十五話 団体戦争
「日曜だし、朝から昼にかけて修行してたけど、いや~もう既に一日分疲れたぜ……。あと、貫崎さんの魔法強力過ぎて近くで戦いづらいっすね」頂川が素直な物言いをする。
「それは、お前らが合わせろ。俺の戦い方は《毒魔法》《身体強化》だ」貫崎は言い切る。
「貫崎さんできれば、俺らは巻き込まないで欲しい」光葵は少し強めの語気で伝える。
「そうですよ。私は基本支援に徹しますけど、二人を巻き込んだりはしないで欲しいです」環は真面目な口調だ。
「……だからチーム組むのは嫌だったんだ。善処はする……ただし、俺の邪魔はするなよ」
「分かりましたって。でも、貫崎さんもう少し協調性持たないと連携取れないですよ。マジで」光葵は釘を刺すように伝える。
「日下部、何度も言わすなよ……。俺は別に組みたくて組んでる訳じゃない。場合によっちゃすぐに抜けるからな」貫崎から取り付く島もない返答がある。
「……そんなこと言って、後で困っても知らないですよ」半ば説得は諦めた。
そんな時だ、守護センサーが反応する。近くに参加者がいる。四人全員の顔色が変わる。
五十メートル圏内。〝林〟の方から反応があるようだ。どっちサイドの参加者かは不明だ。
「見に行く……ってことでいいか?」
光葵が声を掛ける。全員が頷き、相手を確認しに行く。
近づいていく中で気づく……相手は悪魔サイド一人であるということに……。
気づいた相手が素早く逆方向に駆け出していくのが守護センサーで分かる。
「追うぞ!」貫崎の掛け声で全員一斉に走り出す。
追っていくと林を抜け、三階建ての廃墟が見えてきた。
「とりあえず、近づくぞ」貫崎が声を出す。
次の瞬間、直線的に魔法が飛んでくる……! 轟音と共に林にある木が複数吹き飛ぶ。
「日下部この魔法……」頂川が緊張と怒りの混じった声を出す。
「ああ……おそらくあの派手女の《貫通魔法》だろうな。でも、妙だな『廃墟の三階』から魔法が飛んできたように見えた。まだ五十メートル圏内にも入ってないはずだけど……」
「ん? ということは……なんでだ?」頂川が首をかしげる。
「可能性の話だが、俺らは『おびき出された』のかもな……」貫崎が静かに呟く。
「と言いますと?」環が素直に聞く。
「悪魔サイドがチームを組んでいて、あの廃墟を拠点にしていた。そして、悪魔サイドの一人が林を移動していたところに、偶然俺ら四人が通りかかり、拠点までおびき出した……。まあ、推測の域を出ない話だがな」貫崎は淡々と分析結果を伝えている印象だ。
「なるほど。逃走している途中にスマホなんかで『天使サイドを見つけたことと、大体の方角』を伝えておけば、林にいる俺らに攻撃が可能ということか……」光葵は情報を整理する。
「フンッ! まあ、そんなところだな」貫崎は廃墟の方を見据えながら答える。
「多分だけど、マナを溜めて貫通魔法を撃ち込み、一網打尽にしようとしてる気がする」光葵は危惧している事態を伝える。
「じゃあ、もう突っ込んでいくしかねぇな!」頂川が今にも飛び出しそうになる。
「待て! 頂川! 今突っ込んでも的になるだけだ。俺に作戦があるんだけど――」
全員に作戦の内容を伝え、同意をもらう。
「《付与魔法――防御アップ》これで全員の防御力が強化できました!」環が手短に伝える。
「ありがとう環さん。じゃあもう時間も無いと思うから、みんな行くぞ!」光葵が号令を掛ける。
四人全員でプロテクト魔法を前方に重ねるように張る。そのまま廃墟に向かって突撃する。
すると間もなく、貫通魔法がこちらに向かって連続で飛んでくる。
幾度となく、轟音を響かせながら貫通魔法を防御し続ける。
――もうすぐで廃墟の入口だ。そこで気づく。守護センサーの反応によると、悪魔サイドは合計〝三人〟いるということに……。
「入口に敵がいる可能性がある。プロテクトを展開したまま突っ込むけど、油断しないで!」
「日下部、お前に言われなくても分かってる」貫崎が少しイラッとした様子で答える。
廃墟の入口をぶち抜く。そこには、少女と侍のような男がいた。
「ここまで突破してきたか……。美鈴、距離を取りながら戦うぞ」静かな声で指示を出す。
「分かった! シノさん!」対照的に美鈴は元気な声で答える。
「みんな! あの女の子は前に戦ったことがある。『見えない何かで攻撃』をしてくる固有魔法だと思う。俺もよく分かってないんだけど……」光葵は仲間に注意を促す。
