48話:トゥルードリーム(中編)
太鼓を叩く後輩2人が配置に着く。放送は女子応援団の紹介を行った。
「これより男子、女子応援団によります応援演舞を開始します。まず始めに女子応援団の紹介です。こんにちは、私たちは女子応援団です。この応援団は総勢24人と多いですがとても明るいのが魅力です。男子もそうですが応援団は一時期存続の危機にありました。しかし、その危機を乗り越えて演舞ができる事に感謝して一つ一つを心込めて披露します。壮絶な練習から泣き出したい時もありましたが、ここまで耐えることが出来ました。最後まで私たち応援団を刮目して下さい」
素晴らしい紹介に女子応援団は笑顔になる。
太鼓の音が始まると、最初の技をするべく配置の通りに動き始める。無駄のない動きと最初の技が決まり、ドーム内では拍手が溢れる。太鼓の音が激しくなった。山本たちは一気に走り抜けてテレビの生放送で行ったあの技を繰り出す。
(大丈夫、ここまでは失敗していない。繋いでいないのに手があったかい…。もしかして)
山本は演舞の振り向く際に自身の手を見た。一瞬しか見えなかったが、デートに行った前宮の姿があった。
最後の力を右手に託して空耳なのか、一言聞こえる。
「まゆ…最後まで僕のためにありがとう」
残りの技を決めてフラフラになるまで演舞を行った。お守りのネックレスは山本の心を熱く、最後まで切れる事なく女子応援団の成功を見守る。
最後に行う千手観音で、山本のつけていたネックレスの飾りが割れた。整列して一礼した後、すぐに確認する。
「おへそのところで何か引っかかってると思ったらこの破片は…涼太が付けてたあのネックレスの飾りだ。最後まで守ってくれたんだね。私たちよりも涼太がカッコいいよ。私にとって最高な彼氏だよ」
山本の見た手を握ってくれた人の正体は彼の優しい心と成功に導くために、2度と戻れないからと思って現れたのかもしれない。女子応援団員同士でハイタッチをして成功を喜び合った。
最後となる4人は互いに抱き合った。
「最後まで本当にお疲れ様!そして後輩のみんなもよく頑張った。次はOBとして見に来ることがあると思う。その時はまた宜しくね」
守山は団長として、最後の言葉を副団長嘉藤含む20人に全てを託した。
しかし団長の目には光るものが見えている。団長としての責務を全うしたからこその嬉し涙なのだろう。
「なみは私に泣くなって言っておきながら泣いちゃってるじゃん。でも、ここまで頑張れたのもなみや鶴海さん、高部さんがいたからだと思ってる。応援団存続のために散ってしまった2人も、ちゃんとした団員だよ。今度は大山君たちの花道を見届けよう」
「そうだね。整列してその場に座って見届けようか。14人の若き精鋭を…」
大山が率いる男子応援団の応援演舞が始まる。髪型もバチバチに決めており、男の中の男と言ってもいいほどの仕上がりだ。
「そーりゃっ!」
「ウス!」
大山と三國は、それぞれの動きに息を合わせて舞う。生中継で披露したあの技もあの時以上の精度で、ドーム内にいる人たち全員の心を掴んだ。それは女子応援団以上の歓喜となり、手拍子が流れるほどの演舞へと進化した。
「大山君、流石すぎる。いや今は誠也団長と言った方が正解かな。最後まで花道を目に焼き付けるから思う存分楽しんで」
鶴海は大山の機敏な動きを見ながら休んだ。
全ての技を終えた後、大山を先頭に最初の立ち位置へ整列する。花道は互いに頑張った団員と握手を交わすなりして戻るのだが、三國に対しては辛辣だった。
「お疲れ。次の団長頑張れよ!嘉藤と付き合ってるみたいだし、二大巨塔で俺たち以上の演舞を披露してくれよな」
「頭を叩かないで下さいよ。しかもすごい笑われてるし…でも、大山団長のおかげです。この勢いと心意気を大山ニズムと称して頑張ります」
頭を叩かれた三國と目一杯叩く大山との関係に生徒一同は爆笑する。整列して一礼した後、女子応援団と成功した事に喜び合った。
「お疲れ様!大山君、最後カッコよかったよ。これで私たちの応援演舞は、本当に終了だね。寂しいけど楽しかった。あとは午後の部を楽しんで閉会式に…」
「ちょっともう…。前宮じゃないんだからさ、山本疲れてるじゃねぇか。そしてこのカケラは何だ?でも何か見覚えがあるが、なるほど。あいつとの思い出か」
山本の握りしめていたネックレスの飾りを見て大山は納得する。
車椅子に座っている男と、優しそうな男性が最後まで見ていた。これを見た守山と鶴海はその後を追いかけたが、消えていた。空に雲一つない、晴天であの2人が笑ってくれてるのだろうと追いかけた2人は解釈した。