32話:激論の果て(前編)
大山の粋な作戦により、栗原と下森の本音を聞き出した2人だが残酷な事実を受け止めきれなかった。
真実を知るのはまた後にしたが翌日その影響は練習にまで響く。
「あれ…いつもなら失敗しないのにどうしたの?また何かあったの?」
「本当だ…まゆっちの失敗見るのいつぶりだろう。というか顔色悪いよ」
守山と高部が声をかける。しかし、山本は答えてくれなかった。練習を車椅子から見ていた前宮も不審に思う。
「…大丈夫だよ。私のせいだから。続けるよ」
「練習終わったらちゃんと話すこと約束して」
黙々と練習して汗と涙を流した後、前宮の元へ走り向かう。
守山たちに見えないように抱きしめた上で静かに泣いていた。
「よしよし…まゆっちはよく頑張ってるから気を負ってはならぬ。泣きたい時に泣かないとね人間おかしくなっちゃうから今のうちに泣くのが1番だから」
「ねぇ前宮も関わるなら知ってること話してくれないかな?知る権利くらい私たちにもあるでしょ」
守山の声に気づいた2人はマスゲームの事を話す。クラスで噂されていることや、こういう嫌がらせを受けていることなども洗いざらい解き放った。
「なるほど…栗原と下森がそんな事したのか…。何か心当たりとかある?」
「僕の方で気になってるのはデートの時にプリクラを撮った後に偶然出会ったけれども、様子が変だった。言葉に心がこもってないというか…簡単に言えばそんな感じ。もっと言えば、ここ最近マスゲームの復活を僕が受け持ったけれども事故前だったからあまり…」
前宮の証言で考察して時間をかけた結果、守山は一つの答えに辿り着いた。
「仮にそうなら栗原たちはマスゲームがなくなって復活をするために前宮君を利用したって事になる。そして、前宮君とまゆっちを引き離そうとしたんじゃないかな…」
「利用したまでは分かるけどなぜ真由と涼太君を引き離す必要があるの?」
山本の疑問は、マスゲームだけの問題なのに2人の愛を砕く必要はあったのか?というのが焦点となっていた。
「そういえば涼太君って下森さんとは仲良く無かったよね。なのに、なんで受け持とうってしたの?」
「マスゲームも女子にとって大事なものじゃないかなと思っただけのことさ」
分からぬまま3人はそれぞれの家に帰宅する。守山は気になっていたのか2人を招集して話をしようとした。
「このグループ何か、斬新だね」
「それは思った。呼んだ理由は今日話した事だよ。一度ぶつかってみるのはどうかな?私が進行係として進めるからさ」
どこかの番組かって突っ込まれそうだが、とても面白いと山本は思った。しかし参加しているはずの前宮は声一つも出していない。聞こえるのは寝息。
「涼太君…疲れてるのかな。でも私たちの演舞もそうだし色々と協力してもらってるから疲れるのも無理はないよね…」
「ま…まぁ…寝息も良い音だと思って聞いておこう」
寝息を聞きながら2人で話した。
「マスゲームと言えば確か黒岩もリーダー勤めてたような…。まゆっちが入院してた時に本人が話してたのよね…もしかしたら分かるかも」
「桐乃ちゃんが!?それなら尚更マスゲームのこと分かるかもね」
寝息の中通話は終了した。翌日寝癖の酷い前宮を見て山本は、腹の底から笑いに笑った。
「涼太君何その頭!寝落ちしてたの分かってたけどヤバっ」
「色々考えるものよ…。逆に寝てしまってすまない」
「問題無いよ!むしろ可愛かった(笑)いい情報も入ったから確認するの」
山本は練習着に着替えた後、合同練習を行う。
体育祭もあと1ヶ月を切っていた。泣きながら演舞をする人もいれば笑顔で楽しんでる人もいる。
「何で泣くの?出来ないから泣くのでしょ。泣くぐらいならもっとしっかりしろ!」
「泣くなら自分が最後になった時に泣け!その時私たちが今までやってきた事の責任の重さを思い知るだろうから」
高部と鶴海は怒りながらも優しい愛のムチを後輩に向けて打った。授業も受けて放課後練習も終わった後、山本は黒岩と会話する。
「あ、先輩!前宮先輩とはどうですか?」
「ふふっ女の子っぽい話で嬉しいな!もちろん良い関係だよ。私たちのために協力してくれたから本当に感謝してるよ。桐乃ちゃんはマスゲームリーダーだよね?無くなるって話聞いたと思うけど栗原と下森が私と前宮のことで何か話してたことあったら教えてくれない?」
ゆっくり時間を置いた後、黒岩は一息吐いて重い口を開けた。
「はい。山本先輩がいない間、前宮先輩のことをバカにしてたり股の緩い女だとか言ってました。前宮先輩がマスゲーム復帰に書類を見せてくれたという話も聞いてそれを見ましたが、精密すぎて感謝しきれません。でも、前宮先輩の体を壊そうとしていたのは事実で山本先輩についても初めての恋人なのにも関わらず股の緩いとか、浮気する女だとか言ってました」
山本はなるほどと言わんばかりに頷きながら聞く。
練習着から制服に着替えた後、山本は感謝を述べた。
「桐乃ちゃんありがとう。今の事、ボイスメッセージに保存したから2人に向かって真実聞いてくるね。心と覚悟は出来た。あとは私たちに任せて」
山本は黒岩にお礼のチョコレートを1つ渡して正門で待つ前宮の元へ向かった。
「やぁ…ゆっくりとここで友人と話をしながら待っていたよ。それじゃ行こうか」
「色々情報を入手してきたよ!ここからは私に任せて。涼太君は体を優先して」
前宮はこくりと頷いたあと、会話をしながら帰宅した。