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【3】そして少女は泡吹いて倒れた

「イノリの能力について教える」


そう言われて、僕は庭へと向かう。結構広い屋敷なので庭も広いから丁度良い、そう思ったからだ。

庭を見ると、そこには袖を捲り上げ正座して自身を待つヤトが居た。


「よし、来たんだね」


僕が声をかけるよりも前にヤトは僕に気付く。

静かに、そして覚悟が決まった様にヤトは僕を見つめる。


「………最終確認」


不意にヤトは俯き僕にポツリと呟く。それはどこか悲しげで、怒りに満ちていた。


「ここから先は"人ならざるもの"の世界。だけどイノリの記憶を取り戻せる可能性はあると思う。そこで質問。イノリ、私達の世界に来る覚悟はある?」


「ヤト達の……?」


ヤトはより一層の真剣さを孕ませた声で僕に問いかける。


「この先、イノリは必ず良からぬものに巻き込まれる。色々な妖にも狙われる筈。必要なら、相手を殺す必要がある。これは、イノリがずっと嫌っていたこと。それ、できる?」


それを聞いて僕は今持てる最大限の本心で応える。


「……殺すのは嫌だよ。でも殺すしか選択肢が無いんだったら僕が作ればいい。理不尽を覆せるような人間に僕がなればいいと思うんだ。そうすれば、誰も傷付けずに済むから」


「……そっか」


俯いているヤトは少し苦しそうに目を閉じた。

まるで変わらない大切なものを思い出すかのように。


「…あーあ。何も変わらないんだから」


少しだけ嬉しそうにヤトは呟く。

そうして覚悟が決まったかのようにヤトは僕に顔を向ける。


「…よし。それじゃ、覚悟も決まったみたいだし私がイノリの権能について教える」


「うん。お願い」


「まず、一番の要の刀から。イノリの権能の殆どその刀によって構成されているの。その刀抜いてみて」


そうして言われた通りに僕は自身が身に付けている刀を抜く。

スラリと綺麗な金属音を響かせながら黒曜色の美しい刀身が輝く。


「…不思議な色」


僕は特段意味もなくそんなことを口に出す。

それを聞いてヤトは少し困ったような表情を見せる。


「…あー、それね。ごめん、何なのか私にも分からない」


「え?」


「詳しい事は分からないんだけど、確か特殊な黒曜石と金属を無理矢理くっ付けたみたいな話を聞いただけなんだ」


「そんなこと出来るの?」


「さぁね、普通は出来ないから。まぁいいや。取り敢えずその"声"とかは私分からないから自分でやってもらうとして……。記憶を無くす前のイノリから聞いた権能…イノリは『スキル』とか呼んでたものの数は5つ」


「結構あるんだね」


僕の言葉にヤトは悩むような仕草を見せる。


「んー。確かもっとあったような……?」


「え?」


「あっいや。気にしないで」


なにそれすっごい気になる。流されちゃったけれども。

そんなことを思っていると、ヤトは話を続ける。


「取り敢えず、イノリが聞こえたって言ってた"声"だけど、私の推測が正しいのなら多分全部そいつに聞けば大丈夫」


「そうなんだ。でもあれ以降なにも聞こえないんだよね」


「あぁ、それは多分エネルギーがないんだと思う。妖力注いであげたら?多分出すだけで勝手に取ってくと思うよ」


「わかった」


そうして僕はあの時の感覚を思い出す。

落ち着いて。1…2…3!!!

スゥッと、空気が身体を巡るような感覚が走った。そしてそれと同時に聞き覚えのある声が響く。


《妖力を確認。おはようございます、イノリ様》


「出来た!」


ちょっとだけ嬉しくてつい声が出てしまった。

それを聞いてヤトは安心したかのような声色になる。


「そう、良かった。じゃ、私は縁側でゆっくりしてるから。色々確認してみてね」


「わかった。ありがとうねヤト」


「うん。……役に立てたなら、嬉しい」


嬉しそうな顔と声で応答したあと、ヤトはゆっくりと歩いて縁側に座った。


「……よし」


一段落したおかげか、少しリラックスをして僕は知らぬ"声"と会話を始める。


「ええと、貴方は誰ですか?」


まずは当たり障りのないものから聞いてみた。

"声"はあの時と同じように女の子の声で頭の中に響く。


《私はイノリ様によって作られた自律型記憶システム、通称シオリです》


「記憶システム?」


《はい。イノリ様に関する事を与えられた権限の範囲内で記憶し、イノリ様の自衛に役立てます。それと、イノリ様からの疑問を演算にて算出しました。前回実行した権能の"時雨"も自衛の為の権能の1つです》


「なるほど……。それと、なんで通称がシオリなの?」


そう言うと、どこかシオリは悲しげな声を漏らす。


《……イノリ様に付けて頂きました。まるで本の栞のように出来事を記憶して忘れないようにしてくれる大切なものだから、だそうです》


「……なんかごめんね」


《いえ、仕方の無いことと思います》


そこで僕は思ったのだ。

あれ?結構会話出来るな…と。想像していたのは簡単な受け答えのみのシステムだったのに、実際は高性能な人工知能といった感じだった。


「シオリ、僕は強くなりたいんだ。サポートを頼めるかい?」


《はい。人の身なきただのシステムではありますが、全身全霊を以てサポートさせていただきます》


「ありがとう。心強いよ」


そう言って話が丁度終わりそうな頃だった。


「んーーー?あれってもしかしてー!?」


「ん?」


後ろからそんな声が聞こえた。

後ろを見ると、見知らぬ女の子が勝手に門を乗り越えて塀の上に立っていた。

するとその女の子は嬉しそうにこちらへ向かって走ってきた。

そうして唐突に見知らぬ女の子は僕に勢い良く抱きついてくる。

ヤトも異変に気が付いたようだった。


「えっ…イノリその子誰…」


「えっ、ちょ……」


僕らが漏らした困惑の声を聞き届ける間もなく、衝撃の言葉が飛び出してきた。


「やっと逢えたね!パパ!」


「………はい!?」


一瞬で僕とヤトは凍りついた。

助けを求めようと横を見ると、ヤトが顔面蒼白で震えている。


「え……イノリ?嘘でしょ……?」


見た事ないほど涙目になっていた。

そんな僕らなど知らぬと言うように女の子は続ける。


「なにー?私の事覚えてないの?あんなに一緒に"タノシイコト"したのにー?」


そうやって小悪魔のようににっこりと笑いかけてくる。

そしてここでヤトは泡を吹いて倒れた。


「ヤ、ヤトーーー!!!!!!」


「あははっ!!おもしろーい!!」


元気いっぱいに笑う女の子と倒れたヤトと依然として捕まる僕。状況はカオスとなったままだった。

ああ。何だかこんがらがってきた……。


そんな事を思いながら、僕はヤトを連れて自身との関係を訴える見知らぬ女の子ごと家へ入っていった。

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