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第2話 恩人と変態

目が覚めると、知らない天井が広がっていた。なにか毛布のようなもので包まれているみたい。


「目が覚めたようだな」


 この声は、あの森の時の……私の顔を覗き込むように、顔を見せたのは、私を森から助けてくれたあの人だ。

 やっぱり──息を呑むのを忘れるほど美人だ。前世の世界にいたら、1億年に一人の美女ぐらいの扱いでも、おかしくない。

 短めの白髪から、スラっとした曲線美を見ると、西洋の王子様のように見える。着ているのは着物のようで、よく見ると部屋の装飾和風のテイストだ。この異世界は、和な世界なのかもしれない。この人には、和の感じもとても似合っている。


(……って、私キモすぎない……?! 助けてくれた人をジロジロ見て、その……一目惚れしたからって、こんなの変態のすることだよ!)

 

 こんな美人な人に近づかれて、冷静を保てる人なんていないと思う。でも、流石に今のはキモすぎるよ! これ、もしかして私に前世の記憶があるのが、バレたら終わる?

 

 まぁ、それはバレた時に考えるとして、それよりも今すぐお礼をと、口を動かすが、出るのは言葉にならない声だけだ。


(そうだ!私って、今は赤ちゃんじゃん!どうしよう……)



「お腹が空いたのか?」

「……少しの間待っててくれ」


 私の声を聞いて、お腹が空いてると思ったのか、扉を開けてどこかに行ってしまった。


(ちょっと、ちょっと!お礼どころか、逆に迷惑かけちゃってない?!)


 確かにお腹は空いてたから、とてもありがたいんだけど、これだとお礼一つ出来ずに、貸しをどんどん作っちゃってる……

 これから、どうなるかは分からないけど、将来絶対に、お礼を言いに来よう。


(あと、運が良かったら、恋人になったりとか………なんてね)

 

 歳をとりたいと思ったのは、初めてかもしれない。名も知らないあの人に、思いを馳せながら、色々な未来を想像して、あの人が来るのを待っていた。






「ただいま戻った!」


 バンっ!と、勢いよく扉を開けて帰ってきた。


(その……別に良いんですけど、普通の赤ちゃんなら多分泣いてますよ、その勢い)


「お腹空いたよな、遅くなってしまってすまない」


 そう言って、私を持ち上げ抱っこする。


(めちゃくちゃ良い匂いが〜!)


 私が赤ちゃんでなければ、間違いなく通報されていたと思う。

 でも、しょうがないだろ! こんな心地いい匂いが──


 確か昔、ネットで恋愛について調べた時に、『好きな人との相性は匂いで決まる! 匂いを嗅いで、もし心地よく感じたなら、その人との相性は◎!」なんて、言っていた気がする!

 これはもう! 運命の人と言って、過言じゃないのでは……えへへ

 もう私は、変態で良いかもしれない……赤ちゃんのアドバンテージを全力で使って行こう!



(って、あれ? この人なんでこんなに濡れて……)


「あぁ、濡れてるのが気になるか?」


 私はかろうじて動かせる首を縦に振る。


 本当に遅くなって、すまないと言って、バックから一つの袋を取り出す。


「私は、乳が出ない。だから、隣街の知り合いに頼んで乳を貰ってきたんだ」

「ついでに、離乳食の作り方も教えて貰ったからな、これを与えたらすぐに作ってくる」



 この人は、優しすぎると思う。見ず知らずの子供のために隣街まで行くなんて、もう惚れてるのに、さらに惚れちゃうよ!

 それと同時に、私のためだけに、この綺麗な着物も汚してしまって……罪悪感が凄い。


 


(ふぅ……乳の味なんて覚えてなかったけど、こんな美味いのか……そりゃあ、赤ちゃんのなかで流行るわ)

 

 私が、乳を飲んでようやく喉を潤すと、あの人が離乳食を作ってくれた。

 私に乳を与えてから、5分ぐらいだけど早すぎやしないか?


「よいしょ……ほら、簡単な物だが『お粥』だ。初めて作ったから自身はないが、多分大丈夫……だ」


 なんか、最後ダメそうな言い方だったけど、大丈夫! 私は、料理がダメでも怒ったりしないからね。私には、母から受け継がれた料理技術があるし、逆に料理できないなんて、チャームポイントで、私の好感度が上がるだけだよ!


