第2章 第5話 ☆再会は突然に… ☆彡
原案・テーマ:Arisa
storyteller:Hikari
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南斗は、生協病院の前で 警備員に羽交い締めで連れ出される女性を眺めていた。
騒ぎ立てるおばさんを警備員がなだめながら連れ出していく。
詐欺だ、と叫びながら、
加害者の名まで挙げている。
その名前にため息が漏れた。
つまり…立証できないことをいいことに堂々とその行為を繰り返している。
「クズが……」小さく毒づく。
証拠がなければ、ただの被害妄想 として切り捨てられる。
それも入院中の高齢者となればなおのことだろう。
今回は、医療生協病院の理事と建築会社の社長が絡んでいる。
ただ、あとひとつピースが必要だと思う。騙すにしても、何かが足りていない。
結局、詐欺なんて、騙された方が『信じていた』と証明されるだけで、泣かされることになる。
騙した側が何も残さなければ、法は見て見ぬをふりをする。それが、正義の限界かもしれない。
病院の敷地外に連れ出された。「これ以上騒ぐなら警察を呼ぶ」と吐き捨てるように…言われて。
距離が近ければ、駆け付けてぶん殴ってやりたい衝動に駆られる。
が、ここで問題を起こすのは得策ではない。
南斗は空を見上げ、ため息をついた。
「信じたいって気持ちに漬け込むくせに、あとには何も残さねぇ。だから証明なんて難しい」
怒ってるのは、その無力さだ。
救いたかった誰かが、ただ泣き寝入りして終わることに。
「どうでもいいが…金儲けに徹するなら、もう少し上品にやってほしいもんだ……」
苦い笑みが南斗から漏れた。
「あっはっはっ! わしはまだまだ元気じゃぞい!」
聞き覚えのある声に南斗は視線を向けた。
駐車場から正面受付に回ってくる年寄りに見えない老人が綺麗な女性に支えられて歩いている。
「大根役者か」
南斗は苦笑をしながら寿老人の動きを目で追った。
何がどこでどう間違えて老人になったのか。
老け顔ではあるが、アイツの設定は35歳。そこで止まっている。
数百年前、浮気がたたって、反省の意味を込めてした丸坊主に髭面がもとになっているとはいえ…。
何を目的にしているのか…まぁ、情報を分けてもらうには丁度いいだろう。
◇◇◆◇◇◇◇
極は、駐車場に車を入れるとサイドミラーを畳み、フロントを整えた。
フロントミラーに映る己の顔に眉間の皺が深く入っている。
「うん、どう見ても若造には見えんか」
ぽつりと呟き、サイドシートに置いたハットを手に取る。
そのままでは年寄りぽくないことは自覚している。だから朝から頭を丸めてきた。
不思議なことに髪の毛がないだけで、やたらと年寄りらしく見えるものだ。
「南野さん…」
「おう!」
「頭…」
「似合うか?」
「笑っても?」
「……はは…帰る」
「ま、まってまって…何?」
きらりは慌てて極の腕をつかんだ。
「馬鹿な年寄りのほうがいいかな?って…馬鹿がよくわからんが…」
「……ごめん。なんか聞いた?」
「すっごく年上好きのために一肌脱いで恋をする!ってやつだ」
極は、そう言ってにやりと笑った。
「ここからは、バカ芝居に合わせろ」
「…うん」
きらりは、小さく頷くと、胸の奥がトクン!となったことに戸惑っていた。
正面玄関のほうへと歩いていく道中、陽気な声が響いた。
「あっはっはっ! わしはまだまだ元気じゃぞい!」
陽気な声を響かせ、あたかもきらりにもたれ掛るようにふらっとする。
杖をつきながらも軽快に歩く高齢者を演じるように、極は少し足元をふらつかせる。
禿げあがった頭をぺしぺしと叩きながら、杖をステッキの様に振り回し、軽やかにタップを踏んだ。
その横できらりが、プンスカな表情を見せた。
そのとき、正面玄関がわずかに騒がしくなった。
