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恋せぬ神々…福、きたらず?! ~神さまだって恋したいんです!  作者: 麒麟
第1章 ☆彡 南に輝く星あれば~
8/18

☆大黒…動く!☆彡

原案・テーマ:Arisa

storyteller:Hikari

南斗は国道沿いに建つコープ病院を前に、入るかどうか逡巡していた。

梅雨の合間の薄曇り空。ガラス張りの外壁が、どこか冷たげに光っている。

出資金一口4000円。出資金総額43億。売上145億。地域に根差した医療をモットーに、か。

香澄が言っていたことを思い返しながら、建物を見あげた。

「根差してる、ね……」

低く呟き、手のひらで顎をさすった。

誰かが嘘を交えている。

その嘘で誰かが泣いている。

少なくとも…気丈に話してはいても香澄の心は涙で曇っていた。

心に振り続ける雨には、誰かが傘をさしてやる必要がある。

あ~許されるならこの大地事更地に、大昔のように沼地にしてやりたい。


七福神の一柱・大黒天。またの名は、大黒南斗。

かつては荒ぶる破壊をも糸縄内神。

いまは、人の縁を、福を見守る側にいる――

が、いま目の前にあるこの「福」の色は、どうにも妙に映る。


医療が商いに染まる構造。

見える部分は健全だが、裏には静かに伸びていく影があるようだ。

設置のときに掲げた思いは、動いていく時間の中で何かに埋もれたのかもしれない。

最初は、小さな町中で必要とされる診療所だったのに…。

南斗はぶらりと駐車場の方へと足を向けた。別に車を停めているわけでは無い。

香澄の話によると、この駐車場側にある勝手口で流行病の受付をしていたらしい。

寒さ厳しい中で、発熱している患者が何十人も待機させられていた。

流行病だとわかると病院への侵入も許されずに帰される。

対応に苦慮していた当初ならいざ知らず、収束に向かっていく中でもその対応は変わらない。

政権に対する批判をする一方で補助金は最大限に貰う精神。

患者が出れば、病床は一杯だと断ればいいと理事という役職にいるものが声高々に言う。

それも当たり前のように吹聴し、政府の対応が遅いのが原因だと吹聴する。

病気には縁がないとはいえ、さすがに働く人にとって迷惑な発言だと感じる。

自身は医療従事するわけでもなく、いわゆる安全な場所にいて金を貰うだけ。

どちらかと言えば略奪しているのかもしれない。

未知のウイルスに対する対応。誰もが苦慮し、対策できるまでに多くの命が消えていった。

日本だけではなく、世界規模で拡がったそれは、様々な課題を投げかけていたのかもしれない。

駐車場に入ってきたタクシーにクラクションを鳴らされて、南斗は会釈して道を開けた。


通りに戻り、少し離れたベンチに腰を下ろした。

足元に置いたボクサーバックには、例の「相談用」の酒がまだ残っている。

「……香澄は言っていたな」

診療所が消えていく。中小の病院が耐えきれず倒れる。

そのたびに、地域医療は『吸収』されていく。

そして…信頼ではなく、信用でもなく、お金がものを言うようになる。

生協という枠組みはどの分野においてもそうなのかもしれない。

まっとうにすればするほどに大変な経営となるが、それを支えてくれる出資者がいる。

そこにあるポリシーに人は集まっている。

それを疑わない組合員という人に誘われて組合員は増えていく。

一定規模になれば、そこにあるかもしれないおこぼれにしがみ付くように組合員になる。

小さく、吸収しやすい存在があれば、それを飲み込む。

安心・安全・無添加をうたっていたポリシーは消えていったようだ。

素材品質よりも価格。それも他社、納品業者が責任を負わされる。

知らなかったとうたう予定のつもりなのだろう。

何かの生協が台頭を表せば、別の生協も引っ張られるように大きくなるのかもしれない。

無論、生協に限ったことではない。

M&Aにあまり縁がなさそうな職種の中で、目立たないうちに静かに進行していく。

実際に小さな診療所を閉鎖するときに、「送迎をするので問題が無い」と説明があった。

医療における高齢者負担上限がそれを可能にしていた。

町のお医者さんにはできなくても…というところなのだろう。

『医療生協』という枠組みの中に取り込まれた患者たちは、いつのまにか囲い込まれていく。

送迎という言葉が、便利という楽さが、考えるというものを無くしていく。


送迎バスが巡回する。

デイサービスが併設される。

家族にとって便利に見える、が、そこにはもう「自由な選択肢」は残っていない。

一度この流れに乗れば、外れるのは困難になる。

さらに――

その中に、「金になる仕掛け」があるようだ。

ターゲットは独居老人。持ち家を持つ者たち。

最初はごく自然にサービスが提供される。

デイケアで送迎が始まる。生活相談が入る。

そして、独り暮らしの不安に付け込む言葉が混ざり始める。

何気の無い日常会話の中に、何のことはない夢が混ざる。

残された家は…これからの生活費は…と。

そこに「家を貸せば治療費が助かりますよ」という話が持ち上がる。

その人の持ち家は、建設会社を通じて賃貸物件として貸し出される。

この建設会社は、「建設を請け負う会社が賃貸等するのは愚の骨頂」と言っていたようだ。

