十話 容姿端麗な男
本日、日曜日も頂川は予定があるため一人での行動になる。
午前中はひたすら眠っていた。
回復魔法だけでは治りきらなかった昨日のダメージを回復させる。
◇◇◇
夕方~夜にかけてランニングも兼ねて広範囲を探してみることにした。
人通りの多い所、逆に少ない所を走って回る。
そして、人通りの少ない道を走っていると不意に守護センサーが反応した。
昨日に引き続き参加者に会えたか……。
緊張が走る……。
(みっちゃん、もし連続殺人犯だった場合に備えて、調べておいてほしいことがある――)
影慈が声を出す。
参加者の方に向かっていくと、男が女を路地裏へ案内している姿が見えた。
どっちが参加者なんだ……?
「ちょっと待っててね。すぐ戻るから」
男の声が微かに聞こえる。
路地裏から二十代半ばの男が出てくる。
サラサラした長めの黒髪。色白の肌で、目は大きく優しげ。一言で表すなら〝容姿端麗〟だ。雰囲気から水商売をしてそうな印象だとも感じる。
――そして、お互いが天使サイドと悪魔サイドだと気づく。
「さっきの女性あんたの彼女か?」
光葵は少し低い声で質問する。
「そうだよ。この辺に美味しいバーがあるから案内してたんだ」
男は柔らかな笑顔を向けてくる。
「そうだったんだな。俺この辺詳しいんだけど、バーなんてなかったけどなぁ……もしかして、お兄さん悪い人?」
光葵は淡々と尋ねる。
――この問いの理由は先程影慈に「マップアプリで周辺に何があるか確認しておいて欲しい。何となくこの辺りは知ってるけどお店とかもなかった気がする」と聞いていたからだ。
容姿端麗な男は柔らかな笑顔を貼り付けたまま少しずつ近づいてくる。
そして、紺のコートの内ポケットに手を入れたかと思うと、急にサバイバルナイフで切りかかってきた。
咄嗟の状況に驚きつつも反射的にナイフの一撃を躱す。
路地裏に行った女性に対して〝逃げろ〟という意味を込めて「ナイフ出してきやがった!」と叫ぶ。
女性は急いで出てきて現在の状況を見て悲鳴を上げながら逃げ出した。
「あ~あ……今日の獲物だったのに……」
男は子どもが遊び足りない時のように不満げに呟く。
「あんた、ここ最近騒ぎになってる連続殺人犯か?」
睨み付けながら問いかける。
「……君、もしかしてそのために代理戦争の参加者探してたの?」
驚いた様子で返答がある。
「だったらなんだっていうんだ……?」
やや苛立ち混じりに聞き返す。
「ははは! まさか、正義の味方にでもなるつもりだったのかい? 傑作だ!」
男は腹を抱えて笑っている。
「それは肯定したっていう理解でいいんだな……!」
笑っている姿を見ているだけで、はらわたが煮えくり返りそうだ……。
「《身体強化》……。そのムカつく笑い顔を止めろ……二度と笑えないくらいボコボコにしてやるよ!」
男はキョトンとした後、「ははは! 『面白いこと』を言うね」と含みを持たせた言い方をする。
光葵の怒りのボルテージは更に上がる。
戦闘態勢をとり、そのまま突っ込む。
男はサバイバルナイフと《身体強化》《土魔法》を使い応戦する。
「クソッ! 攻め切れねぇ……!」
光葵は苛立ち混じりに言葉を吐く。
男の戦い方は距離感の調整が絶妙に上手かった。
《土の弾丸》での距離間の調整、近づけたとしてもサバイバルナイフでの攻撃にキレがある。
(みっちゃん! 落ち着いて!)
影慈の声で我に返る。
(ムカつく気持ちは分かるよ。でも感情任せに戦っても勝てない。頭を冷静にして!)
(……影慈、すまん。怒りで頭使えてなかった。ありがとう)
頭に上っていた血が引いていく。
「ん? 何か落ち着いた? もっと色んな表情見せて欲しかったのに……」
男はふざけたような口調で、残念そうな顔をしている。
「黙れ……ご期待通り色んな『俺』を見せてやるよ。《プロテクトグローブ、レッグ》。さっきまでと同じと思うなよ……!」
光葵は、土の弾丸を躱しつつ、適時プロテクト魔法で防いでいく。
先程とは打って変わり、距離を詰めるまでの速度が大幅に上がる。
「ちっ、いい動きしやがる」
男が動揺した顔をする。
あと一歩で攻撃範囲に入る――。その瞬間足が止められる。
なんだ……? 目を向けると小さな泥人形二体が足を止めていた。
「邪魔だ!」
蹴り壊す。
男の方を見ると予想外の物が飛んできていた。〝手榴弾〟が二つだ。
「そんなもんも持ってるのか」
プロテクト魔法で二つを包む。そして追撃のために突進する。
すると、手榴弾の内一つは〝閃光手榴弾〟だったようで〝光はプロテクトを透過〟した。
「ウッ! 目が眩む……」
数秒間動きを止め、身体全体をプロテクトで覆い防御態勢をとる。
――目を開けた時には男はいなくなっていた。守護センサーも反応していない。
「ああ……クソッ! 逃がしちまったのか……!」
思わず壁を殴る。
「でも、顔は憶えたぞ……。絶対に見つけ出してやる!」
光葵は執念の炎を瞳に宿す。