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~プロローグ~


 (わたくし)が何故死んだのかとか、生前にどんな人間だったかなんて正直に言ってどうでもいいことでしょう。

 気が付けばただ、私は12歳の誕生日を迎えたばかりの金髪碧眼の少女……リリアーナ=ファイサード=リ=メール=フォン=ナインテイルとして生まれ変わっておりまして。

 途切れ途切れの生前の記憶が、この少女はとある乙女ゲームの登場人物であり、高位貴族であり王子の婚約者でもある彼女は平民の主人公をさんざん罵倒し……物語が進めば、18歳の誕生日に婚約者である王子から婚約破棄を突き付けられた挙句、重税が祟って領内の革命に巻き込まれ、断頭台の露となる運命である……ということを教えて下さいました。

 まぁ、バッドエンドの時には主人公を凄まじくえげつない展開へと導いて下さったので、プレイヤーのヘイトを解消する意味もあったのでしょうけれども。

 ですが、正直な話、そんなことはどうでも良かったのです。

 なにせ私はすでに一度人生を終えておりますし……大往生とは言い難い最期でしたが、生前の私は疲れ切っておりさほど大きな未練も御座いませんでしたし、叶えたい夢も希望ももう存在しておりませんでしたから。

 ただ一つだけ……生前の私の最期の方は、仕事の合間合間にただ食べ慣れた同じものを口に入れて栄養を摂取するだけという、人間らしさから逸脱した生活をしていましたから、健康になった今度の人生では食を楽しみ……具体的に言えば、前世で食べることのなかったモノ(・・)を食べたいと思ったものです。

 尤も、生まれ変わったリリアーナのこの身体は同年代の少女と比べても小柄であり、ろくな量を食べられないのですけれども。


「さて、食べ物を美味しく頂くためには……まずは領地改革ですわね」


 何しろ我が父の治めるナインテイル領は農奴を限界ギリギリまで酷使し、領民には重税に次ぐ重税を課して富をむしり取っております……まさか初夜税なんて演劇でしか見たこともない税を目の当たりにするとは思いませんでしたけれども。

 それは兎も角、そうして我慢の限界を迎えた農奴や領民たちは次々と反乱を起こしており、その度に諸侯軍の手によって鎮圧され、見せしめとしてあちこちに遺体を晒されるという極悪非道の政策を続けております。

 晒された遺体の所為かそれとも衛生状態が悪い所為か、各地で疫病が流行り……挙句、領主の一族はその搾り取った税を使い、栄華を極めているのですから、もう救いようがありません。

 まぁ、私自身もその栄華の恩恵を受け、この内陸部にあるナインテイル領で山の幸海の幸を問わず様々な食材を頂いたのですから彼らを責められる身にはありませんけれども……そんな所業を続けていれば記憶にある未来が示す通り、領内の革命騒動に巻き込まれるのも当然と言えるでしょう。

 生憎と私にはもう既に、その未来を全力で回避するほどの生への執着はありませんけれども、少しばかり食を楽しむついでに悲劇を回避する程度なら、少しは頑張ってみようという気になろうというものです。

 幸いにしてこの世界にはゲームのとおり魔法という素晴らしい力があり、小娘でしかない私であっても地球の物理学の知識を用いれば、この世界の住民の数倍から数十倍の効率で魔法を用いることができると知りました。

 私がこのリリアーナに転生してから丸一年間。

 鍛え上げたこの『力』があれば、ただの小娘と侮られることもないでしょう。

 であればこそ、来るべき未来が迫りくる中、無力感に苛まれ日々を惰性で過ごすのではなく……未来の悲劇を回避しつつも、食を楽しむ余裕くらいはあるに違いありません。


「リリアーナお嬢様。お召し物が整いました。

 皆様、踊り場でお待ちになっております」


 そして、丸一年もあれば、侍女に着付けされることも、ましてや思考段階でお嬢様らしく振舞うことにも慣れてきたものです。

 そうして私が私となってから365日が経った本日、このリリアーナ=ファイサード=リ=メール=フォン=ナインテイルが13歳を迎えたこの日こそ、新たな楽しみを始めるに相応しい吉日となることでしょう。


「ええ、ご苦労様、クレア。

 さぁ、参りましょう」


 私付きのメイドであるクレアが深紅のドレスを整えてくれたことに私は感謝の言葉を継げると……足を前へと踏み出します。


「……では、始めましょうか」


 そう呟きながらも私は、魔力を込めた指先で近くにあった甲冑の、胸甲の金属を軽くむしり取ることで気合を込め……お父様とお母様、そして我が家の配下である騎士家当主たちが座す踊り場へと通じるのドアを開いたのでした。


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