第10話 魔法の師匠は方向音痴
ミサさんが呼んでくれた、私の魔法の師匠。それはエルフの、女の子? 女性? おばあちゃん? でした。
「先程は取り乱してしまい、すまない……」
「ご、ごめんなさい!」
まずソルトさんを家にあげて、椅子に座わってもらうと、開口一番頭を下げる。
タイミングが悪かったのもあって、告白を邪魔された腹いせに殺気が芽生えてたし、クレベスだけじゃなくて、はっきり言って私もめちゃくちゃ警戒してました、ごめんなさい!
でも、警戒してすぐに腰にある木刀を手に取ったのは、クレベスの稽古をちゃんと覚えてる証拠でもあるよね! そして、私がクレベスに染められていってる証拠でもあると言うこと……
流石に人前ではヨダレなんて出しませんよ、下が濡れるだけだから安心安心!
「お2人は悪くないです、のじゃ! 突然エルフが目の前から現れれば、怪しむの当然です、のじゃ」
「そう言ってくれると、助かる……」
「逆に僕の方こそ。恥ずかしながら久しぶりの長旅で方向音痴が災いし、エルフの森からギルドまで2時間、ギルドからここまで4時間で、本当はお昼前に来る予定であったのだが、想定していたよりもも迷ってしまった、のじゃ」
6時間迷うって、それはもう方向音痴を超えたナニカな気がするよ……
話してて凄く優しい人なんだなぁと思うし、ソルトさんは確かにミサさんにお願いした条件通りなんだけど、私が想像してた人物像と凄い掛け離れてるというか、エルフとか頭の片隅にも居なかったよ!
「こんな時間の訪問になってしまって、申し訳ないです、のじゃ」
「少し暗くなってきただけで、気にするような時間でもないさ。それよりも、今日は顔合わせだけだと聞いているが、方向音痴と言うなら帰りは大丈夫か?」
「方向音痴であるのですが、一度通れば完全に覚えるので心配無用です、のじゃ!」
一度通ればって、さっきギルドまで2時間迷ったって、言ってたよね!?
冒険者にとってギルドなんて毎日行くような所なのに、それでも迷うなら覚えるも何も無いんじゃ……?
「そこまで言うなら、大丈夫か」
「・・・はぃ」
なんか言った本人が後悔して、顔青くなっちゃってるけど!?
ちょっと涙目になってるし、これ助けてあげた方が……
「えっとー……ね、ねぇクレベス?」
「なんだ、ラベリ?」
「ソルトさんが完全完璧に覚えてたとしても、初めて来る場所な訳で……せめて街までは私が一緒に行ったほうが良いんじゃない?」
「( •͈ω•͈ )」
良かった、ソルトさんの目から希望の光が……!
「ダメだ」
「えっ……」
「(இω இ)」
ソルトさぁぁぁぁん!!
違うんです。とどめを刺したかった訳じゃなくて、本当に助けたくて──
もう私のせいで、ソルトさんの感情がぐちゃぐちゃだぁ……
「ラベリが街に行ったのなんて、小さい時だけだろう……まともに記憶もないのに連れて行くなんて出来ないさ」
「あぁ、はい……」
完全に忘れてたけど、普通に考えたらそうだった……2、3歳の時の記憶が残ってる事なんてありえないよね、転生者じゃなきゃ。
だから『じゃあ最初から、希望を見せないでよ』って顔で私を見ないでソルトさん!
「少し話が逸れてしまった、すまない。それで依頼について話なのだが──大丈夫か?」
「大丈夫……です」
今にも消えちゃいそうな、悲壮感漂うソルトさんの声。真っ白に燃え尽きて語尾も忘れちゃってる……
「そう、か? じゃあ、まず月日と時間の話なんだが──」
それにしても、クレベスってほんとに他人に興味無さそうって感じる事が多いんだよね。今も、ソルトさんの顔が明らかおかしくなってるのに言及しようとしないし。
いつも横で見てると、村の人と話してる時も口角が上がってる所を見た事ないから……
元から感情を顔に出すタイプじゃないけど、ほんと私とミサさん以外と会話する時は『早く終われオーラ』が顔から出まくってる。
「それでは、1週間に2回。大体4、5時間でお願いする。別にすぐに覚えたいと言う訳ではない、外せない用事があればいつでも言ってくれ」
「分かりました、のじゃ。魔導書と杖と魔導具は、こちらが用意しておきます、のじゃ」
「こちらが用意しようと考えていたのだが、良いのか?」
「クレベスさんも、魔法はそこまで詳しくないと聞いてます、のじゃ。何を買って何を揃えれるのか分からないでしょうし、僕が使っていた物で良ければ用意出来ます、のじゃ!」
「それなら甘えさせて貰うが、足りない物があったら言ってくれ」
人生で一回は杖を使ってみたいなぁ〜
なんか、杖ってだけで一気に魔法使いになった感じがしない? 小さい頃テレビの前で魔法少女に憧れてた私からすると、杖を振って魔法が発動するとか夢すぎる!!
「あんまりお邪魔するのもいけないので、そろそろ失礼します、のじゃ!」
「早速、明日からうちのラベリをお願いする」
「ラベリちゃんの才能なら、すぐに一流魔法使いになります、のじゃ! 全力で頑張ります、のじゃ!」
ソルトさんはそう意気込んで、私とクレベスに敬礼ポーズをすると、玄関に飛び込んできた時と同じ勢いで屋敷を飛び出していった。
「ほんとに、大丈夫だろうか……」
「優しそうな人だし、大丈夫だよ!」
「我より──」
「クレベスの方が優しいけどね!」
「ッ!?」
それにしても、あの勢いでここまで来て6時間迷うって、どんな迷い方したんだろソルトさん、大丈夫かなぁ……




