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君のオレンジなんか救けなきゃ良かった  作者: 綾沢 深乃
「第8章 もう大丈夫」

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「第8章 もう大丈夫」(1)

(1)


 高校を卒業して制服を脱いで、大学に通って、社会人になってスーツを着た。当初は緊張したけど、行先が学校から会社に変わっただけで、学生時代に乗ったのと同じ電車に乗っている。


 毎日、学校で会っていた連中とは、互いの時間を合わせないと会えなくなった。次第に連絡が希薄になって、中には疎遠になった人もいる。一方で新しい場所で仲良くなる人もいる。


 人が生きていく限り、時間は進むし変わらない事なんてない。


 会社の帰りに揺られる電車の中で澄人は、そんな事を考えた。そして、普段降りる駅とは違う、繁華街の駅で降りる。大勢の人で賑わっていて、街の雰囲気は高校生の頃と変わらない。建物もそこまで変わっていないけど、少しずつ新しい建物が増えている。


 空が夕方から夜に変わっていく。その僅かな隙間のような時間。


 あの頃を思い出して澄人は久しぶりに懐かしさを感じた。当時と同じ季節がそうさせたのかも知れない。あれから随分と長い時間が経った。それでもあの日の思い出は、心に刻まれている。この思い出はお金では買えない、かけがえのない財産だ。


 目に映る大勢の人々にも自分と同じような思い出があるのだろう。


 仕事終わりのこの時間、駅に向かう人が殆どの中で澄人は流れに逆って駅から離れていく。繁華街を抜けて、アーケードを横切り、オフィス街を歩く。そして、オフィス街の一角にあるレンガ造りの喫茶店に辿り着いた。


 特徴的な緑色のドアはお店の店名の由来になっていて、上部にはカウベルが付いている。


 高校生の頃は、あの事もあってほぼ毎日、来ていたけど歳を重ねるにつれて、時間を作らないと行けなくなった。


 いつもと何も変わらないように店の前に立ちドアを開ける。聞き慣れた居心地の良い音色が流れる。中に入るとデロンギのヒーターで整えられた暖かさが澄人を迎え入れた。音に反応してこちらを向いた香夏子と目が合う。


「いらっしゃいませ。あっ、澄人くん」


「こんにちは、香夏子さん」


 香夏子は今も働いている。当時から殆ど違いはないが、大きな違いは、彼女の左手の薬指にある指輪。数年前に巧と結婚したのだ。仲が良いとは思っていたけど、結婚すると言われた時は本当に驚いた。


 巧さんは現在、会計士としてこの街にある会計事務所で働いている。その為、昼休みは、よくココでランチをするそうだ。最初こそ、ずっと仕事でろくに寝ていなかったらしく、香夏子が心配していたそうだが今は落ち着いたらしい。


 休日でもお店に顔を出している時があるので、大学時代に何度か会っている。その際、就活関係でアドバイスを貰った。


「彩乃ちゃんはもう来てるよ。いつもの席」


「本当だ」

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