4話:解釈
春休みも終わり、練習も早朝や放課後になることが多くなった。
職員からの目は相変わらず早く終われと言わんばかりで見られている。しかし、練習を欠かさずにしてる為か誰も声をかけようともしなかった。
黒岩の緊急離脱に女子応援団は職員からの解散勧告へ一歩近づく。
職員は守山に対してこのようなことを言われている。
「君は後輩の黒岩桐乃に何を指示した?両足骨折と熱中症だと聞いてるが、それは君が責めたからだよね?別にこれは認めなきゃいけないってわけじゃないけどこのまま続けるのなら君がパワハラ的な方法で後輩の健康と思い出を侵害してるという形で退学処分にするからね。それだけは肝に銘じて下さい」
山本も自身の責任に重みを感じていた。
弟子入りを志願した黒岩に対して柔軟の向上と体づくりを基本に教えていた。しかし、不思議に思ったのはなぜそんな怪我につながりにくいことをしてないのに骨折へとつながってしまったのか、山本はそれが違和感だった。練習の時間になると共に、その違和感は大きくなり山本は練習後黒岩へ会いに病院へ向かう。
両足の骨折はなかなかきついものだと思われたが、奇跡的に治癒力が高くあと少しでリハビリ期間が終わるところだ。2人きりになると山本は黒岩に今までの事と何故ボロボロになるまでオーバーワークしたのかを聞くことに。
「山本先輩、ごめんなさい。他の人たちに迷惑かけちゃってますね…。守山先輩から怒られた時にちゃんとしないと最後の青春思い出に泥塗っちゃうと思って体力はともかく、家に帰宅してから100キロほどの重りを足に背負わせて開脚したりしました。しかし、3日目くらいに股関節を痛めて限界が来てました。その現実を受け止めたくなかったから無理をして骨折も隠してやり繰りしました。って言っても私は先輩のように上手じゃないですし、これをしないと守山先輩から認めてもらえない恐怖もあったので…怒られて、泣いて、練習しての繰り返しに絶対自分を変えなきゃと心から強く思いました」
山本は、涙を堪えながら話を聞いた。
気づけば鶴海と高部がそばに居た。話を黙って聞いていたらしい。そして、3人は当時練習してた時の動画や楽しかったこと、そして心が折れそうになった時の事を黒岩と一緒に笑いながらも涙流したりして話す。
「なみも最初は上手ってわけじゃなかったよ。誰だって最初から上手だったら才能あるよねー」
山本の一言に鶴居は、
「山本はまず練習よりも盛り上げ上手だったよね。それに、先輩の誕生日とかも率先して歌ってたわけだからさ。あの時も元気良かったけれども怒られた後だったし、足は擦り傷まみれで筋肉が痛いって言ってたね」
高部も頷きながら聞いて話した。
「私は、普通になみから誘われたわけだからあまり何とも思わなかったし、ただ青春を謳歌するならこれが1番だと思うと最初の2年間は無駄じゃなかった気がするよ。だから、後輩にはその背中を負って欲しいしその後輩から後に続くはずの演舞解散は嫌だよ。だって…私たちにとっては大きな転機だったじゃん!」
高部は終始涙ぐみながら話した。
黒岩も3人の先輩に囲まれて色んな話を咀嚼しながら聞いた。堪えていた涙を流しながら嗚咽を出して3人に話す。
「この演舞で得れるものは青春もそうですし、強い精神力と心です。私がそれを鍛えたいために入団しました。だから…今度はちゃんと上手になれるように懸命に練習して守山先輩もそうだし、山本先輩や鶴海先輩、高部先輩のようにそのような感じで後輩に話せれるような先輩になりたいです。絶対約束します。守山先輩の団長の座を得るために骨を粉にするまでの覚悟でついて行くので宜しくお願いします!」
黒岩が流す覚悟の涙に山本はポケットに入れていたハンカチを取り出して、黒岩の目元を優しく拭いた。
黒岩なら2年後応援団団長になれるよと言わんばかりに笑顔で応える。
男子の応援団はちゃんと練習してるだろうか?と3人は思ったが、守山から一つの動画が送信された。そこには大山と副団長の三國が映っていた。何だろうと思って再生ボタンを押した。
「黒岩さん。経過はどう?僕らは男子応援団で団長の大山です。隣にいるのはチビの三國です」
「いや僕はチビじゃないですよ~。どうも、副団長の三國です。これから流すものは我ら男子応援団から黒岩さんに
エールを送るためのものになります。元気にまた一緒に練習できる日を心から待ってるから!」
大山の一声で男子応援団は整列し、得意の三三七拍子を送る。大山自身が単独で舞うキレッキレの演舞に山本、鶴海、高部は見守っていた。
最後に守山の姿が映し出され、そこにあったのは本番に着る服が全員分用意されていた。
「黒岩さん!怪我の方大丈夫?私のせいでこんな傷を負わせてしまい本当にごめんなさい。そして、山本や鶴居、高部にも迷惑かけてごめんなさい。練習もみんな進んでるけれども、黒岩さんがいつ戻ってもいいようにサポート出来るから!そして今日本番用の服が届いたから本番までに回復と練習、そしてこの服を着て感動の渦にしよう!」
黒岩は大泣きした。涙を流しすぎて足に巻かれた包帯がグチャグチャに濡れた。自分の帰りを待ってくれる人たちがいるんだ、と。動画を見終わった後、気づけば山本もみんな自然と涙を流していた。
その後、病院を出て3人は帰路につく。いつものように山本は一人で鏡を見ながら練習をする。
その時、知らない電話番号が彼女の携帯から鳴った。恐る恐る電話をかけるとその相手は演舞反対派の職員の一人、六田だ。
フルネームで六田新三郎。彼は数学の教師で、古参の先生だ。多くの人を叱ったり、理不尽な理由を突きつけて事実でない事を事実として認めさせようとする、一言で表せば老害だ。
「この時間に何のようでしょうか?」
山本は恐る恐る話した。そして老害の六田はクソすぎる一言を放つ。
「君と高部、鶴海で黒岩の入院する病院へ行ったらしいな?そこでパワハラ的な発言をしたと聞いてるが、違うか?内容は骨折ごときで入院するな、とかの情報だが…?」
山本は怒りを覚えた。
慰めとアドバイスをするためにお見舞いへ行ったのに、それがパワハラだと見做されることに憤りを感じた。勿論、高部や鶴居にも話が回った。老害の巣窟でもある山本の学校は、話が伝わらないことが殆どで自分らの不都合は力で捩じ伏せられ、校長の名を安易に使って問題行動を起こしている。
そんな学校の職員に、全校生徒は頭を抱える。解釈を打開するべく、山本は早めに寝た。
その翌日、山本と高部、鶴海は職員室へ呼び出されるとその目の前には黒岩の母親と六田が座っていた。