表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星の代理戦争~Twin Survive~  作者: 一 弓爾
星の代理戦争 前編
14/72

十四話 獣のような男

 頂川と環、三人でチームを組んでから五日が経った。修行は順調だ。


 そして、連続殺人事件も漆原との戦闘以降起こっていない。このまま何も起こらなければいい……そう願う。


 光葵はいつもの修行場所に向かう。その途中で守護センサーが反応した。どっちサイドの参加者だ? もしくは頂川達か……?


 近づいてくる――そこに見えたのは、スキンヘッドで身長が二メートルはあると思われる、獣のような危険な雰囲気を纏う男だった。年齢は三十歳程だろうか。思わず圧倒される。


「おいお前……天使サイドだろ?」一言その男が話しかけてくる。


「お、おう。そうだ。あんたは一人か?」男は天使サイドだと守護センサーが知覚させる。


「そうだ。まあ、そもそも誰かと組むつもりもないけどな」男は淡々と答える。


「え? 組むつもりがないのか? 代理戦争は複数人が戦うものだ。チームを組んで戦う方が勝率はかなり上がると思うけど」光葵は思わず不思議そうな声で尋ねる。


「フンッ! 雑魚が増えても戦いにくくなるだけだ……」


「たしかにあんた強そうだもんな」

 直感的に感じる。この人は仲間にしておく方がいい。


「聞きたいんだけど、雑魚じゃなかったらチーム組んでくれるのか?」


「……俺の足を引っ張らない奴だったらな……」獣のような眼光が鋭く光る。


「この辺りは人通りが少ない。もう少し広い所に移動して、一度手合わせしてくれないか?」


「……構わないが、手加減はしないぜ」



 人の滅多に来ない広場にて。

「じゃあ、ヤラせてもらう。勝利条件はどうする?」光葵が尋ねる。


「勝利条件なんてもんはない……俺を満足させられるかどうか。それだけだ」


「そうか、分かりやすくて助かるよ」

 あくまで、自分の方が格上って感じだな……。


「《身体強化×プロテクトフィジカル》……」

 まずは、相手の出方を見るために身体全体にプロテクトを纏わせて戦う。この男はどんな魔法を使うんだ……?


「……来ないならこちらから行くぞ。《身体強化》」男は短く言葉にする。

 見ているだけで分かる。とんでもない身体能力と闘争心を持っている……。


 男が突撃してくる。凄まじい敏捷性だ。でも、ここはあえて引かない……!

 男のワンツーを躱す。一撃もらうだけでも致命傷になりそうだ。そのくらいの気迫がある。


「躱してばかりでは勝負にならんぞ」

 男のパンチからの組み立てで廻し蹴り、膝蹴りが放たれる。


 光葵はパンチと廻し蹴りは防御しつつ、膝蹴りは躱す。そして、肘打ちを脇腹に打ち込む。


「ガッ! 武術経験者か?」

 男は一瞬唸り声を上げるも、すぐに息を整える。


「空手をしている」短く返す。


「そうか……分かった。ここからは固有魔法も使いながら戦わせてもらう」

 男の両手から不気味な〝紫の泥状〟の何かが溢れてくる。滴り落ちる紫の泥はアスファルトを溶かしている。


「やけに不気味な魔法だな。毒魔法か?」


「そうだ。《毒魔法》だ。触れるとそれなりにダメージが出るぞ」ドスの利いた返答がある。

 〝それなり〟と口では言っているが、明らかに危険な物だと身体が警鐘を鳴らす。


「こちらも固有魔法を使わせてもらう」そう言い互いにじりじりと距離を詰める。


 光葵が先手を打ち、氷の矢を放つ。それを男は躱し、毒の泥を光葵目掛けて〝広範囲〟に振り撒く。

 光葵は毒の泥が当たらない位置に下がる。地面が溶ける音が聞こえてくる。あんなもん当たればプロテクト魔法も溶かしそうだな……。


(みっちゃん。氷魔法主体で戦う方が相性いいと思う。氷を纏うこととかできそう?)影慈の声が聞こえてくる。


(プロテクト魔法みたいに身体全体は難しいが、部分的ならできそうだ。やってみる!)


