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第10話 リロードする時は身を隠すべし

 初日の練習が終わったのは、0時過ぎ──日付が変わってからだった。

 普通のチームはシーズンオフ期間中はフルタイムで練習することはないのだが、全員がプロ初挑戦である『アテナ・ゲーミング』の選手たちは、モチベーションが高いらしく自ら進んで練習しているとのことだった。


「シーズン途中でガス欠にならないといいんだけどなぁ……」


 リーグ戦が行われる期間にもなれば、嫌でも練習せざるを得なくなる。

 休めるうちに休んでおくことも、プロとしてやっていくためには重要なのだ。


「シオンくん、まだお仕事ですか?」


  背後から包み込むような優しい声音──シオンが振り返ればなぎさがPCの画面を覗き込んできていた。


「ちょっと今日中にデータをまとめておきたかったんで」

「ダメですよ? ちゃんと休まなきゃ」

 

──休みが重要、そう考えつつもシオンは練習後もひとり作業を続けていたのだから人のことを言えないよな、とシオンは苦笑した。


「そう言うなぎささんこそ、まだ寝なくて大丈夫なんですか?」

「私はショートスリーパーだから。4時間も寝れば十分なの」

「羨ましい……」


 一つ屋根の下とは言え、選手と比べるとなぎさとは顔を合わせる時間は短い。

 そもそもの生活リズムが違うのだからそれも当然の話ではあるのだが。


「それにね、少し気になってたの。どうかな──このメンバーでちゃんと戦っていけそうかな?」

「まだ分かりません。ただ、少なくともスクリム相手は新しく探した方がいいでしょうね……個人技で破壊出来てしまっているので」


 喜ばしいことに選手の実力はシオンの思った以上であった。

 スクリム相手はトップリーグのチームのアカデミーチーム(下部組織)だったのだが、正直このレベルの相手なら10回やって1回負けるか──程度には実力差があった。

 チームとしての意思統一だとか、戦術面だとか、そういうマクロと呼ばれている部分では間違いなく相手が上回っていたのだが──ロッキーを筆頭に選手個人の技量、ミクロと呼ばれる部分で戦術をねじ伏せてしまっていたので、正直あまり良い練習とは言えなかった。

 だから早急に実力的に同等か、わずかに上回るレベルのチームを探して、連携面を高める必要があるとシオンは感じていた。


「うーん、練習相手かぁ……こういうのって、どう探せばいいのかしらね」

「それはこっちに任せてください。いくつかアテがあるので」


 それなりに業界歴の長いシオンは、色んなチームに顔が利く。

 この時期は選手の入れ替わりもあって、スクリム相手を探しているチームも少なくない。

 今日の様な戦績を継続的に残すことができれば、スクリム相手探しは容易にできるだろうとシオンは考えていた。


「本当に頼りになるわ──シオンくんが来てくれてよかった」

「まだ何もしてませんけどね」


 シオンの仕事はあくまで、チームを勝たせること。

 今行っているのはその下準備──料理すら客の前に出していない状態だ。

 だから今の段階で自分は賞賛を得るべきではないと、シオンは思っていた。


「──真面目なのね。うんうん、そんな所も好印象♪」


 包容力のある優しさに満ちた声、穏やかで慈愛に満ちた表情──思わずドキリとしてしまう魔性の笑み。

 もしこの笑みを日常的に人に、社員に向けているのだとしたら、部下は身を粉にして働いてしまうのではないか……そう思わずにはいられないような破壊力を秘めていた。


「……褒めても何も出ませんよ?」


 ここ最近ロクに人から褒められていなかったシオンには効果てきめん。

 照れ隠しに絞り出した言葉は情けなく上ずっていて──生まれたての小鹿のように震えていた。


「どうかしら? この調子で褒め続ければ何かしら──」


 ぐうぅ~、きゅるるる。

 小さいけれど、確かに響く音。

 シオンはすぐさま思考を整理する。


(もしかしなくても、なぎささん──?)


 恐る恐る、なぎさの顔を覗き込む。


「……聞こえた?」


 顔を羞恥の色に染めたなぎさ。

 そんななぎさにかけるべき言葉は──


「い、いい音でしたねぇ……」


 その後シオンが怒られたのは、言うまでもないだろう。

これぞプレミ(プレイングミス)


遅くなりました_:(´ཀ`」 ∠):

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― 新着の感想 ―
[一言] エタったかと思ったぞ…!! …まぁ気負わず程々に頑張ってくだせぇ。
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