十七話 リベンジマッチ
一方、頂川も勝負所を迎えていた。
雷盾を使うことで、貫通魔法を防ぐことができるようになり距離を詰めやすくなっている。
香阪もそれを分かっているため、マナの温存は捨て盾を破壊するべく連続で貫通魔法を撃ち込み続けていた。何度も爆裂音が響く。
「強烈な魔法だな。でもこっちも負けられないんでな!」頂川はジグザグに疾駆し追い込んでいく。
「キャハハ、どっちが強いか勝負ね! やっぱり快感だわ……」香阪は情欲的な声を上げる。
……盾は持って後二回だな。雷盾作るのに相当なマナを使っちまった。だがここで足を止めることはできない。残ったマナを足に集中させる。賭けに近いが――「ココで決める!」
「来な!」ピンクの瞳に鋭い一筋の光が奔る。
頂川の速度のギアが上がる。香阪も順応し攻撃を繰り出す。貫通魔法が一回当たる。
あと、一回分の雷盾の使い方は決定している。距離も十分詰めた。決める……!
一気にもう一段ギアを上げて跳ね上がる、そして天井を蹴って突っ込む。
予想外のギアチェンジ、そして天井からの攻撃に香阪の反応が一秒遅れた――バチバチッ! 激しい雷光が香阪を包む。
「あんた……最後の一撃を……雷盾で……」香阪は雷で麻痺して倒れている。
「ああ……もうマナもほとんど残ってねぇしな。雷盾の『形の維持を乱して』雷撃に変えてあんたにぶつけた」
頂川は息を切らしつつも冷静な返答をする。
「キャハ……ハ。あたしの……負けだ。止めを刺しな……」何の未練も無いように呟く。
「……俺はできれば殺しはしたくない。降伏してくれないか?」頂川は香阪の目を見据える。
「キャハハハ……あんたマジで言ってんの? ……この代理戦争には楽しさ……快楽があると思って参加した。命のやり取りをして……生きてる実感が欲しかった。だから……負けたなら殺されたい……」香阪は狂気に満ちた目でそう訴える。
「……あんた命を何だと思ってんだ?」思わぬ返答に、不可解さの混じった声で尋ねる。
「命……ね……。大層な信条がある……とかじゃないけど。折角生まれ出たなら……楽しまなきゃ損で……しょ。そのために……命を懸けた。だから……ちゃんと殺して欲しい……」香阪の口調から、本気でそう考えていることがひしひしと伝わってくる……。
「あんた戦闘狂かと思ってたけど、どっちかっつうと『快楽狂い』だな……」
頂川は迷う。当たり前だ。いくら代理戦争に参加したとはいえ、いざ人を殺さなくてはならない状況になれば、想像を絶する覚悟がいる。人を殺した人間か、殺していない人間かで、大きな隔たりがあるのは間違いない。死ぬことは本能的に最も避けたいことだ。その最も避けたいことを他人にするのだ。本能が……理性が急激なブレーキをかける。
「……降伏する気はもう無いのか……?」頂川は祈るように言葉を出す。俺は人を殺したくはない……。
香阪は静かに答える「そうよ……」
「…………そうか。……クソッ!」頂川の手は震えてこれ以上の攻撃をすることを身体が心が拒絶している……。
「……あんた、この期に及んで……人を殺したくないとか……言うの? だったら、代理戦争なんかに参加……すべきじゃなかった……。戦争は殺し合い……。そこからは逃げられない……」
「……俺だって分かってる! 分かってるよ! 俺は、頂上目指すことが生きる目的だ……! だから、番長になった。頂上にいる強い奴は周りの奴も守れるからだ! 今回代理戦争に参加したのも、俺が頂上になればもっと守れる奴が増えると思ったから……。でも、今思えばガキみてぇな理由で参加しちまったのかもな……」
「あんたは、あんたの考えで参加した……。そこに覚悟が足りなかっただけ。でも、参加したからには……避けて通れないことよ……。あたしは殺す覚悟も……殺される覚悟もした上で参加した。今のあんたじゃ、あたしに殺されるよ……?」
香阪は麻痺がある程度なくなったのか、急に身体を起こし、頂川目掛けて手をかざす。
咄嗟に頂川は雷撃を香阪にぶつける。
「……それでいいの……。あんたはあたしを殺して、その感触を覚えたまま生きていけばいい。あんたは強いよ。あとは覚悟ね…………」
香阪はそのまま、灰のようになり消えていった……。
「……ふざけんな。勝手に俺を人殺しにしやがって……! クソッ……」
頂川は地面を強く叩く。その手は震え続けていた……。