☆南斗のラプソディ~? ☆彡
原案・テーマ:Arisa
storyteller:Hikari
南斗は固まった。
香澄からこぼれた涙にオロオロする。
周りを確認するようにキョロキョロとする。
本当にこの爺さんは挙動不審だ、と美音は小さくため息をついた。
香澄の緊張が緩んだのだろう。
ずっと気を張っていた。
もしかすると…頼む相手違いに気が付いてくれるかもしれない。
だとした――肩の荷が下りる。
あれ…? 荷を担いでいたわけ…?
「ど、どうかした?」
南斗は、香澄に囁くように尋ねた。
できるだけ周りに聞こえないように気を使う。自然と周りに視線を巡らせてしまう。
あんみつを作った青年も、美音も気付いていないようだ。
この距離で気付かないことに、冷たさを感じてしまう。
「…あ、ごめんなさい」
「!」
南斗は、視線だけで周囲を確認する。誰かに聞かせるわけにはいかない。
この状況で考えれば、間違いなく、自分が虐めている構図だ。
男というのは誤解を受けやすい。体がちょっとごついだけで、世間的にはイケメンの部類のはずなのに。
一層のこと髭でもはやすか。威厳が生まれるかもしれない。
そうしたら、この状況は……何も変わらないだろう。いまさらだ…。
「えっと…」
「初恋もしたことのない初心な少年じゃあるまいし…」
うつむき加減で、一生懸命答えを探している香澄の向こうから美音が声をかけた。
南斗は、心臓が口から飛び出しそうなほど驚きながら美音を見る。
「いやだって…」
「(まぁ一方的に相談を…願いか…持ち掛けられる側だもん…仕方ないか)…聞くなら乗りなよ」
美音は、カップの中で揺れる自身の姿に向かった言うように言った。
「言葉って、怖いですね」
修羅は、珈琲を口に運びながらポツリとつぶやいた。
奥にいたのだから、香澄の話を聞いていたのかもしれない。
言いえて妙だけど…自分の言葉が自分に間違いなく戻ってきている。
面倒だと、修羅の客だから、修羅に戻すことはできる。
でも泣きだしてしまうほど緊張していた香澄を見ていると他人事にするのは…と思う。
乗り掛かった舟…そういえば旅連れをしてきた。
日本という国を見て回った。
幾つもの争いがあり、多くの命が奪われるのを見てきた。
どちらにも言い分があり、そこに存在する正義を盾に、関係のない命を巻き込んでいた。
争いの無意味さを知るのはずいぶん後のことだったようだが、それでも争いが消えることはない。
人という存在は、争いの中で生きている。
話し合いで解決できる人がいる一方で、暴力というものの中で生きている人たちがいる。
暴力をたより、弱い者を凌辱するものがいる。
なんでもかんでも、ハラスメントいう言葉で片付けることには疑問を持つが、その多くは、力を持てない人たちの最後の砦だ。その砦の向こう側にあるのが安息であれば…。それを使うことはやぶさかではないのだろう。でも、それがいつの間にか、ただの凶器になっているときもある。
相手を脅し、悦に入る者はそれをそういう風に使うのだろう。
人の醜さは、神々の素直さに比べるものでもないが、腹黒さでは語れないのかもしれない。
「神妙な面持ちになっていますよ」
「…そう? じゃあ、助けてくれる?」
「人はどうしようもなくなった時に、神や仏を頼るのかもしれませんが」
「が…?」
「私が、神や仏に見えますか?」
「見えない。どちらかといえば悪魔…かな」
「………」
「…えっ、落ち込む?」
美音は、苦笑しながら修羅を見た。修羅の後ろで島が声を殺して、肩を揺さぶって笑いに堪えていた。
「ごめんなさい」
香澄から零れた言葉に誰もが息をのんだ。
「何もないですから、大丈夫」
…大丈夫じゃない。――美音は、膝の上で拳をぎゅっと握りしめながら呟く香澄を一瞬だけ見た。
視線を外し、修羅を睨んでしまう。そのいまにも殺しそうな眼光を修羅は涼しい表情で受け止めいた。
誰かにじゃなく…自分ですべきだと飲み込んだ。
「よかったら…だけどさ…聞かせてくれるか? その涙のわけ」
意を決したように南斗が口にする。どこか照れ臭く、香澄を見ることはできていない。
「でも…」
「できることは…結構ないかもしれないけれど…言葉を吐くことで落ち着けることもある」
とりあえず南斗は断言してみた。
すでに格好をつけているゆとりがない。
はっきりといって、自分を頼ってくれる女の子なら見方をしたい。
公平を期すべきだという声がないわけでもないが…一見より常連のほうがいい。
そんなものは当たり前のことだ。
人がえこひいきをするのなら、神や仏だってえこひいきをしたい。いや袖触れ合う縁だ。
遠隔参拝をいう気はない。それでも、遠隔よりは来てくれる相手のほうがかわいいものだ。
よし話を聞こう!