この中小零細建築会社社長の発現が隠れ蓑にになるとは誰も思っていなかっただろう。

賃貸業を行う建設会社を揶揄する一方でこそこそと賃貸業を行う。

よもやそんなことになっていると思われないのだろう。

ひとは性善説に生きている。騙されるまでは…。

この建設会社は、ダミー会社をつくり、そこが借り上げる形を作る。

家賃収入は最初の内はきちんと入ってくる。契約更新がなされ、少しずつ搾取が始まる。

入院に伴い、自己負担分が家賃から支払われ、改修費が引かれていく。

それらはすべて建前。

だが――家主負担の「改修」が何度も行われる。

名目は『バリアフリー対応』や『安全基準の見直し』。

工事をしている時はまだしも、工事をしている事実もない。

実際に住んでいる人たちにすれば何の不自由もない。

手抜き工事に、再工事が必要な細工、それらはすべて家賃から回収される。

そして、立替をしていると報告が入る。

最終的には、名義変更を巧妙に誘導する形で進められる例も少なくない。

相続段階で家族が気づいたときには、既に多くが失われている。

という構図が生まれている。

「ちょっと柴山という理事はどこにいるのよ、年寄りを騙して詐欺じゃない!」

半狂乱に叫びながら、警備員に追い出される女性がいた。

「そんなに言うのなら詐欺をした証拠をもってくてください」

と妖怪ぬらりんひょうんと見紛う老人が警備員の影から言った。

どうやら件の男のようだ。

営業妨害という名目の中で引きずり出すようにして女性は歩道へと追い出された。

「……悪どいな」

南斗は吐き捨てた。

だが合法スレスレ、あるいは完全に合法。小悪党の挟み込み方が絶妙なのだ。

「悪質だ」と言い切るには資料が足りず、指弾するにも証拠が足りない。

そして、こうした構造の隙間に、多くの「福」が沈んでいく。

福とは廻りまわるもの。闇に沈み消え去れば、その世界から福は消えていく。

消えた福が何処にいくかは…定かではない。がこの世界からは減って逝くのかもしれない。

「金儲けに徹するなら、もう少し上品にやってほしいもんだ……」

苦い笑みが漏れた。

自分はいま、七福神の一柱に数えられているが――その本質は変わることのない荒ぶる神のままだ。

不意に拳を握りそうになるのを、意識して止めた。

だが、やはり一番難しいのは恋の方だな。

あの夜の辨財天の影が、脳裏にちらつく。

恋も、福も、人の縁も――いずれも渦に呑まれやすい。

渦の中に自ら飛び込むか、外から引き上げるか。

南斗はまだ、その答えを見出せずにいた。

そんな思考の中――


「あっはっはっ! わしはまだまだ元気じゃぞい!」

陽気な声が響いた。

振り向けば、杖をつきながらも軽快に歩く高齢者がいた。

禿げあがった頭をぺしぺしと叩きながら、杖をステッキの様に振り回し、軽やかにタップを踏んだ。

南野極(みなみのきわみ)。寿老人のいまの姿があった。

薄紫の長衣に、白い長髪をなびかせている。隠すのかばれたいのか…どっちだろうか。

「健康診断で入院する人って少ないですからね、もぅ」

と傍にいた看護師がプンスカ言う。

「健康診断はイベントだろう」

「えっ?」

「健康を確認する為のものじゃ。悪いところが見つかったら早い目に直せるように」

「…それは間違えてないですけど」

「まぁ、わしは趣味だから。それに、真紀ちゃんの声掛けだしのぅ」

病院のガラス扉の向こうへ、にこにこと消えていった。


南斗は、それをしばらく見送った。

「……まったく、逞しいもんだな」

小さく呟き、腰を上げた。

この医の渦を、もう少し覗いてみる必要がある。

そして――

自分のこの胸のわだかまりにも、少し向き合っていかねばならない。

…消えた福は、どこへ行くのか。

「誰かが拾って、咀嚼して、また“別の形”で吐き出しているのかもな」

南斗はぼそりと呟いた。風に運ばれたその声は、誰にも聞かれることなくベンチの脇に消えた。

ふと、通りの先に立つ一人の青年が目に入った。白衣姿の。

何というか偽りの姿にしか見えない。

どこかに違和感があった。

医師とは思えない姿勢。ぎこちない靴の履き方。

何より目だ。恐怖と、諦念と、どこか無力感が滲んでいた。

南斗は立ち上がり、ボクサーバッグを担ぎ直した。

もう少し、潜ってみるか。

香澄が「消えてしまった信頼」だと語ったもの。

信じた人を裏切ることでしか成り立たない構造。

誰かの健康の上に、誰かの贅沢が立っている仕組み。

生協という顔をして、内側には資本と同調圧力と、そして吸収の意思だけが渦巻いている。

「この目で見てやるよ。おまえたちの“福”ってやつを」

南斗は歩き出す。足取りはゆっくりだが、確かだった。

あの雨の夜、香澄が小さな湯飲みにこぼした、透明な涙の味。

それが、今も喉の奥にしみている。


とりあえず、南野が入院するようだし…少し頼んでみるか…

基本的に 水曜日更新の のんびり進んでいきます。

ご意見、ご要望あればうれしいです。

アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。


※誤字脱字の報告・?の連絡ありがとうございます。

 慌て者につきご容赦いただけるとゆっくりですが成長していきます。

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