「《氷魔法――アイスグローブ》……!」自分の魔法だからか、冷たさはさほど感じない。

「行くぞ!」光葵は再度詰め寄る。ただし、毒を防ぐために氷魔法を主に使いながらだ。

 飛んでくる毒に対して、氷壁を創出したり、氷弾を撃ち込み相殺する。


「フンッ! やるな……」男は最短距離で俺の位置に来るために氷壁を一瞬で溶かす。

 毒の強度も変えられるのか。にしてもすごい溶解力だな。近づかれ過ぎると危険だ。手を上げる動作と共に地面から複数の氷の槍を創出する。


「色んな芸当ができるんだなぁ!」そう言いながら、男は構わず槍を蹴散らし向かってくる。


 右腕の振りが見える。また毒を振り撒く気か……そう思った直後、男は左手に溜めていた毒を〝霧状〟にして噴射してきた。


 思わぬ攻撃に防御が遅れる……。まずい、毒を吸ってしまった。目、鼻、喉が焼けるように痛い。右手の毒の攻撃までもらうと致命的だ……。

 氷壁で自分を囲むか……? いや、その壁をも溶かして攻撃してくるだろう。だったら――。


 緊急回避――自分の足元から氷柱を三メートル高速で創出する。結果、カタパルトのように打ち上げられる。この数秒の時間が欲しかった……。


「今度は大道芸か? 下りて来た所を狩ってやるよ……!」男の声だけが聞こえる。


 狩れるもんなら狩ってみろ……! 空中にいる間、目に手を当て急速で《回復魔法》による目の治療を進める。相手はおそらく目が見えないと思っている。その隙を衝く。


 ――回復完了。男の挙動が確認できる。右手で俺の顔を狙っている。あいつ殺す気か……?

 だが関係ない。光葵は身を捻じり男の右手を躱し、後頭部にアイスグローブによる体重を乗せた一撃を叩き込む。


 男が数メートル吹き飛ぶ。光葵は受け身をとり、何とか着地し男を見る。

 気絶しているのではないかと思っていたが、ゆらりと立ち上がっているのが目に入る。


「お前……強いな。強ぇ奴は好きだぜ……」男はゆらゆらとこちらに近づいてくる。


「まだやるのか?」真っ直ぐな声で伝える。


「いや、十分お前の強さは分かった。チームを組もうぜ……」

 相変わらず獲物を見る獣のような目だ。だが、少し友好的になっている様子が伺える。


「おう! 俺もあんたと組めれば心強い」

 ――ふと思い出す。「今、別で二人の参加者と組んでるんだ。そこに加わる形になるけどよかったか?」


「あ? 聞いてねぇぞ! ……まあいい。そいつらはどんな奴らなんだ?」


「説明してもいいんだけど、近くにいると思うから今から紹介してもいいか?」


「……分かった。直に見た方が早いだろうしな」



 ――そして、いつもの修行場所に向かう。既に頂川と環は修行をしていた。


「ごめん、今日は色々あって、修行来るの遅くなった。実は仲間が一人増えそうなんだ」


「おう! 日下部。その人か?」頂川が見上げながら話す。


「こんにちは! 日下部さんともう一人の方!」環は今日も明るい挨拶をする。


「コイツらだな。お前が言ってた仲間ってのは」男は相変わらず、獣のような威圧感だ。


 不意に頂川が大きな声を出す。「あれ? あんたテニス日本代表だった貫崎狼牙かんざきろうがさんじゃない?」


「……そうだ」貫崎はどこか面倒くさそうな返答をする。


「え~! すげぇな! 本物だぜ!」頂川はテンションが上がっている。


「貫崎さんっていう名前だったんだな。俺は日下部光葵です」

 正直、テニス日本代表だった人とは思ってなかったので驚いている。ただ、貫崎の反応からして〝有名人〟のような接し方をされるのは嫌なんだろうと思い淡々と済ませた。


「私は環繁葉です!」環も同様の考えから、短く挨拶をしたようだ。


「俺は頂川剛一だ! 貫崎さん、よろしくお願いします!」頂川は興奮を抑えきれていない。


「……日下部、コイツらは強いのか?」獣のような目が俺を捉える。


「強いですよ。それぞれに得意分野があるので、全員戦闘が強いという訳じゃないけど」


「そうか……」貫崎は頂川と環を値踏みするように見る……。「まあいい。俺も組もう」


「そっか! よかった! これからよろしくお願いします」光葵は胸を撫で下ろす。


「だが、俺が組むに値しないと思った時点で抜けるからな」脅しではなく、実際に行動に移すということが目から伝わってくる。


「分かった。そうならないことを信じます」光葵は貫崎に笑顔を向ける。「あと、今から修行しようと思ってるんだけど、貫崎さんもどう?」


「俺がそういうのに参加する柄と思うか……?」やや苛立った口調で返答がある。


「柄とかじゃなくて、お互いの戦い方を知る為にも必要と思う」真っ直ぐ目を見つめる。


「フンッ! まあいい。戦い方が分かってなくて足引っ張られるのも御免だしな」


「はは。理由はともかく一緒に修行できるのは助かる!」



 その日から三日間貫崎も交えて修行を行った――。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