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46話:演舞者の代打

 治療が行われたものも、城島は皮膚を縫うためのキットを取り出しながら迷っていた。彼女たちは最後の体育祭でもあり、特に応援団をふる守山やその仲間たちの傷口はなるべく目立たないようにしたいというもの。


 最後の思い出に傷をつけたくないという思いが強まる。


「仕方ない、という一言で片付けられるのは嫌だな。よし、縫うのは演舞後にしてステリーテープを貼るからそれで対応しよう。固定した上で今晩からどこまでの治癒が期待できるか分からないけど、やってみるしかない」


 粋な計らいに感謝しかなかった。守山の怪我は、皮膚の表面が切れていただけの状態で深いように見えたのは光の加減が原因と判断。


 しかしトラックを運んで運転席から身を投げた山本の怪我は、打撲だけではなかった。


「まゆっちは大丈夫なの?体操服見ても少し土汚れがすごいっていうか、さっきから歩き方変だよ?」


「右の太ももをクッションにしたから少し痛くて…。走れないってわけじゃないから大丈夫。動けるから…痛っ⁉︎」


 山本の足に痛みが雷撃のように走る。城島は守山の処置後すぐに山本の足の状態を見た。


「右の太ももをクッションにしたと言ってたが、どうやらぶつけた箇所は内出血を起こしてるようだ。湿布と氷嚢で痛みを和らぐしかないな。他の人たちは大丈夫か一旦回る。何かあったら呼んで欲しい」


「分かりました。本当にありがとうございます城島先生」


 城島は他の生徒の怪我を治すべく、医療キットを持って走る。


 守山と山本は2人っきりで最後の応援演舞の話を始め出した。


「なんか最後って思うと泣きそうになるけどこんな事になるなんて思っても無かったね。ラストに相応しいというより、教育委員会相手に戦ってるのが本当に笑える」


「そうだね…。最後は有終の美を飾れるだろうと思ってたけど、それも無理みたい。最後に怪我人を出すなんて思ってもなかったしさ」


 2人は爆発したドームの損害状況を見ながら、積み上げてきた演舞の努力に良い終わり方ではなかった事に哀愁漂う雰囲気を出していた。


 何もかも考えたくないと思った矢先、とんでもない放送が駆け巡る。


「明日の体育祭についてですが、予定通り開催します。応援演舞を行う男子応援団と女子応援団は中央の壇上へ集合して下さい」


 ブラック企業のようなやり方であったものも、何故か嬉しそうに笑う。山本にとってはこれが最後でもあり全力な応援演舞を大切な人へ向けてしたいという思いが強いからだ。


「お、大山君もいるね。傷無しって流石だわ」


「え、そもそも俺は別のところで部活動リレーバトン渡しの練習してたから何でこんなに傷ついてる人いるのかよく分からない…。何があったん?」


 山本と守山は一部始終を話した。


 話している最中に治療を終えた高部たちが集まる。高部と鶴海は軽症で済んだため、動ける事に変わりは無かったものも後輩の方で重傷を負った団員がいたらしく欠場せざるを得ない状態という事を2人に話した。


「なるほど…で、鶴海さんに聞くけどその重傷を負った子は誰?」


「まゆっちは傷つくかもしれないけど黒岩桐乃がやられた。最後まで拘束した結果、爆風と共に真っ向からダメージ食らったからだと思う。城島先生からは演舞は難しいだろうって…」


 一同はどうするべきか分からずに答えを出せなかった。トラックにぶつかって吹っ飛んだ三國幸治郎は、あの後奇跡的に動けるということで大山は団長としての責任も感じながらも、内心ホッとする。


「となると、代わりの子は流石に使えないし今からやるってなると地獄を越えるよね…」


「まゆっちの言う通りで流石に新しい団員増やしても意味はないよね…」


 守山と山本、高部と鶴海は悩む。


 このまま1人欠けた状態で演舞を行うかそれとも配列を考え直すか、考えは何通りにも出てきて追い詰められた時1人の女子が目の前に現れた。


「何かお困りのようだけど、私が最後に復活しようか?」


「え、栗原さん?でもなぜ…」


 2年前に参加して以来の彼女が復帰を志願した。


 山本は栗原と面と向かって話すのはいつぶりだろうと思う中、守山は笑顔になる。


「そう言うと思った。栗原さんの配置は黒岩がいたところになるけど、どうやら偶然にも2年前した時と同じ場所になりそうだね」


「運命かもね。やれるなら今すぐやろう」


 守山の指示に女子応援団の本番前最後となる練習が始まった。小刻みな太鼓の音とともに細かい手の動き、時間差での技を決めるなど完璧そのもの。


 2年ぶりの栗原はブランクを感じさせない動きを見せて誰もが納得のいく、最後に相応しい演舞が積み重ねた努力と共に実る。


「流石栗原さんだわ。これで良いね!」


「最後まで自分たちの演舞をみんなに見せて元気を与えよう!まゆっち、後で話がある」


 女子応援団の練習から次に男子応援団の練習準備が始まる。守山はそのまま鶴海と高部を連れて自販機へ向かっていたが、山本は絶縁状態の栗原と話をした。


「何を今更話そうとしてんの?私の涼太君をバカにしてさ、今度は復活するって自由気ままにも程があるよ」


「まゆっちの言う通りだよ。私は自由気ままであなたの大切な人を潰すためにここまでやってしまった。取り返しのつかない事をしたのは私も、下森も痛感している。今更まゆっちに謝っても許してくれないのは承知の上。でも私なりにケジメを取りたいの。だから、それは分かってほしい。本当にごめんなさい」


 栗原の謝罪は嘘のない、純粋な思いだった。


 今までの仕打ちを考えた山本だったが、栗原の目から光るものが見えた。その覚悟を信じて彼女の肩に手を載せて話しかける。


「理恵ちゃん、分かったよ。今までのことを思い出してたけど過去は変えられない。でもこれからの事は今の行動から数分、数秒後の私たちに何が起きるか分からない。もう一度友人として1からやり直そう!」


 怒られる覚悟を持って話した栗原に山本は許した。心の広い山本だからこそ言える事なのだろうと、栗原なりに解釈する。


 全ての練習を終えると山本1人、泣いている姿が見えた。


「もうこれが最後。涼太と一緒に居たかったよ…。明日君に向けて魂の演舞見せるから私たちの成功を祈って欲しい」


 隠れて様子を見た守山と大山、高部、鶴海も同じ気持ちで最後の演舞を心ゆくまで舞うことを決意する。


 これが努力をした結晶であるということを。

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