十六話 野性の勘
その頃、日下部達は美鈴と志之崎の連携に苦しめられていた。
正直、魔法の相性が悪い。氷魔法もある程度は通じるが〝見えない何か〟にすぐに破壊される。毒魔法は風魔法で防がれてしまう。付与魔法で能力も上げているが決定打に欠ける……。
「ウォオオオ!」貫崎が突っ込んでいく。
「ちょ、貫崎さん、声掛けてから動いて!」光葵は急いで氷の矢や槍を放ち援護する。しかし、志之崎の風の斬撃で方向がずらされる。「貫崎さん! 前に出過ぎると、『見えない攻撃』が……」
「日下部、お前は『見えない攻撃』とやらにビビり過ぎなんだよ……!」
――貫崎は元日本代表のテニスプレイヤーだ。幾度となく、危機的な状況には陥ってきている。しかし、それでも常に勝利を手繰り寄せてきた強みがあった。それは〝野性の勘〟だ。ボールを打ち返すと危険な場所、逆に打ち込まれると危険な場所。そのような〝デンジャーポイントの見極め〟が圧倒的に優れていた――。
攻撃が来る……! 直感的に貫崎はそれを感じ取り、〝見えない攻撃〟を躱したようだ。
「えっ! あの坊主の人、美鈴の攻撃避けたんだけど!」美鈴は驚きの声を上げる。
「美鈴、少し離れていろ。俺の斬撃で奴を止める。そこに叩き込め」志之崎が指示を出す。
「了解、シノさん!」敬礼のポーズを取る。
「日下部! 援護しろ! 俺が止め刺してやる!」貫崎が鋭い語気で命令する。
「分かった!」氷の槍、円盤型のカッターを放ち、風の斬撃を相殺する。
貫崎は風の斬撃をも毒で溶かして突き進む。〝見えない攻撃〟が数度貫崎を襲うもギリギリで躱していく。敵まであと三歩といったところだ……。
「まだ使うつもりはなかったのだがな……やむを得ん。《風魔刀――乱射斬》……」志之崎は風の斬撃を〝天井や柱〟に無数に放つ。
「どこを狙ってやがる。コレで終わりだ!」
貫崎が毒の一撃を入れる――そう思った瞬間目の前に〝乱反射しながら襲い掛かる斬撃〟が見える。
「斬撃を『反射』させたのか……!」貫崎は無数の斬撃に切り刻まれ吹き飛ばされる。
「ガハッ! あんな技もあんのか。ったくヤリづれぇな……」
貫崎はプロテクトを咄嗟に張り、致命傷を避けられたようだ。
「貫崎さん! とりあえず回復を……」光葵は貫崎に声を掛ける。
「アホか、日下部。敵目の前にして、んなことできるかよ。それより、お前には『あれ』が知覚できてねぇのか?」貫崎は獣のような瞳で一瞬俺の方を見る。
「貫崎さん、あれっていうと、『見えない攻撃』のこと?」
「そうだ。俺には何となくだが『知覚できている』。相当近くにないと気配すら掴めんがな」
「いやそれでも、すごいよ! やっぱり何か〝物体〟がある感じ?」純粋に疑問を尋ねる。
「そうだな。そんな印象だ。おい環!」貫崎が声量を上げる。
急に名前を呼ばれた環がビクッとする。「どう致しましょう?」言葉遣いも変だ。
「日下部と俺の『マナの知覚度』を上げる付与魔法は使えるか?」
「マナの知覚度……やったことはないですけど、やってみます……。魔法はイメージが重要だ。マナの存在を意識し、その知覚度を上げる……!」
環は小さく呟きながら、魔法を発動する。
白い光が光葵と貫崎を包む。そして〝マナの知覚度〟が上がったことを感覚で理解する。
今ならうっすらとだが、今まで見えてなかった、〝知覚できなかった〟少女の魔法が認識できる。
「ありがとう、環さん、貫崎さん。俺にもうっすらと知覚できるようになったよ!」
「それはよかったです!」環が嬉しそうに明るい声を出す。
「フンッ! こっからが勝負所だ! 行くぞ!」貫崎が気合を入れる。