39話:冷酷な1発
放課後、男子応援団はOBの平井が監督した。伝統なのか確認をOBがした上で最終チェックが行われるというものだ。
女子は前のめりになってチェックの合否を見る。
「これは凄いな…去年より今年の方が1番動きが良い!誠也…お前やるじゃん」
「先輩の第一声はそれなのね。流石だろ?」
調子に乗る大山の頭に1発の脳筋スマッシュが炸裂する。振りかぶるその姿は、鍛冶屋のハンマーのよう。
平井は山本の横にいる1人の男に気づく。
「あの女の子の横にいるのは誰?」
「前宮で俺と同じクラス!その女の子の彼氏でもあり、応援団存続の危機を救うために教育委員会をボコボコにしたニュースの男です」
平井は女子応援団のところへと歩き出し、山本の横にいる前宮に話しかけた。
「君が教育委員会相手に真っ向勝負を仕掛けた男か!漢気があってしかも救ってくれたのは感謝だ。車椅子なのは心配だが、復帰したら筋トレしようぜ。女子の方もどうやって救ったのかその時に話を聞こう」
「そんな僕なんかに…勿体無い一言です。山本を守りたいと思って動いただけですよ。僕にとっては最愛の未来結婚する妻ですから」
流石の惚気話に一同は爆笑する。その時、あの時の銃声が響いた。銃弾は山本と守山の間を通り抜けて地面へめり込む。
「おいおい…こんな面白い話してる時に邪魔するやついるか?まぁ俺に任せろ!漢気見せた前宮のように決めてやるぜ。お前らは避難して見とけよ」
平井はノソノソと銃声のする方向へ歩く。
ロシアの最高銃弾アクロニウムを相手に威圧バリバリ出した。
「そこから撃ってるなんて、可哀想な男だな。それじゃこの砲丸を使って期待に応えてやろうじゃないの」
平井の怖さは卒業後、砲丸投げで才能が開花しており記録を更新し続けるメダリストでもある。投げた先のスナイパーはそのまま砲丸の餌食になり、叩かれた蚊のようにフラフラ落ちてきた。
「あの力どこからくるの?砲丸重いはずなのにコントロール良すぎ」
「ざっと460mの距離をあの速度で…さすが金メダリスト…」
ざわつく応援団。
すぐに取り締まった。顔を見て三國幸治郎の察する通り、一嶋だった。砲丸の勢いが強かったのかスナイパーライフルは木っ端微塵に壊れる。
「さて、何故そんなことをするのか尋問といこうか。誰に指示された?何のために演舞を狙う?前宮を殺すためか、それとも演舞有志者を対象に殺すためか?」
「貴様らは教育委員会を舐めすぎだ。前宮のせいで六田は歩けない体となり、俺と下村は懲戒処分。下村が車で事故を起こそうとしたのは計算のうち。登校時間を監視すればすぐに特定できる。鶴海を狙ったのは繋がりやすいやつから消していけば終わると思って狙撃した。それじゃ前宮よ、お前はここで消えてもらおうか」
小さなピストルを取り出して前宮の心臓を狙い撃つ。それを庇うかのように守山は車椅子ごと倒した。
「痛い…肩へ少し掠れちゃったみたいだね。お姉ちゃんもそうだし白石先輩も体張ってきたんだから現役女子団長も意地を見せないとダメだもの。貫通しなかっただけ奇跡かな」
「バカ野郎…団長であるからこそ傷つけたらダメだろうが。大山と同じことしやがって…死んだらどうするつもりだったんだよ。新しい包帯載せてるから使え!」
守山は少し笑って車椅子に積んでいる荷物から取り出した後、高部に手を貸してもらい包帯を巻いてもらった。出血が少なかったので大事に至らず。一嶋は平井と大山によって強引に取り押さえられた。
「隠し銃とはまた面白いことしますね一嶋先生。そういえばそんな銃を使って生徒を脅してましたね?僕の可愛い男子応援団後輩に!」
過去を暴露した平井に観念する仕草を見せる一嶋。しかし、革靴の中にも隠していた拳銃が火を噴いた。
「これで終わりにしよう。六田の仇を喰らえ」
「ま…じ…か…よ…」
銃弾は前宮の右足に命中した。一嶋はそのまま圧迫して平井の怪力によって意識を失う。
前宮の負傷した箇所の状態は弁慶の泣き所からふくらはぎへと抜けて大出血を起こした。
「涼太!ヤバいな…この傷は深すぎる。近くに病院あるか?」
「夜日高度医療センターは遠すぎるし…保健室の先生は元々医者だから治療してもらおうよ!これくらいなら麻酔かけて縫合すれば…」
山本の提案に従って保健室へ向かう。4人の女子が1人の男子を押して行くという光景に流石の保健室の先生も平常心ではいられなかった。
「どうした!この傷は何があって…。銃弾で撃たれた後?とにかく!今からオペするから、って守山もか。順番で診察して治療するから暫しそこら辺で座って待て」
保健室の先生をしているのは城島克己。夜日高度医療センターに勤務して教育委員会からの指名を受けて入ったドクター。外科的治療を得意とする凄腕でもある。
「よしよし…麻酔かけたからな。今から縫うので痛かったら言ってよ」
「…分かりました」
10分もしないうちに守山の治療が開始された。傷口も綺麗に治した城島に感謝した。