ひとりの女性が、警備員に羽交い締めのようにして連れ出されている。
「詐欺よ! あの病院の理事、詐欺やっているのよ!」
「お客様、落ち着いてください!」
「騙されたのよ、うちの母が! 返してよ、あの家!」
声が敷地内に響き渡った。誰もが足を止めて一瞥する。
歩道によろめきながら倒れる女性を助ける人はいない。
警備員も何か汚いものでも見るように視線だけを残した。
足元がおぼつかないフリをしていなければ…計画と現実の狭間で極は苛ついていた。
計画なんか後でどうとでもなるだろう。が、ぐっと我慢をする。
歯がぎりぎりと音を上げている。
駆け寄って系便をぶん殴りたい衝動に駆られた。
とはいえ、それでは騒動は収まらない。逆に騒動になる。
「南野さん?」
極の視線に気が付ききらりが囁くように声をかけた。
極は、空を見上げて、つぶやく。
「信じたいって気持ちに漬け込む。くずっが…」
その呟きに殺意が混ざった。一瞬とはいえ、きらりは息をのんだ。
病院の受付では、極ときらりが待機していた。
「お名前と生年月日をお願いします」
「おお……わしの名前か? 名前ならたしか、なんじゃったかな……」
極は受付を担当するスタッフに尋ね返すようにみた。
その勢いに受付スタッフが苦笑する。
「え~っと…きらりさん、お願いします」
「…あ、はい、こちら、南野極さん。生年月日は……」
きらりは一瞬、極を睨みつけたが、すぐに手帳を広げながら読みあげ始めた。
あえて名前の読み仮名を間違えておく。
その一瞬の躊躇が微妙な空気を生み出していた。
極の演技が妙に堂に入っていて、リアルな“高齢者あるある”になっていたのだ。
待合はすでに多くの高齢者が座っていた。
「ここって健診受けるだけでお米がもらえるんでしょ?」
「私、商品券が届くって聞いたわよ」
「お年寄りに優しい病院って、ありがたいわねぇ」
その聞こえている会話に極をきらりを見た。
「噂でしかないし、配られてないよ。公式には」
「…非公式?」
「勝手にしているというよりも…貰っているのは、独居の一戸建て持ちだけ」
「善意…という枠の中に収めるわけだ」
「収めるわけね」
きらりは、通りかかった事務長を睨みつけた。いまにも飛び掛かりそうなほどに苛立っている。
黒い粒子がふわりと浮かび、件のその男を追っていく。
(悪意が意志を持つ…か)
黒い粒がいくつか事務長を追いかけていくのを眺めながら極はため息をついた。
問題といえば問題が発生した。
悪意はゴキブリ並みに嫌いだ。
きらりはそっと極の耳元で囁いた。
「……やっぱり、ちょっとおかしいよ」
「だろうな」
「健診でこんなに特典があるという噂が出るなんて、変だよ。しかも、本人確認も甘いし……」
「でも…証拠はない。噂は噂…そこを見に来たんだろう? 俺たちは」
極の声は低く、しかし芯があった。
きらりは小さく頷きながら、改めて彼の横顔を見つめた。
その姿に、ただの“変装老人”ではない、どこか確かな信念を感じていた。
そして次の瞬間、受付の奥で誰かが名前を呼んだ。
「南野さ~ん。こちらへどうぞー」
「は~い」ときらりが返事をする。
「行ってくるさ…待っていてくれ」
「大丈夫?」
「健診ではころされない…まぁ、何か病気が出るんだろうな。というか、この後…胸を押さえて倒れるから、あとはよろしくな」
「……えっ、ま…」
極は、指先できらりの口をとめた。
「不正は暴けても、グレーは裁かれない…それでも?」
「………」
きらりは静かに頷いた。
「だったら、進まないとな」
極はふらふらとしながら診察室へと進んでいった。
基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。
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