45話:青春の代償
突然の事に状況が掴めない守山だったが、何かを察したのか後輩に思わぬ指示を下した。
「君たちは先に男子と自主練して。私たち先輩がちょっと調べてみるから」
後輩である黒岩と嘉藤は困惑したが、人を呼んですぐに練習が行われた。
大山と鶴海、守山、高部、山本は作戦会議をした。
「電話の内容は申し訳ありませんって言おうとした時に途切れた。恐らくだけど誰かに襲われたに違いない。応援団を潰そうとした人間って他に誰がいた?」
「確か、下村と六田…三武、一嶋、三浦かな」
大山は思い出す限り名前を出した。
幸いな事に今日は予行練習でもあったので応援演舞に使う道具の替えができる状態だ。しかし、守山は妙な違和感を感じていた。大山の思い出した名前を聞いても全て山本の彼氏により潰されたはずだろうと…。
「ねぇまゆっち、そう言えばだけど三武って何もしてきてないよね?あの一件以来…」
「そういえばそうだね…それがどうかしたの?三武がこの件で何か関係するの?」
話をしている最中に待っていた搬入口から大型トラックが突っ込む。そこにいた体育祭実行委員会と三國幸治郎が巻き込まれた。
「大胆な登場方法だね…」
「どうやらあなたが最後の妨害者のようで…。三武先生。また前みたいに殴り殺されたいですか?それとも何か変なことしようとしてますか?」
守山と山本は目つきを変えた。
心の弱かったあの時の目ではなく、前宮が放った目つきのように変貌した。
「まぁ…妨害かもしれないし、皆殺しかもしれないな。これが爆弾なのだから」
三武の運転した車は時限爆弾だった。タイマーも見えるように設置しており、爆発までの時間が5分を切っていた。
「やばい…。このドームごと吹き飛ばすつもりなのかな…なみどうする?」
「まずは手当だね。三國君を救って他の人たちを誘導した後、私たちで止めよう」
守山は覚悟を決める。それもあってか女子応援団全員が逃げずに集まってくれた。
「みんな…何で逃げないの?私は歴代団長のように最後まで守りたいの。だから逃げて!」
「守山団長と山本先輩だけ残ってそのまま死んだらどうするつもりですか?どんな時でも逃げるなって言われたからには私たちは逃げません。一緒に戦いますよ!最後まで!」
副団長嘉藤とその仲間たちはその思いを伝えた。
守山は頷き、行動を開始した。
「嘉藤と黒岩の組に分かれて!嘉藤組は怪我をした人たちを外へ連れて行って。黒岩組は私たち4人と一緒に時限爆弾の爆破を防ぐのと三武を拘束!」
守山の指示に声を揃えて返事をした。怪我をした人を助ける嘉藤組は思った以上に早く終わったが、黒岩組と守山たちは最悪だった。
「分かりにくい…どうしよう」
「落ち着いてよなみ!もう、こんな時はこの車ごと外に放り出してみるのはどう?トラックのサイドブレーキを下げて、ハンドブレーキをRに設定してスピード上げた上で飛び逃げるんだよ。そうしたらこのドームはどうにかなる!」
守山は止めることができずそのまま山本は運転席へ移動してトラックを猛スピードでバックした。
黒岩たちは三武の拘束に成功して高部と鶴海が尋問する。
「よし…これなら問題ない。このままあの大通りへ突き進め!」
すぐに飛び逃げた山本は、アスファルトに打ち付けられて石に引っかかったのか体操服が少し破れてしまった。
しかし腰の部分だったので問題無かった。
「痛かった…。これで大丈夫のはず」
一言胸を撫で下ろすかのようにして呟いた時、ドームに火の手が上がった。近くにいた生徒は大声で叫んだ。
「大変だ。男が自爆したぞ!今すぐに逃げろ!」
「嘘…鶴海さん、高部さんそして桐乃ちゃん…!!」
痛めた体を起こして山本は痛みを我慢しながら走る。ドーム内へ戻ると腕に火傷を負った守山と軽傷で済んだ女子応援団がいた。
「大丈夫⁉︎一体何があったの」
「三武は爆弾を体に飲み込んでいたらしく、自身の体を犠牲にして死んだ。私は少し右腕を切ったけどとりあえず大丈夫…少し痛む…」
「なみのバカ!明日本番なのに…どうにか出来ないかな…あ、城島先生呼べば打開策があるかもしれない」
山本は保健係の展開場所へ走り、城島克己を探しに向かった。城島は爆発で怪我を負った生徒の看病に大忙しだった。
「山本さんどうかしたの?とても息を荒くして走ってきたようだけど…」
「先生、守山七海の処置をお願いできませんか?爆発で右腕を深く切ったようです」
城島は今の治療段階を見た上で保健係に任せて医療キットを持ち、山本と走り出した。
「守山さん大丈夫ですか…?」
「城島先生…。少し右腕を切ってしまいまして…ここまで来させてしまいごめんなさい」
「それは大丈夫。君は生徒なんだから心配はしないで!感謝は山本さんにしてあげて。とりあえずまずは傷口を見るからちょっと痛むけど我慢してね」
城島はゴム手袋を着用し、消毒液で守山の傷口を消毒する。
痛かったのか、仰け反るような素振りを見せた。
「痛かったね…すまない。傷口見るからちょっと我慢してね」
城島は傷口の状態を見て把握した。深刻なようにも見えたが、1つ笑った。
「筋肉まで傷付いてないから大丈夫。麻酔を打って縫合しておこう。女子応援団演舞もあると思うから傷口は目立たないように縫うから安心して」
「ありがとうございます城島先生…」
ホッとしたのか、山本は膝から崩れ落ちて無事を確認した。そんな様子を見た守山は仏のような眼差しで山本の頭を左手で優しく撫でた。