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恋せぬ神々…福、きたらず?! ~神さまだって恋したいんです!  作者: 麒麟
第1章 ☆彡 南に輝く星あれば~
5/18

☆大黒…話を聞く!☆彡

原案・テーマ:Arisa

storyteller:Hikari

香澄は、南斗を見つめた。

不思議な感じがする。会って間もない人に身の上を話すことが…それなのになぜか落ち着いている。

どうして話す気になったのだろう。煎餅一枚にそんな魅力はないのに…。

コトッと修羅が二人の前の湯飲みを置いた。ほんのりと香る梅のにおいがどこか懐かしく思えた。

「無理に話す必要はないと思うよ」

「えっ?」

「…戸惑っているみたいだから…」

修羅はそう言うと微笑んだ。

この男も不思議な空気感をまとっている。

そこにいるのに、どこか浮いているような──

いや、むしろ、自然に馴染みすぎて気配を消しているような。

それとも、美音と馴染んで話しているせいで安心しているのだろうか。

「そのおじさんが悪い人かもしれない。と不安を抱いている…とか」

「…そ、……そんなことは…」

「いやあって、普通だから。うちのマスターもだけど、口巧みにしてどこかで売り飛ばすかもしれない」

修羅がニヤッと笑うと、香澄は南斗を見た。

確かにそれくらいのことはできそうな気がしてくる。

チャラい乗りに、若作り。

腰からぶら下げた鎖のチェーンは、何年モノだろう。

そんなの今どき、中学生でもつけないよ──そう思いながらも、なぜか安心している自分がいた。

あれ…普通? それって……

香澄は修羅をじっと見た。

余計なことを言ったか、と顔を明後日の方向に向けて、頭をかく。

「教えてください」

「話さなくていいの?」

「……いじわる」と香澄は目に涙をためて見せた。

涙はすぐにこぼれそうで、でもこぼれなかった。

計算か、本心か。どちらにしても、女は強い。明らかにコントロールできている。

修羅は苦笑がこぼれそうになるのを嚙み殺して我慢した。

女性というものは──何歳でも、自分の武器の使い方を知っているらしい。

苦笑を漏らしながら修羅は、流し台に手をついて短くため息をついた。

「ウソ泣きでも、君の年齢でしたら、おじさんたち困るから。特に、君の横は」

「えっ…」と言われて、横を見ると南斗が蒼褪めている。以外に肝の小さなおじさんかもしれない…。


「詐欺にあっ…と、これは俺が知らない話だった」

修羅は苦笑しながら言葉を止めた。

「詐欺!」と南斗がくいつく。

「はい、うるさくするなら退場してもらうよ」と島が南斗を睨んだ。

「あなたも盗み聞き?」

「残念ながら、無理やり聞かされた方じゃないかな」

修羅は、手で口元を隠しながら答えた。さて、どう説明するのが…と思案する。

思案しても正解など初めから存在しない。必要なのは、信頼以前の問題だ。

彼女の心が悲鳴を上げているのは騙されたことで心を痛めた身内がいることだ。

そこに真実があるかどうかがわからない。

何よりも詐欺を実証するのは難しいのだから。

だからこその……復讐が存在している。

すべてを奪われたから、すべてを奪う。そうたどり着く人もいる。

そうできずに泣き寝入りする人もいる。

どちらの選択も、周りがとやかく言うようなことでは…ない。

「ホント、意地悪ですね」

「ん? あ、ごめんな。少し考え事をしていた」

修羅は、頭を掻きながら香澄をみた。

修羅は後ろの調理台に腰を預けてからため息を一つこぼして見せた。

「人が――

修羅は言いかけて、一度言葉を止めた。言葉を選んでいるのが何となく伝わってくる。

そのぬくもりに、香澄がそっと視線を寄せる。

「人が、自分のことを話すときってさ」

修羅はふっと息を吐いて、少し遠くを見るような目をした。

「必ずしも…信頼があるからってわけじゃないんだよ」

香澄は黙って耳を傾けた。

南斗もなぜか口を閉じたままだった。

「むしろ、関係が浅いからこそ話せるってこともある」

「関係が…浅い?」香澄が繰り返す。

「ああ。相手をよく知らないから、逆に話しやすい。そういう経験はない?」

「…あったかもしれない…けど」

「傷を見せても、あとで関係がこじれたり、生活に支障が出たりしないって無意識に気付いているんだ」

香澄は、ゆっくりと頷いた。なぜこの人はこんな話をしてくれるんだろう…と思いながら。

「安全な通りすがりに、ポロッと心をこぼす、ということをしている」

香澄はまっすぐに修羅を見た。睨みつけたというべきか。図星だった。

「それに、こういう場所とか、雰囲気も大きい。静かで、干渉しすぎなくて、温かいものがあって……」

修羅は、続けた。言葉に合わせて、さっき置いた湯飲みを指差す。

「こういうの、一つ一つが、心のガードを溶かすのかもしれない」

「……煎餅、一枚で?」

「いや……あれはサービスだろ……たぶん」

と修羅が南斗をみると、首振り人形のように南斗は何度も頷いた。

そこに生まれる笑いが、それまでの重苦しい空気を和らげた。

「そして…たぶんこれが真実だと思う」

修羅は言葉を区切り、少しの間、目を閉じて黙った。

「カタルシス欲求」

「えっ?」

「トラウマや後悔が深いほど誰かに聞いてもらうことで、気持ちや考えを整理することができる」

「…どうして」

「不安だからだろう。それがあるから、人は犯罪を躊躇できるのかもしれない」

修羅は、どこか遠くを見るように視線を泳がし、少し寂しそうに言った。

「それに、騙されたのが自分じゃなく、『大切な誰か』だったときってさ……怒りよりも、悔しさと罪悪感が君の中で広がっていく。守れなかったことへの、どうしようもない気持ちが、心のどこかでずっと燻り、違うものを生み出していくのかもしれない。だから…意識する、しないに関係なく整理したくなる」

香澄の喉が、ごくりと鳴る音がした。

「ふとしたときに、あふれるそれを、誰かに聞いてほしいのかもしれないね」

しん、と静けさが場を包んだ。


南斗はポカンとしていた。キャパ一杯になっています。そんな顔で…。

けれど、その奥に、ほんの少しだけ「自分が選ばれた」という実感が灯っていた。

美音は「そうなんだ」と呟き、修羅を一度見てから香澄を見た。

でも、それだけでは、南斗に話す理由にはならない。

初対面で盗み聞きをして、話を聞かせろと言う。

言い方は悪いが、「キモイ」の一言で処理されても文句は言えないだろう。

イケオジだからと言って、キモイ行動が許されるわけでもない。

考えるほどに、違うでしょう…と美音は思ってしまう。

けれど、その「違和感」さえも、話す側にとっては意味があるのかもしれない。


「そういうときの相手って、誰でも…と思いながら、案外…選んでいるんだよ」

「…そうなの?」

「言葉や行動ではなく、相手の佇まいや空気感、視線のあり方…自分の痛みを茶化さない空気を持っているというのも大切な要因かも…それには、大黒はうってつけかもな」

修羅の言葉に南斗はドキリとする。

「まぁ、俺の勝手な推測だけどね」

修羅はそう言って笑った。けれどその声の端には、どこか本気の優しさが滲んでいた。


基本的に 木曜日更新ののんびり進んでいきます。

この話は気まぐれ追加になっています。


ご意見、ご要望あればうれしいです。

アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。


※誤字脱字の報告・?の連絡ありがとうございます。

 慌て者につきご容赦いただけるとゆっくりですが成長していきます。

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