ついに正体がバレてしまった
その日、家に帰ってお兄に相談をした。
お兄は笑いながら言う。
「だから、そんなこと気にしなくってもいいんじゃね? 」
挙げ句の果てに、
「女々しい奴だなぁ」
なんて大笑いまでされた。
お兄に聞いたことが間違いだったと思ったが……そんなお兄、実はすでに爵位持ちらしい。魔物討伐での功績を讃えられ、男爵の地位を持っている。
(お兄のくせに……)
顔を歪める私に、お兄は言う。
「それなら、明日ダミアンに言ってみるよ。
エルザを魔術師団に入れたいダミアンのことだから、秒ですっ飛んでいくだろう」
そして、彼は大声で笑っていた。
(他人事だと思って……)
だが、アリスさんやお兄と話しているうちに、今の私に残された道は魔術師団しかないと思い始める。あんなに嫌だった魔術師団だが、今は唯一の希望だ。スタンと並べるような地位を身に付けられるよう、私は頑張らねばならない、
◆◆◆◆◆
次の日の早朝、私は一人で仕込みをしていた。
店頭に並べる推しケーキや焼き菓子はもちろん、オムライスやビーフシチューの仕込みもある。……とはいえ、いつものように魔法陣を描き、全自動で料理を作る。
朝が弱いアリスさんは、基本的に朝寝坊だ。今や私も店舗の鍵を預かっており、一人でせっせと仕事をしている。
そんななか……
「エルザ!」
私を呼ぶ声が聞こえ、外を見る。すると、そこにはいつものブルーグレーの騎士服を着たスタンが立っていた。早朝なだけあって、ファンに追いかけられたりはしていないようだ。
私は大慌てで店にスタンを招き入れ、再び鍵をかける。そして改めて彼を見た。
ブルーグレーの騎士服に、白銀の髪。透き通るような肌に、整った顔立ち。彼のその青色の瞳は不安そうに輝き、子犬のように私を見ている。
「す、スタン!? 勤務中なのにこんなところに来たら……」
その瞬間、スタンにぎゅっと抱きしめられる。その大きい体で力いっぱい。
そして、スタンは私を抱きしめたまま、耳元で消えそうな声で告げた。
「エルザが……正規の魔術師団員になるって……」
私は慌てて答える。
「お、お兄に相談したけど、まだ入るとは決まってないよ? 」
そして、付け足した。
「正規の魔術師団員には、厳しい採用試験があるみたいだし」
「そんなの、顔パスでしょ? 」
スタンの声は、かすかに震えている。
「僕は……エルザがもう危険な目に遭うのは嫌だった。
でも、僕がエルザを勝手に弱いと決めつけているだけで、エルザは本当はすっごく強かった」
きっと、スタンは不安なのだろう。私だって不安だ。だが、私がスタンと並べるようになるためには、これしかないと思う。
「僕、エルザを応援するよ。
魔術師団で、頑張ってね!」
スタンはぱっと明るい顔で笑う。その顔を見て、真っ赤になったのは言うまでもない。
スタンが、私を正規の魔術師団にしたくないことは知っている。もちろん、私の身の安全を気にしてくれているからだ。だが、その気持ちを押し殺してまで私を応援してくれている。スタンのためにも魔術師団で頑張り、必ず爵位を手に入れようと誓った。
「危険な時は、絶対に僕が助けに行くからね? 」
「うん!」
「ずっとずっと、一緒だからね」
「うん!」
笑顔で笑い合い、おでこをこつんと合わせる。すると、スタンが我慢できないとでも言うように、切なげに告げた。
「エルザ、キスしてもいい? 」
こくりと頷くと、スタンは愛しげに私を見る。そして、遠慮がちに唇を重ねる。軽いキスは、どんどん深いものへと変わっていく。
「スタン……もうだめ……」
「駄目じゃない」
彼は甘くそう吐くと、また唇を重ねる。こうして私は、頭が真っ白になるほどスタンの甘い口付けを堪能した。
キッチンからは、魔法陣が勝手に調理をしている音が聞こえてくる。甘い香りが店内に漂っている。そんななか、不意にガチャリと扉が開く音がした。スタンは私から唇を離し、奥の扉を見つめた。
そして……
「エルザ!? 」
アリスさんの、悲鳴のような声が聞こえた。
迂闊だった。いくら人がいないといっても、アリスさんがここに来る可能性は高かった。アリスさんはスタニスラスのファンであり、私と彼との関係を知られたくなかった……
「エルザ……何してるの!? 」
アリスさんは震える声で再び私を呼び、頬に手を立ててその場にしゃがみ込む。
「な……なんで……スタニスラス様がいるの!? 」
沈黙が訪れる。私は、アリスさんに何と声をかければいいのだろう。
ずっと前から、いつかこんな日が来ることは想像していた。だが、私は現実を見ず、この日をずっと避けてきた。
「ご……ごめんなさい、アリスさん……」
愚かな私は謝ることしか出来ない。だが、アリスさんは半ばパニックを起こした顔で私を見る。
「エルザ!? あんた、スタンさんと付き合っていたんじゃないの!?
どうしてスタニスラス様なんかと……」
そんななか、店の扉が激しくノックされる。慌てて扉を開けると、そこには赤茶色の髪を輝かせたダミアンが立っていたのだ。
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