直々に話を聞いて何が悪い。
要は責任を果たせばいい。それだけのことだ。
問題があるのなら、香澄が可愛いからいけないのだ。
北斗は、香澄の方へと向き直した。
「もしかして…少し聞こえていました?」
ぼそりと香澄が言う。
「あ…はい…美音が泣かしているところあたりから…」
正直に答えて、南斗は身を引いた。美音の視線に、そこに込められている殺意に。
いや、本当にその視線で焼き殺されそうな気すらする。
もしここが異世界転生だったのなら、確実に殺されているだろう。
そう思うくらいに体が固まっている。
「フリーズ反応って初めて見た気がするよ」
と修羅が美音に声をかけた。
「何それ?」
「蛇に睨まれたカエルとか…恐怖や圧倒的なストレスを受けたときに、「逃げる」や「戦う」ではなく、身動きできなくなる反応。…トラウマとか。まぁ、美音さんが、こちらの厳ついのをビビらせたことがあるとか?」
修羅は肩をすぼめながら言った。
――そんな経験はあったかもしれない…
美音は、へらっと口元を緩めて笑った。
そのやり取りの間、壁際に追い詰められた鼠のごとく香澄から目を離せない北斗がいた。
窮鼠猫を噛む…という状態だろうか。島が苦笑を浮かべながら頭をかいている。
「少しだけなんだけど…聞こえてきた…」
「盗み聞き…趣味悪いですね」
「…! …はい、その通りです。申し訳ない」
南斗は頭を下げた。年端もいかない少女に素直に…。
その様子に、美音が小さく目を見開いた。
昔の彼なら、こういうときに苦笑いで済ませていたはずだ。
別に自分が助ける必要もない…そんな態度がありありとしていた。
そもそも自己中心的が神や仏の在り方だ。
気が向けば助けてくれる。
願いをかなえることもある。それ相応の対価も求める。
誰にでも公平、そんなことは存在しない。
万物の創造主であろうとも、見えないところにはなにもできない。
手助けをしてあげたくても…だ。
見ないうちに何があったのだろう。
何があれば…彼は変われたのだろう。
「いえ、本当は私もわかっていますから…ごめんなさい」
香澄も頭を下げた。
南斗は頭を掻きながら恐縮をする。
不思議な少女だと思う。まっすぐに目を見据えて、自分の言葉をぶつけてくる。
「でも……きちんと、話をしてもいいですか?」
「わ…僕の方からお願いするよ…聞かせてください」
南斗は、もう一度頭をさげた。
美音は修羅を一瞥して、やれやれとばかりに首をすくめた。
少し大げさに両手を上げ、空気をほぐすように言った。
「どら焼きと、梅昆布茶でも出そうか?」
「…そういうのあるの?」
「俺ではなく、マスターのおやつだけど」
修羅が当然のように答えると、島は苦笑しながらカウンター奥からどら焼きを一つ取り出した。
まな板の上に包装のまま置いた。包み紙の音が、静かな空間にやさしく響いた。
あとはしろ──という無言の抗議に、美音も修羅も肩をすくめ、苦笑で応えた。
島もまた、カウンターを離れ際に小さく笑みを残していく。
基本的に 木曜日更新ののんびり進んでいきます。
今回はイレギュラー追加です。 笑
ご意見、ご要望あればうれしいです。
アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。
※誤字脱字の報告・?の連絡ありがとうございます。
慌て者につきご容赦いただけるとゆっくりですが成長していきます。