 食べようと口を目一杯開くが、すぐに閉ざす。


「?……食べないのか?」


 あの人もびっくりしてるが、今はそれよりも、バカか私は!

 

 想像のなかで、1分前の自分を殴る。


(今のはどう考えたって、フーフーチャンスだろうが!)

 

 あとは、どうにか気持ちで、この事を伝えるしかない!



「………」

「もしかして、熱くて食べれないのか?」



 私の声が、神に届いたようだ……


 そうです!そうなんです!私は、熱くて食べられないんです!だから、フーフーとしてくれれば、全て解決するんです!


「それなら、今なら冷めてきて、大丈夫なんじゃないか?」


 NOーーーーーーー!!!!!


(そんな……思考するのに、時間を使いすぎたか……私の可愛い女の子にフーフーしてもらう夢が……)


「ほ、ほら、あっ…あーーん」


(え?)

(あーーーーん!!!)


 やばい。顔近いし、ちょっと恥ずかしがってるのも良い!

 つくづく私が赤ちゃんの姿で良かったと思う。私が15ぐらいなら、たぶん濡れてた。


 それに、贔屓目なしで、世界一美味しい……まぁ、フーフーは別の時でいっか!








 最高の夜ご飯を楽しみ、お腹もいっぱいになったところで、あの人が真剣な眼差しでこちらを見ているので、少し緊張してしまう。


「実は、お前に大事な話があるんだ……」


 この感じで、何となく分かってしまった。

 今までのこの人の行動から見て、間違いなく良い人なんだろうけど、私の対応に困っていたり、多分子供が苦手なんだと思う。

 

 だから、ここは耐えるしかない。この人なら、あの毒親のように私を捨てたりせずに、さっき言っていた知り合いに預けてくれるだけで十分すぎるぐらいだ。

 まぁ、こうなる事は分かっていたし、いつか大きくなってこの人に会いに来よう。

 

「その……だな」


 だから、それまで待っててください!

 私が、大人になったら!絶対にあなたをお嫁に──


「お前を我の養子にしようと思う」


(へ?)


「まぁ、お前はまだ幼い。それに、我が何を言っているのかも分からないだろうな……」


(いや、え? 脳の処理が追いつかないんですががががが……)


あと、ごめんなさい!私には前世の記憶があるのと、何故か日本語じゃないのに、言語が分かるんです!今までの全部分かってました!



「お前が、大きくなった頃には、我のことを本物の母親だと思っておるだろう……」

「だから、今は許してほしい。いつか、必ず言わないといけないのは、分かっているからな、我の決心がついた時に、我と血が繋がっていないことを話そうと思う。だから、今だけは我を許してくれ」


 

 私こそ、ごめんなさい! 多分これ聞こえちゃいけない話なのに、めっちゃ聞こえちゃってます! 凄く悩んで、私のためを思って黙ってくれてるのに、私全部聞いちゃった〜〜?!


「まずは、お前の名前を決めないとな」


 名前! そう言えば、あの毒親が私に『悪魔の子』意外で呼んでた名前があった気がする。確か、『マンモン』とか言ってたけど、まぁ、どうでもいいや

 今はそれより!どんな名前がつくかだ!安心してください。 

 私はどんな名前であろうと、文句は言わないというか、言えないんで!


「そうだな……『ラベリ』って言うのは、どうだ?」


(ラベリ………うん!私には、ちょっと可愛い名前すぎて、名前負けしないか心配だが、とても良い名前だ!)


 とりあえず、体を使って、全力で気に入った事をアピールする。


「気に入ってくれたか……」


 「良かった」と安堵で出た、歯を見せた笑顔が眩しすぎる〜! こんな、可愛いと、美しいと、カッコいいが、混合した存在他にいない!


「我の自己満だが、我の自己紹介もしておこうか、我の名は『クレベス』だ。一応剣士だが、端くれのようなものだ」


(クレベス! どうしようか、これからはクレベスと呼ぶか、ママと呼ぶべきか……これは、夜を明かすと言いたいが、そろそろ赤ちゃんの限界が来そうだ……)


「眠いのか?……そうだな。長く話してしまったし、そろそろ私も寝よう」

「今日からは、同じ部屋で寝るから安心しろ。知り合いからも、夜にいきなり泣き出したりするらしいしな」


(あっ、ママぁ……)

 

 

 そうして、私こと「ラベリ」と「クレベス」の同……きょ?せい?生活がスタートしたのだった!




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