42話:本番前の試練
あれからどれだけ経過したのか分からないが、気づけば葬式場へ来ていた。ほとんどの友人は泣いていたが恨んでいた人やいじめていた人などにおいては笑うばかり。
山本は、前宮に最後のメッセージを送った。
「涼太君へ。私との出会いはこの中高一貫へ進学して中学3年生の時に家族とのトラブルで話をしてくれましたね。その後、自律神経失調症になっていた事に今も驚いています。応援演舞について色々ありましたが、私たちの応援団を守ってくれてありがとう。告白した時、とても緊張したけどあの時のデートも楽しかったよ。最後まで守り守られ続けると思いましたが、こんな最後になるなんて…思っていなかった。私にとって涼太君は最愛の夫でもあり、恩人です。時間を戻せるのなら出会った時に戻ってちゃんと治療をした上で人生を共にしたいです。男子応援団大山君や女子応援団のなみや高部、鶴海をここまで伸ばせたのもあなたのおかげです。お疲れ様でした。ゆっくり休んで下さい…。最後の言葉だけど、涼太。愛してるよ」
涙ながらに亡骸へ話す。この日、山本だけでなく大山や守山姉妹、応援団の団員全員が参加していた。
特に山本は最後の火葬まで付き合った。
「まゆっち大丈夫かな…。流石にあの様子だと嫌な予感しかしないな。大山君はどう思う?」
「奇跡を起こすしかないな。本当に病んでる心を立ち直らせるまでに時間はかかるもの。でも、仕方ないって一言に片付けられるのが周りの人。前宮の場合、俺たち応援団という関係のない団体を1人で教育委員会に立ち向かって倒した男でもある。そのようにして山本も乗り越えなければならない壁が今出来たわけだよ」
珍しく大山は名言を飛ばす。ずっと2人きりでいる時間が長い山本で、最後まで付き添ったのも山本であった。夜も更けて朝を迎える。
「眠れなかった…。涼太君失うってこんなにツラいんだね。何を思って頑張ればいいのかな…。もう分からない!私なんか生きてて良いの?それじゃ、自殺しようとした涼太君を止めずに一緒に自殺すれば良かったの?本当の幸せ、私の本当の夢って何なの…」
とち狂ったように山本は大泣きした。火葬の後、前宮の両親から山本に3つの遺品を託された。
1つは遺書、1つはペアルックのネックレス、1つは何も書かれていない4枚の紙。何をすれば良いのか分からない山本は練習の時も1人泣くばかり。
「先輩…」
「黒岩、今は自分の練習に集中して。後5日で体育祭だから!山本のことは私と後の2人に任せて」
心配している黒岩に安心を求めるかのように守山は震えながら話す。守山も事実、亡くなってしまったことに驚きを隠しきれていない1人だ。放課後の練習が終わると守山は高部、鶴海を含めて山本と一緒に話をした。
「まゆっち、大丈夫?って言っても今は心にぽっかりと穴が空いちゃったからツラいよね…」
「…」
守山の問いかけに答えるそぶりを見せなかった。山本はその後誰にも話す事なく帰宅する。1人部屋に閉じこもって泣いた。後悔までした。
写真まで撮った前宮との思い出を見ては目が赤くなるまで泣き続けた。そんな中、電話がきた。
「もしもし、なみだよ。気になって電話した。大丈夫?って言いたいけど過呼吸なところがあるから相当泣いたんだね…」
「何の用なの?今になって応援団抜けてとか言うの?あの人がいない限り頑張っても意味がないよ!何のために頑張れば良いのさ…」
悲しむ山本に守山は、女子応援団団長として厳しく怒った。
「まゆっち!いい加減にしろよ!1人死んでクヨクヨするのは分かるよ。でもね、進まないとダメなんだよ?なのにそうやって泣いて付き合ってた人とのことを思って何もできませんでした、結果演舞も今後の受験もダメでしたって通用するわけないでしょ。無理しすぎと言うよりも今回の場合は乗り越えなきゃ始まらない。次泣いたら強制的に抜けてもらうから」
守山はそのまま電話を切る。通話終了後も山本は悲しく泣いていた。守れなかった申し訳なさと失った穴が大きかった。
その後いつものルーティーンはする事なく眠る。夢の中で前宮に出会うなんてその時は思う事はなかった。
「体は焼かれたけど魂はまだここに来れるから最後に話をしようかなと思って夢の中へ来た。少し驚かせたな…」
「涼太君!これが最後なのね…。分かった」
「遺書の続きを話すよ。ネックレス受け取ったと思うけど、飾りをまゆっちの方に共に付けてほしい。僕が一生懸命守るから。ずっと泣いてたみたいだけど、もう泣かないで!守山との通話の内容も魂だから見れたけど最後の演舞頑張ってほしい。もう時間だね…。遺書の続きは僕の書斎の机に入れてある。それが、僕の演舞紹介文だから。天から森田先生と共に見守るよ。可愛いまゆっちの顔が台無しだぜ?嫌なことあったらこのネックレス付けてほしい。それじゃ、さらばだ…」
光と共に消える前宮に追いかける山本だが、目が覚めた。目覚まし時計の時刻は午前5時を回っていた。
「ネックレスの飾りってこれのことか…」
取り出したネックレスについていた2人のトレードマークの色である青と赤の縁取りに銀色であしらえた、合わせるとハートになるもの。
そして、太陽の光が昇るにつれて遺書に続きが写し出されていた。
「この文字はなかったはず…これって男女共用の応援団紹介文書?最後まで辛い中書いてくれたんだね…ありがとう」
涙を堪えながら山本は天に向けて感謝を述べる。
最後の体育祭応援演舞に全てを尽くす事を山本は誓った。