その直後、頂川が叫ぶ。
「みんなごめん。俺の我儘でしかないんだけど、三階にいる女は俺にヤラせて欲しい。前にボコボコに負けちまって、リベンジがしたいんだ!」
「……チッ。これ以上しゃべってる暇はねぇ。お前が思うようにしろ」貫崎は短く伝える。
「恩に着る!」
頂川は《雷魔法――雷纏》を発動する。身体能力が引き上げられる。
「頂川の進む道をこじ開ける! 環さん能力強化を。貫崎さん一緒に戦ってください!」
すぐに、環による《付与魔法――攻撃、防御、敏捷アップ》が他の三人に行われる。
三人は同時に攻撃を仕掛ける。光葵は氷魔法による矢を複数放つ。頂川は《雷槍》を投げつける。貫崎は泥状の毒を掌底打ちのように放つ。
対して、志之崎が《風魔刀》による複数の風の斬撃で氷の矢、毒の進行方向をずらす。頂川の雷槍は〝見えない何か〟に弾かれた。
――だが、この乱戦状態があればちょうどいい……。
志之崎と美鈴から階段への動線上に分厚い氷壁を創出する。
「今だ! 頂川!」光葵は叫ぶ。
「ありがとよ! 日下部!」そのまま頂川は階段を駆け上がる。
「あっ、待って!」美鈴が叫びながら止めようとするが、〝見えない何か〟が氷壁を破壊している間に頂川は既に上の階に行っていた。「もう……!」腕を振り怒っている。
「ここからは、俺達三人が相手だ……!」
◇◇◇
頂川は一気に三階まで駆け上がる。そこには因縁の相手がいた。
「よう! 会いたかったぜ……!」頂川はギラついた目をしながら口角を上げる。
「誰が来るのかと思ってたら、あんたか」香阪は拍子抜けといった顔だ。
「あんま、なめんなよ!」頂川は雷を迸らせながらジグザグに迫る。
「キャハハ! スピードは上がってるみたいね」
貫通魔法で直接頂川を狙いつつ、適宜地面にも撃ちこみ爆風で吹き飛ばしてくる。
「チッ! 相変わらずうぜぇ攻撃だな」
雷槍をぶん投げてやりたいところだが、多分貫通魔法の方が出力は上だろうな……。貫通魔法……攻撃力に全振りしたような魔法だぜ……。
「こっちまで辿り着けるかしら?」香阪は挑発的な笑みを浮かべる。
「じゃあ、こんなのはどうだ? 《雷牙》!」〝対の牙状〟の雷を放つ。
「二方向からの攻撃ね」
香阪は両手で同時に貫通魔法を撃ち込む。雷牙は形を崩し霧散する。
「おら! 拳が届くとこまで来たぜ!」頂川が一気に詰め寄る。
「へ~迅いね! でもあんたが届くってことはあたしも届くってことだから」
プロテクトが一枚香阪との間に張られる。頂川の攻撃はプロテクトに阻まれ一瞬遅れる。
その一瞬の隙に、頂川の顔目掛けて貫通魔法が放たれる。
「あっぶねえな」
顔に当たる寸前で雷を纏った拳で方向をずらす。直撃こそしなかったが、勢いで二メートル程後ろに下がる。後ろに置いてあったロッカーが弾けるように消し飛ぶ。
「キャハハハ! やっぱり『壊す』のは楽しいわ! この破壊衝動、相手の命を握る実感はクラブでアガってる時とか、薬物性行してる時では味わえない……!」
「品のねぇ女だな……。人の趣味に口出す気はねぇけど、法律は守れよ」
「でも、喧嘩好きそうなあんたにも分かるんじゃない? 破壊衝動だとか相手の命を握ることの快感、愉悦が……!」香阪は恍惚とした表情で頂川に問いかける。
「たしかに喧嘩は好きだぜ。でも破壊だとか相手の命を握ることを快感とは思わねぇな。喧嘩はお互いフェアな条件でヤリ合って、どっちが強いか決めるもんだ。一方的な暴力は好かん」
「あら、そうなのね。少しは分かってもらえるかと思ったけど。あんたとは合わなそうね」
そう言い、溜めていたマナで貫通魔法を連続で撃ち込んでくる。
頂川は雷を迸らせジグザグに躱していく。
しかし、貫通魔法の〝物量〟で少しずつ躱しきれなくなってくる。そして正面から貫通魔法がぶつかる。轟音が響き渡る――。
「キャハハハ! 直撃ね。もう終わりかしら」香阪は余裕の笑みを浮かべる。
バチバチッという音と共に頂川の前には大きな盾が構えられていた。「《雷盾》」
「あんたをぶっ倒すために修行してきたからな……貫通魔法は強力だ。近づくには、対抗できるくらいの防御力が必要だしな」ニヤリと白い歯を見せる。
「やるわねぇ! 盾ごとぶち抜いてあげる……」香阪は新たな〝破壊対象〟に心躍らせているような表情だ。
「やってみろよ! さっさとぶっ倒して日下部達の所に戻らせてもらうぜ」