第7話 魔法のお勉強
次の日になると、魔法剣士になるための書物が机の上に並べられていた。
「ちょっと、多くない……?」
ざっと数えても、20冊ぐらいの本が積まれている。
「まずは、魔法から覚えなきゃいけない。そして、我は魔法を使えないからな」
「いつもの稽古の分も、本で覚えろってこと?」
「そういうことだ」
さっきまで稽古するって言ってたのに、また本を買いに行ってしまった。
私は『もう本はいらない』って止めただけなのに……
『ラベリの為だ。金を惜しむ必要はない』
なんか変な誤解受けてそうだし、まぁ私のためって言ってたのはちょっと濡れたけど……
とりあえず、クレベスが用意してくれた本の中から、何冊かを持って自室の布団に寝転がる。
『低級魔物でも分かる! 魔法の使い方』と言う、前世で見た事あるようなタイトルの本を手に取る
「兎にも角にも、1冊読んで──」
私は、何ページか目を通すと開いた本をすぐにまた閉じる。
いやね? 断じて言い訳とかじゃないんですけどね。私に剣の才能があるとは知らなかったけど、今までは『クレベスの横に並べるように』って気持ちと、前世では持病のせいで運動なんか出来ずに勉強ばっかだったから、剣の修行で『体を動かせて楽しい!』って気持ちがあった。だから頑張れたのもあるんです……断じて『前世で勉強しかしてこなかった癖に、何も理解出来ない』なんて言い訳じゃないんです!
「何が……何?」
今の私が出せる、この本を読んだ感想……
「だって……だってしょうがないじゃん!?」
「私が悪いわけじゃないもん! この本が悪いんだよ!」
面倒くさい呪文の詠唱とか、そういうのは全くない。いや、私にとっては、逆にあって欲しかった!!
『まずは、念じてみましょう!』
「『念じてみましょう!』とは!?」
この作者は、なんで本の始めから根性論で覚えさせようとしてんの!?
逆にアブラカタブラとか、なんか唱えると出来る方が絶対楽だって!
『火の気持ちを感じ、考え、指先に詰め込むように』
『自分の内なる魔力が、火に変わるイメージを』
火の気持ちなんて考えたことも感じたこともないよ!!
「イメージ、なら……」
前世の記憶を掘り返し、人生で1番火を感じた瞬間をイメージして──
「ふんっ!」
はい。修学旅行で焚き火をやった時イメージしても何も出ません。
「もうなんか恥ずかしくなってきたよぁ……」
第三者からしたら14歳の女の子が、頑張って魔法を覚えようとする可愛い絵面だけど、私って精神年齢30歳は超えてるんだよ!?
絶望的に私と相性が悪い気がしてきた……
この世界の人たちって、どうやって魔法使いになったんだよぉ……
ごねてもごねても時間は過ぎていき、いつの間にか窓から三日月の光が差し込んできていた。
「兎にも角にも、今日を無駄にしないように何か出来るように……」
クレベスがまだ帰ってきそうにないし、机に並べられた本の中から私でも出来そうな魔法を探す。
『魔力は、その者の強さを表すとも言われています。体内に存在する魔力を微量に放出する事で『威嚇』の要領として使う方法もあります。』
「これなら、魔力の放出さえ出来れば……私でもやれるかも!」
絶対に、最初にやるような技ではないが、もうここまで来たら、私にだって意地がある! 「なんでも良いから覚えよう」とクレベスから教わった坐禅を組み、精神を落ち着かせて──
「体の奥底に、眠る魔力を沸騰させるように……」
本に書かれてる文を読んだだけで、なんだかコツを掴んだ様に思えてくる
もし、私が魔法を使えたらクレベスは喜んでくれるはずだ。感情を表に出さないだけで、あの人結構親バカだと思うし……
『ラベリ! なんて出来た子なんだお前は!』
『流石は私の娘。ご褒美として、我がなんでも言うことを聞いてやる!』
なん、でも? へへっ……何でもなら、とりあえず服を脱いで布団に、いや最初は汗を流しに
「ぐへっ、えへへ。何でもなんて、困っちゃうよぉ!?」
何かが溢れて……私、ついに妄想でイッ──そんな訳ないよね!? この体から溢れ出てくるのは、これが……魔力?
「やったー!! これで、クレベスが何でも言うこと聞いて、って……なんか止まらないんだけど!?」
「ちょっ、ちょちょちょっと待ってー!?」
──────────
「これだけあれば、ラベリも喜んでくれるだろう!」
クレベスは、喜ぶラベリの姿を想像し、笑みを溢す。
しかしその笑みは、突然起きた謎の爆発音により無くなる。
「なんだ、今の音は……?」
クレベスは音の聞こえた方角に走り出すと、その音が自分の屋敷から出たものだと確信する。
「この魔力……ラベリか!?」
嫌な予感を感じ取ったクレベスは、ラベリの身の危険を案じ、すぐに屋敷へと向かうのだった。