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君のオレンジなんか救けなきゃ良かった  作者: 綾沢 深乃
「第6章 期待してるから」

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「第6章 期待してるから」(2-3)

(2-3)


 三、四回のコール音が鳴った後、彩乃が電話に出た。


「はい、もしもーし」


「彩乃」


「どうしたの? 三嶋君から電話してくるなんて珍しいじゃん。しかも名前呼びだし。あぁ、風邪の具合だったら——」


 普段と何も変わらないように状況説明する彩乃に少しだけイラつきながら澄人は返す。


「正弘さんと会った」


 その一言で充分だった。風邪の具合を説明しようとしていた彩乃がピタリと止む。僅かな沈黙が流れた後、携帯電話から「へぇー」と素っ気ない声が聞こえた。


「今、どこにいるんだ?」


「探してみてよ? いつも三嶋君……ううん。澄人君に提案させてばかりだったから、私からの未練作りの提案って事で」


「分かった。でもヒントを頂戴。流石にヒントもない状態だと探しようがない」


「しょうがないなぁ。じゃあ、前に一度来た事がある場所」


「それだけだとまだ、候補が多すぎる。飛行機だって使った事あるんだから。俺一人の力では探せない」


「もぅー、ワガママだなぁ。特別に大ヒントをあげましょう。今、三嶋君はどこにいる?」


「学校の最寄り駅前」


「そこから一時間以内で行ける所にいます」


「大ヒントだ、ありがとう」


「どういたしまして。その代わり、二時間以内に見つけてね? そうじゃないと私、今度こそ死んじゃうから」


「任せろ」


「わぁ、カッコいい。期待してるから」


 彩乃との通話が切れる。携帯電話を耳から離して、ポケットに入れた。


 途端、全身が得体の知れない大きな圧力に襲われた。それに潰されないよう、ゆっくりと口から息を吐いた。両手を握って開く。


 よし、力は入る。体は動く。余計な圧力を抜いた澄人は出された課題について、思考を巡らせる。


 ココから一時間以内で彩乃と行った事がある場所。候補地はいくらでも出てくる。とても二時間以内で回り切る事は不可能だ。


 しかし、やらなければいけない。その為に今の自分に出来る事……。


 澄人は再び携帯電話を取り出して電話をかけた。相手は、前野だった。


「いきなりごめん。今、電話大丈夫?」


「どうした澄人」


「事情を長く説明している時間がないんだ。まず、そこに佐川はいる?」


「いるぞ、ファミレスで勉強してるからな」


 二人が一緒にいるのは、説明が省けて助かる。


「和倉さんを探しているんだ。彼女、病欠じゃなかったんだ」


「……心当たりは?」


 少しの説明で前野は大よそを理解してくれていた。彼に頼んで正解だった。


「今、俺がいるのは学校の最寄り駅。本人とさっき連絡がついて、ココから一時間で行ける所にいるって。そして俺と一緒に行った事がある場所らしい」


「俺達がいるのは、いつものファミレスだ。学校の最寄り駅からは一時間以内の場所だが、探す範囲に含まれるか?」


「充分。そこのファミレスがある繁華街にはよく行ってたから」


「分かった。取り敢えず店から出るよ」


「助かる。今から俺もそっちに向かう。電車の中からメールで彩乃と行った場所を送るから、向かってくれ」


「了解、見つけたらすぐにメールする。佐川、緊急事態」


 前野が佐川に事態を説明する声が聞こえる。佐川は最初、いつものふざけた声を出していたが、すぐに引っ込めた。そして前野に代わり電話に出た。


「澄人、今事情は聞いた。任せろ、お前が着く頃には見つけてやるさ」


「ありがとう、心強い」


 佐川の言葉に勇気付けられた澄人は彼に礼を言って電話を切った。


 次に瀬川に電話をかける。彼女もきっと力になってくれるだろう。確信を持ちながら、コール音を待つ。何コールかで彼女は電話に出た。


「もしもし?」


「瀬川? 三嶋ですけど」


 携帯電話越しの瀬川は少し不機嫌そうだった。構わず澄人は話を続ける。


「何か用?」


「突然ですまない。和倉さんを探してる、手伝ってくれないか?」


「どこを探せばいいの?」


 彩乃を探していると言っただけで、スイッチが入ったらしく瀬川の中から不機嫌さは消えて、冷静さが生まれた。彼女は彩乃に関して、とても心強い。


「学校の最寄り駅から一時間以内で俺と行った事がある場所にいるみたいなんだ」


「結構、広くない?」


「そう。だから俺一人では探し切れない」


「だけど二人でも難しい」


 瀬川の不安に澄人は「ああ」と答える。


「前野と佐川にも頼んでるんだ。二人とも繁華街のファミレスで勉強してたから。あの辺を探してくれてる。範囲内だし」


「はぁー」


 てっきり納得してくれると思ったのだが、携帯電話から聞こえてきたのはため息だった。何故ため息? 戸惑っている澄人を余所に瀬川が続ける。


「まぁ、いっか。人手が増えるのは正解だし。でもこれ以上は増やさないで。あの子に悪いから」


「親戚の人には話してるけど、これ以上は話さないよ」


「ならよし。取り敢えず、学校の最寄り駅前のスーパーから探してみる。流石に行ってるでしょ? いなかった連絡するから、次はどこを探せばいいか教えて」


 瀬川はそう言って電話を切った。今いる最寄り駅も対象内だ。先に探してもらえるのはとても有難い。彼女との約束通り、これ以上は人を増やせない。今の人数で見つけるしかない。


 最寄り駅の改札を抜けて、ホームに降りる。地下鉄が到着するまであと八分。今の自分に出来る事を。


 澄人は前野と佐川、あと瀬川に向けて、メールを書き始める。


 この数ヶ月、彩乃と行った場所を箇条書きで書き始めると、一つ一つの場所での出来事を思い出す。


 自信満々で紹介したのに明らかに興味のなさそうな彩乃。


 少しだけテンションが上がり、声のトーンが高い彩乃。


 お金をかけて美味しい物を食べて、自然と頬が緩む彩乃。


 そのどれもがもれなく再生される。


 箇条書きを終えると、丁度良いタイミングで地下鉄がやって来た。目的地までは二十分はかかる。


 地下鉄に乗ってしまうと電波が不安定になってしまう。澄人は乗ってすぐにメールを送信した。


 空いているシートに腰を下ろして腕を組み少しでも体力を温存すべく、目を瞑る。


 この世界のどこかにいる彩乃の姿を思い浮かべながら。

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