二十一話 番長の涙
貫崎と離別して三日後。
光葵は頂川と二人で話す機会を作っていた。
「頂川……。前回の戦いの時、貫崎さんの言動で環さんが傷ついていた。でも頂川、お前も何かあったんじゃないか? あの時は環さんもいたし、話したくても、話せなかったことがあると俺は勝手ながら思ってる。どうだ?」
「気にすんなって日下部! ……って言いたいところだけど、正直結構しんどいことがあったんだ」頂川は俯きながら呟く。
「何でも話してくれ、頂川」
「ありがとよ、日下部。あん時俺は派手女を殺したって言っただろ? 殺されかけて、反射的に殺したってよ。でも、実際は派手女に降伏を促した上で、断られて最終的に殺してたんだ。あいつは言ってた。『戦争は殺し合い。そこからは逃げられない。俺は俺の考えで代理戦争に参加した。でもそこに覚悟が足りなかった。代理戦争に参加したからには、殺すことは避けて通れない。殺した感触を覚えたまま生きていけばいい』ってよ」
「そんなことがあったのか……。それは辛い気持ちになるのもよく分かる……」
「だけど、貫崎さんが言ってたこととも重なる部分もあるとも思う。日下部……代理戦争に参加したからには、人を殺さないといけねぇと思うか? 俺は人が殺したくて代理戦争に参加した訳じゃねぇ。降伏という道があることを知って、俺が全員ぶっ倒して降伏させてやりゃいいと思ってた。この考えじゃダメなのかな……? 俺は……俺は……」
頂川は香阪を殺した時のことを思い出したのか、身体がガタガタと震えだす。
「頂川……」光葵は頂川の手を強く握る。
「お前は間違ってない。殺すことを前提にする必要なんてないよ。少なくとも俺はそう思ってる。……それでも、どうしても殺さないといけない時は、みんなで業を背負おう。何もお前一人が背負わないといけないことじゃない。俺達はチームなんだから……」
「日下部……。すまん。ちょっと涙出てきたわ。……俺はあんたとチームが組めてよかった。マジでそう思ってるぜ……」
「頂川……。それは俺もだ。俺も同じことで悩んでた。……今は近くに誰もいない。泣いていいんだ、頂川……」
「はは、悪いな。日下部……。みっともねぇ。番長の名が廃るぜ……」
「そんなことはない。頂川は強いよ。そんな状況でも環さんのことを優先したんだからな」
「……ありがとな、日下部。しばらく泣くわ……」頂川は静かに涙を流す。
光葵は頂川が泣き止むまでずっと傍で手を握っていた。




