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【4】蒐集院の弥生

落ち着いてヤトを寝かせられる部屋が無かったので、仕方なく寝室へと赴く事となった。


「布団だー!!」


開口一番、そう言って見知らぬ女の子は僕の布団へと潜り込む。

そしてその横にある布団にはヤトを静かに寝かせた。その間ヤトは絶えずに「うーん…うーん…」と悪い夢でも見ているかのように声を漏らしていた。

そうしてから僕は女の子の方を向く。

突然の事で気づかなかったが、女の子は蒼い瞳に巫女の様な格好をしていた。特徴といえば、片目だけの丸眼鏡をつけていることぐらいだった。


「えっと…それで?君はだれ?」


当然の質問のハズだったのだが、何故か女の子は不思議そうな顔を浮かべる。


「んー?どうしたのそんな変なこと聞いてさ?……あ!もしかして本当に記憶喪失ってやつなの!?」


そんな事を言った女の子を僕は不思議に思った。


「どうして僕が記憶喪失だって知っているの?」


「んー。まぁ"目"がいいってことで」


「なるほど……?」


「あっそうだ!質問の答え忘れてた!」


そう言って女の子は僕の布団を纏ったまま起き上がりあぐらをかく。


「私は弥生っていうの!改めてよろしくね、パパ!」


「えっと、何で僕がパパなの?」


その質問に、弥生は少し困ったような顔をする。


「んー?なんでって言われてもなぁー。パパはパパだし」


「質問の答えになってなくない…?」


「だってそうなんだもん」


「えぇ……」


どうしようもなく困惑していたところに、ヤトが起きてきた。


「ん……んぅ?」


「あっヤト、おはよう」


「……はっ!」


そう言ってヤトは勢い良く起き上がる。


「あー!起きたんだね!おはよー」


言葉を言い終わる間もなく、ヤトは弥生を制止し僕を見る。


「あー待って。話長くなりそうだから一つだけ確認させてね?イノリ、一児の親になった事は?」


「ある訳ないよ!?」


ジトーっと、ヤトから視線を感じた。


「…まぁいい。信じる。それで?この子は?」


そうしてしばらく僕達はヤトに説明をした。

それでもヤトは終始困惑した様子で弥生を見ていた。


「……えーとつまり?貴方は弥生って名前で、イノリをパパと呼んでいて?でもイノリには子供居ない筈で?……ギャグ?」


「あはは……」


苦し紛れに笑うことしか出来なかった。


「で?弥生、なんでイノリがパパなの?」


「んー?パパだからだよ?」


「分かるかッッ!!!」


ヤト……立派なツッコミ役になって……。最早コントと化していたこの状況をどうにか打開すべく、僕は質問をしてみる。


「弥生、そういえば何の用でここに来たの?」


「んー?通りがかっただけなんだけどねー?実は最近ここら辺で異変が起きていてね、忠告に来ましたー!」


ニコニコと眩しい笑顔で、弥生はそう言う。


「……異変?」


「んーそうだよ。ねぇパパ…じゃ嫌なんだっけ?じゃあ……イノリでいいかな?『神秘教』って知ってる?」


その質問に、ヤトがピクっと反応した。


「……あ"?」


聞いたこともない程その声は怒りと怨嗟に満ちていた。そんなヤトとは反対に弥生は楽しそうだった。


「あははっ!やっぱりそういう反応になるよね!」


「えっと…神秘教って?」


「んー?えっとね…」


「いや、私から言うよ」


一息ついて少しは落ち着いたヤトは、弥生の話を遮るように切り出す。


「一言で言うなら……史上最低最悪なクソ宗教」


明らかな嫌悪感を示すヤトに僕は少し違和感を覚える。


「どんな所なの?」


「…この街の外れに山がある。そこの山一体を御神体として祀っている宗教なんだけど、何よりもやり方が酷かった。殺人、誘拐、監禁、人体実験。"神秘"の追求の為なら何でもする。そんな人道無用の宗教だよ」


「……"神秘"?」


「あぁそうだね。流石にこれじゃ分からないか。私達が権能とか妖力とかスキルとか呼んでるやつ。そんな尋常ならざる異能の事を纏めてアイツらはそう呼んでるの。皆も昔は神秘って呼んでたけど、アイツらと同一視されるのを危惧して皆それぞれに呼び方を変えた」


「何が目的でそんなことを…?」


そう聞くと、ヤトは静かに語る。


「『神秘』を探求せよ。さすれば汝は神となる。殉教する八咫烏達よ、求めよ、証明せよ、思考せよ。しかして喰らえ。空虚な三千世界を。人が求める遍く希望を。それが、予言された我らが運命だ。………これが、30年前に神秘教が世界に向かって発信した言葉。この後色々な事件を起こしたんだけど軍に鎮圧されてそれ以降目立った動きは無くなったの」


