第8話 魔力爆破
「どうして我が怒っているのか、分かるよな?」
「お皿割っちゃったから……?」
「違う」
「窓割っちゃったから……?」
「違う」
「ドア壊したか──」
「違う!! 屋敷のことに対して我は怒ってなどいない」
普段優しい人を怒らせると怖いって、聞いたことあるけど、どうやら本当らしい。
出逢って始めて私を叱るクレベスの怒った顔は、舐め回したいほどかわいい。
特に怒り慣れてないからか、頑張って言葉を選ぼうとしてるけど、そもそもどう叱ればいいのか困る顔が可愛すぎます……。
「『魔力爆破』を起こした事だ」
「魔力、爆破?」
おそらく、さっき私の体で謎の爆発が起きたことについてなのかな?
「まさか……魔力爆破を覚えずに魔法を使ったのか?」
「えーー? ハィ」
「はぁ……魔力爆破っていうのはなぁ──」
クレベスの話を要約すると──
『魔力爆破』というのは、魔法に規定量以上の魔力を使うと起こるらしい。
今回、私が使った魔法は『威嚇魔法』と言うらしいが、そういえばあくまで使うのは『微量な魔力』と本にも書いてあった。
私がやってしまった事を例えると、小さいコップに川の水を全て入れようとしているみたいなものらしい。
しかも、魔法と魔力では『コップから水が溢れて、コップに適量の水が残る』なんてことは起こらず。
本当に無理矢理全ての水を小さいコップに入れようとする為、結果的にコップが耐えられず壊れて爆破してしまう。
そうしてコップが壊れると、川の水を制御する装置が無くなり、滝のように魔力が体から流れ出てしまうようだ。
クレベスみたいなS級冒険者の魔法使いなら、魔力爆破なんて起こさずに、強大な器で威嚇魔法を詠唱することも出来るのだろなぁ
「もし我の対応が遅れていれば、死んでいた可能性すらあったんだぞ……」
いや、確かに……そもそも調べる前に後先考えずに魔法を使った私がバカすぎたよ……
「|本の注意書き《・・・・・・
》にも書いてあるだろう……」
「注意書き!?!?」
私は驚きのあまり、クレベスの持っている本を奪い1ページから目を凝らして読み返す。
『威嚇魔法は魔力の操作がとても難しい『上級魔法』です』
『※少し魔力の操作を誤ると魔力爆破が起きる可能性が高く。始めて使用する場合は広い屋外で行うか、魔力量の制御を行えないと危険を及ぼす事があります。』
どれでも良いから覚えようと必死だったせいで、こんな分かりやすく書いていたのに見逃すなんて……
もう、一日中穴に入ってたい。
「それにしても我は少し、ラベリの魔力を甘く見ていたようだな」
「ご、ごめんなさい……」
「反省しているなら、それでいい。それに、今回の事故は我にも過失がある」
いや、注意書きも読めてなかった時点で、私が100悪いんだよ! だから、クレベスが謝る必要なんてないのに……
なのに私は『ごめんなさい』としか言えない自分が嫌になりそう。
「ラベリは、我以外から教えられるのは嫌か?」
「えっ!? いや、えっと〜……」
また、聞いてないうちに話が進んでいる!
しかも、選択肢を間違えたらバッドエンドに行っちゃいそうな話だよ!?
「ど、どういうこと?」
ここは『私まだ子供だから、分かんない』風を装って、話を引き延ばす。
ここで下手に『YES』なんて言っちゃうと「それなら我よりも適している者がいるだろう。別の場所で頑張るんだな」とか言われそうだし、言われたら生きる意味無くなっちゃうよ。
「剣の指導は我で良いが、魔法ならやはり魔法使いに教わった方が良いと考えていてな」
「え〜〜あ〜〜」
危なかったぁ……そうそう、クレベスは私にゾッコンなんだから、心配する必要ないよね……
家庭教師みたいな感じだと思うけど、クレベスって都市部の方だと有名な冒険者らしいし。
「その、呼ぶ魔法使いさんは冒険者の人?」
「そうだな。ミサなら、良い魔法使いを呼べるばすだ」
クレベスは「嫌だったらすぐに取り替えるから安心してくれ」なんて言ってる。
相変わらず親バカなのは嬉しいんだけど、発言がちょっと怖いよ……
『取り替える』って人間に使う言葉じゃないよ……
「そうと決まれば、すぐにでもギルドに依頼を申し込む。何か希望する条件とかを付けれるが、何かあるか?」
そんなの綺麗なお姉さ──って、なんて事を考えてるだ私は!!
「ら、ラベリ!?」
いつの間にか私は、自分の両頬を叩いていた。
私にはクレベスがいる。私が添い遂げる人はもう決まっているんだから、こんな邪念捨てて、ここは定番に則って応えよう!
「条件は、優しいひと! そして、お年寄りの人で!」
「あ、あぁ……分かった。その、頬を叩いたのは?」
「ほっべに虫がね」
「両頬に同時に……まぁ、いい。その条件で依頼をしよう」
よし、ちょっと危なかったけど乗り切った!!
それに、やっぱりこういうのはおじいちゃんキャラだよね! 魔法使いのおじいちゃんなんて絶対強キャラじゃん!
なんなら賢者みたいなのが来たりしたら、まさに私が想像する主人公……
「よし……」
むむっ……私のクレベスセンサーが、クレベスが寂しがってると言っている。
やっぱり親として、自分が教えてあげたいって気持ちもあるんだろう。
「私の1番は、クレベスだよ!!」
「え?」
「どんな人が来ても、私の師匠で先生はクレベスだから!!」
「ラベリ──あぁ、そう言ってくれて我も幸せだ」
今は『師匠、先生』って言葉の壁を作ってるけど、いつかクレベスに真っ直ぐ気持ちを伝えるために、まずはやっぱり魔法を覚えないと。
誰が来るのか、気になって夜しか眠れないよぉ!