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星の代理戦争~Twin Survive~  作者: 一 弓爾
星の代理戦争 前編
18/72

十八話 弱肉強食の是非

 頂川と香阪の戦いの決着から、五分程の時を遡る。


 日下部と貫崎の知覚度が上がったことで、〝見えない攻撃〟を躱せる頻度は格段に上がっていた。


「日下部! 一気に攻めるぞ!」貫崎が号令を掛ける。


「おう!」光葵は氷魔法で風の斬撃の相殺。

 貫崎は〝毒の掌底撃ち〟で美鈴、志之崎を狙う。距離がだんだんと詰まっていく。


「美鈴、ここまで来ると手段は選んでられん。奥にいる女を狙え」志之崎が冷淡に指示する。


「うん。そうだね」美鈴の声に迷いはない。


 微かに知覚できる。美鈴の魔法が環に近づいて行っている。スピードは速い訳ではない。


「日下部! 今は奴らに止めを刺すことを考えろ! 今以上のチャンスはないぞ……!」


「貫崎さん! でも、環さんはあの魔法の感知まではできない! このままだと――」

 ――気づいた時には駆け出していた。飛び込む形で環を巻き込み、美鈴の魔法を回避する。


 その時だった。守護センサーが〝悪魔サイドが一人減った〟ことを知らせる。


「美鈴、二対四では流石に勝てない。離脱するぞ……」志之崎の声が静かに響く。


「香阪さん……。分かった」美鈴は悲しげな表情で天井を見上げる……。


「待て! 俺がさせねぇよ!」貫崎が毒で風の斬撃を溶かし、躍り込む。


「美鈴、壁だ。俺も斬撃の壁を作る!」

 斬撃の壁と〝見えない壁〟ができ、貫崎は弾き飛ばされる。


 直後、志之崎と美鈴は廃墟の壁を破壊しながら、外に飛び出る。


「待て!」

 光葵も急いで追撃するも、無数の斬撃が放たれ防御だけで手一杯だった……。



「日下部……。俺はよ……敗北の次にオブラートっつぅ言葉が嫌いだ」

 貫崎が飢えた獣のような眼差しを向けて、にじり寄ってくる。


「なぜ俺と止めを刺しに行かず、環の方に戻った! どう考えても止めを刺せただろ!」


「貫崎さん、それは環さんを危険な目に……下手したら死ぬ可能性があったとしてもか?」


「当たり前だ。戦いってのはそういうもんだ。生き抜くためなら、あらゆるものを犠牲にしてでも勝たねぇといけないんだよ! 仮に環を助けにいって、結果全滅したら意味ねぇだろ!」


 貫崎の目は語っている。身勝手を言っているのではない。ただ真実を、〝弱肉強食〟の世界とはそういうものだと……。


「あんたの言うことも一理あると思うよ。でもそれは俺の目指したい生き方じゃない……!」


「日下部……。お前はそもそも、敵を殺す覚悟があるのか? 仲間も守って、敵には降伏を促す。なんて考えだったら、お前はすぐにあの世行きだ……」


「それは……。俺はできるだけ、人に死んでほしくない。仲間はもちろん敵もだ……」


「フンッ! そんな考え方してるようなら、すぐにお前は全てを失うことになるぜ。必要なのは己の勝利のみだ。弱肉強食こそがこの世の真理だ!」


「己の勝利にだけ固執して何が守れるんだ⁉ 俺は人が死ぬことを良しとしたくない!」

 光葵の脳裏には影慈が飛び降りた場面がよぎる。


「ハァ……。お前と話していても埒が明かん。お前なら組むだけの価値があると思っていたが、俺の見込み違いだったみたいだな。俺はお前らのような馴れ合いのために組む気にはならねぇ。今をもって抜けさせてもらう」

 既に貫崎は出口に向かって歩いている。


「貫崎さん……!」環が震えながらも呼び止める。


「あ……?」


 肉食動物が獲物を殺す時のような冷徹で、確実な殺意を含んだ眼を向ける。


「ぁ…………」


 環は生殺与奪の権を握られた草食動物のように縮こまってしまう……。



 約十分後、頂川は戻ってきた。見るからにボロボロだ。


「あれ? 貫崎さんは?」頂川は疑問を尋ねる。


「……貫崎さんは俺達とは考え方が違うからチームを抜けた……」光葵が小さく呟く。


「ごめんなさい。私のせいで……」環は目に涙を浮かべている。


「それは違う!」


 光葵は思わず叫ぶ。


「……それは絶対に違う。犠牲の上に成り立つ勝利なんて……。そんなの……そんなの悲しすぎる……」


 自分でも肩が震えているのが分かる。


「……何があったか分かんねぇけど、とりあえず俺の回復してくれねぇか? その間に話聞かせてくれよ」

 頂川は笑顔を向けてくれる。だが、無理して笑ってくれているようにも見える。香阪との戦いで何かあったのだろうか……。


 全員を回復している間に今回の戦いについて共有し合った。


 頂川も貫崎の考えには反対とのことだった。環はほとんどしゃべることもなく、ずっと目に涙を浮かべていた。


 光葵からも頂川からも「環さんは悪くない」と伝えた。

 最終的に笑顔を見せてくれ「修行を頑張って役に立てるようになる」とのことだった。


 光葵は「今でも十分助かっている」と伝えたかったが、むしろ環を追い込むような気がして止めた。



 頂川が香阪を殺したことについては、頂川は「気にするな」と言っていた。だが、目元に涙の跡があった。


 光葵が詳しく話を聞かせてくれと何度か頼んだが、「今のチームの状況で話す話題じゃねぇ。それに俺は大丈夫だ」の一点張りで詳しい話は聞くことができなかった――。


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