「そんなやばい集団が…」


「あのー」


そう言って弥生が口を挟む。


「うん?どうしたの?」


「その事で今回来たの。イノリには何でも教えてくれるスキルがあるんでしょ?それを使って色々教えて貰えないかなって」


「あぁ…そんな感じなのかな?何を教えてほしいの?」


「二つだけかな。一つは神秘教の現在の目的について。二つ目は、『八雲エリセ』について」


「八雲エリセって誰?」


「んーなんて言ったらいいかな?まぁ簡単に言えば碌でもない家だった所かな?」


「…だった?」


「そう。神秘教よりかは幾分はマシだったけど、似たような事を沢山してたんだよね。だけど、ある日突然一家全員が全滅した。八雲エリセただ1人を除いてね。だから色んな噂が立っているんだ。突然一家に訪れた厄災から逃げ延びたとか、エリセが全員殺したとか」


そんな噂が流れる所だ、当然碌でもないところなのだろう。

まぁいい、そう思って僕は本題に戻ろうとする。


「それじゃ、それを聞けばいいんだね?出来るかは分からないけど……」


「うん。よろしくー」


相も変わらず弥生は気楽そうに僕の布団に寝っ転がりながらそう言う。


「よし…。シオリ」


僕は出来るだけ優しくシオリを呼び出す。


《はい。用件は先程の2つでよろしいでしょうか?》


「あっ、聞いててくれたんだね」


《はい、必要なご様子でしたから。表示致します》


……表示?

不思議に思っていると、突然目の前にまるでゲームのステータス画面のようなものが出てくる。目の前に現れる非現実に僕は驚嘆しながらもシオリの説明に耳を傾ける。


《神秘教についてはさほど変わりはありません。しかし儀式などは定期的に行っております》


「……ふーん。儀式ねー…」


少し訝しげな表情を弥生は浮かべる。


《二つ目の八雲エリセについてですが、現在は妖狩りをしている様です。なお、理由については分かっておりません》


妖狩り、という言葉にヤトは反応する。


「何でそんな無駄なことを…」


「なんで無駄なの?」


「そうだね…。端的に言えば妖は"死なない"。例え死んだとしても暫くすると再生するの」


「え…不死身ってこと?」


「うん、そうだね。だからしばしば人間は妖の事を神と同義にしたりする。結構な違いあるけどね。だからそのエリセがやってる事は…まぁ憂さ晴らしとかかな」


「なんでそんな事……」


そうやったやり取りをしていると、弥生が口を挟む。


「んーまぁ、大体は分かった!ありがとうパパー!」


「パパじゃないけど……まぁ役に立てたのなら良かったよ。もう帰るの?」


「んー?そうだよー?もしかして、まだなんかあるの?」


にひひひ…と弥生は笑いかける。


「ああいや、なんか手伝えることあるかなって」


その言葉に弥生は少し驚いたような表情を見せる。一人で活動しているっぽかったし、あまり人と何かをすることが無いのだろう。


「んー。…まぁいいか!教えちゃお!」


「ん?」


「イノリはさ?『蒐集院』って覚えてる?私そこに所属しているんだけど」


「なにそれ?ヤト、知ってる?」


いつもの様に物知りなヤトに話を聞く。


「ん?あぁ、蒐集院はね。名前の通り奇々怪々な物品を蒐集したりして保管したり、武器として使用したりする武装組織だよ。最大の特徴としては12人しかメンバーが存在しなくて、数字が小さくなる程強くなるように配置されてるみたい」


「うんそう!よく知ってるねヤト!知らない人も結構多いのに」


そう言ってとても嬉しそうに弥生はヤトを褒める。

そうして思うのだ……武装組織?弥生が?とても華奢な体からはそうには見えなかった。

しかも巫女の格好だし。


「んふふー、凄いでしょー。それでね、イノリにはこの地域に散らばっている異常な物品を回収して欲しいの。ヤトは見かけによらずめっちゃ強いだろうし多分大丈夫かなって」


「ん…弥生、貴方見る目あるね」


少しヤトは嬉しそうにしている。


「それじゃ、それを手伝うよ」


そう言って僕らは弥生からの依頼を快諾した。


「ありがとー!それじゃ、またねー!」


そう言うと弥生は霧のようにボヤけて消えていった。……本当に元気な子だった。


「それじゃ、早速明日行く?」


「良いよ。明日から行こうか。何かあったら私がイノリを守るから」


「流石に守られるだけは恥ずかしいけどね……」


そんなやり取りをしながら僕らはゆっくり過ごして就寝した。

その日の夜、何かの拍子に目を覚ました。

薄目で周りを見ると、ヤトがテーブルで何かを書いている。

しかし、眠かった僕は「まぁいいか」の精神でそのまま眠ることにした。

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