鳴を上げる。
「ダメ押しだ……! 《魔石放射――七色》」
伊欲の両手には七つの色の魔石が握られており、そのままプロテクトに向かい〝火水雷風土光闇〟の七属性魔法を放射したようだ。
凄まじい爆音とプロテクトの破損する乾いた音が響く――。
まずい……。そう思った時には遅かった……。清宮が完璧なタイミングで環にタックルし、外まで一緒に転がり出て行った。
そして、光葵と頂川には魔石放射が直撃する……。
「清宮さんの予想通りっぽいな。お前らの半端じゃないプロテクトの堅さは『あの女』の魔法だろ? 近づいてやっと分かったが、プロテクトから感じるマナが跳ね上がった瞬間に女が魔法を発動しているのが見えた」
伊欲は魔石放射で傷だらけになっている光葵と頂川を見据える。
「ガハッガハッ……。環さんと確実に分断するために俺達を狙って魔法撃ってきたのか……?」光葵は伊欲を睨みつつ尋ねる。
「ま、そんなとこだ。三人まとめて当てれる程広範囲の魔法じゃねぇしな。じゃ、悪ぃが死んでくれや」
伊欲は魔石をポケットから複数取り出す。
「諦める訳ねぇだろ……! 日下部、一気に片づけるぞ……!」頂川の目が鋭く光る。




