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3話:地獄

 練習1日目。


 守山は1番目に練習場となる学校へ到着し、すぐに着替えて機材を準備した。


「今日から練習だなぁ…。山本はともかくみんなちゃんと遅れず来るかな?」

 

 春とはいえ、まだ寒さもちょっぴり残ってるこの時期は裸足になって練習するのは少し快適だった。男子女子のルールは晒されていなく、鉄の掟とも言われている。


 例えば、男子は靴でも裸足でも問題ないのに対して女子は裸足ですることが原則。暗黙のルールがある中での練習は誰よりも気を遣い、一人一人脱落することなく本番に向けて練習するのが団長の使命だ。


 練習が始まる1時間前。男子応援団団長と副団長らが到着して、その後について来るように山本、高部、鶴海が到着した。大山団長と三國副団長は制服で練習するらしく、汗臭そうだと4人は思った。


「なみ〜。遅くなってごめん!列車が遅れてた…。それ以外は高部、鶴海と合流して練習時間に間に合うことができた!」


 守山は笑顔だった。準備が進むにつれて後輩も続々と集合した。


 双方ともに揃い、お互いの成功を願って円陣を組む。


 大山が中心で取り行った。


「今回は職員らの濡れ衣、そして問題を起こしてしまって解散の危機です。なので、それを跳ね除ける為に最後まで気を抜くことなく本番に向けてやっていきましょう!元気良くいきましょうさぁ行こう!」


 初日の練習は動画を見たという前提で覚えてる範囲での確認と覚え具合の確認をした。


 男子は団長含めて13人という少なさに対して、女子は24人と天と地の差の人数だ。


 守山は早速指示を出して後輩に演舞をしてもらい、4人は横で見守っていた。開始から数秒で守山は止める。


「それ違うよね…?ちゃんと見たの?君一回抜けて。他の人の邪魔になるから」


 1人の失敗は命取りと教えられた守山は鬼の目で一人一人の動きを確認した。その後も1人、また1人と減って完全に覚えていたのは副団長含む2人だけだった。


「あれだけ動画見ててって言ったはずなのに何を見たの?何を練習したの?とにかく、今言われたところを修正して!私も含めて高部、山本、鶴海が指導するので指示に従ってください!」


 男子は初日から全体練習を行っている。カメラを置いて誰がどのように失敗しているかを確認する為もので、一通り技を組み上げて大山は撮り終えた後の動画を確認した。


「初回にしては良いのでは?でも、やるならもっと進化して良いかもな…。とりあえず日差しも強くなってきたから水分補給の時間をとりながら練習をしよう」


 大山は後輩を従えるほどの理想な上司でもあるため、後輩はそんな大山を憧れていた。


 三國は休憩がてらに女子の様子を見る。そして、大山に伝えた。


「彼女たち…なんかやつれてますよ?暑さで死んでるというか、1人倒れててそのまま日陰に運ばれてますよ」


 甘々な男子応援団に対して辛口な女子応援団の大きな違いが色濃くハッキリと出た。


「何してるの!同じところ何度も何度も間違えてさ…。話にならない。帰れ!」


 守山はブチギレていた。帰れと言われた後輩の状態は足の裏は血まみれで痛みに泣きながら練習をする。


「帰りません!私は自身の精神を鍛える為に入団しました。なのでもう一度確認してください!」


 何度も何度も行い、両団の練習が終わった時間は既に夕方6時を回っていた。


 女子副団長の嘉藤は泣いていた後輩に寄り添った。


「大丈夫か?足もボロボロで着てる服も砂だらけ…。守山先輩から結構扱かれたんだね」


 泣いていた後輩の名前は黒岩桐乃。嘉藤に憧れて入団したヒヨッコの団員。心と精神が弱く、いじめられていた過去を持っていた事がきっかけで女子応援団へ入った。


「大丈夫ではありません…嘉藤先輩。心も何もかもへし折られてしまいました…」


 そう言って立ち上がると歩いた足跡には血の痕がくっきりと残っていた。


「待って!流石にそれはダメだから私に手当てさせて。更衣室まで一緒に行こう。そこに治療道具揃ってるから!」


 嘉藤は黒岩の肩を担いでゆっくりゆっくり歩いた。


 部屋に着くと、足の手当てに取り掛かる。消毒液が染みるその痛みに黒岩は泣き叫ぶ。


「痛いです先輩…。何で私はこんなに心と精神が弱いのでしょうか?虐める人はなぜこんなにも冷たくて残酷なのでしょうか?」


 そんな黒岩の話を聞きながら治療をして包帯を巻いた後、嘉藤は傷口を見て驚愕した。


「これはひどい…。すぐに止血して消毒した後包帯で巻くから。痛いけど我慢してね…」


 染み入る消毒液と同時に痛む患部に対して必死に黒岩は耐えた。


 治療が終わった後、更衣室にまた1人入ってきた。


「やっぱりなみと高部さんと鶴海さんと練習できて良かった。あの3人じゃなかったら乗り越えれなかったしさ…」


 軽やかに独り言を言っていたのは山本だった。


「あら、嘉藤じゃん!そしてどうしたの?その傷…。手当てしてたのね。嘉藤凄いよ!」


 褒めちぎる山本に嘉藤は治療でそれどころではない。山本が着替え終えると黒岩は直訴した。


「山本先輩!もし、お願いできるなら私にこの演舞のどこがダメだったのか、そしてお手本を教えて下さい!もう弱いままの私と訣別したいのです。だから、どうか私を弟子にして下さい!」


 黒岩は傷口から血を噴き出しながらも土下座して山本に願い言った。山本は黒岩の頭に手を添えて優しく語る。


「私も実は、入った当初そんな感じで血は出るわ怪我はするわと大変だった。でもその痛みは信頼できる友人がいたから乗り越えて覚えることができた。この足を見たらわかるよ。これ全部応援団の練習で剥けては再生しての繰り返しをした歴戦の足だよ。虐められたことが原因で心鍛えに来るのはとても良いことだし、私たちはウェルカムだよ。私でよければ全て教えるよ。でもまずはその傷口をどうにかしよう。服も血まみれみたいだから私の替えを渡しとく。返さなくていいからそのまま私の魂が入ってると思って使って欲しい」


 黒岩は涙を流して喜んだ。


 男子応援団は、場所決めをしながら練習したので計画的に進めることができた。山本は守山、高部、鶴海と一緒に帰って今後のことを話しながらジュースを飲む。

 時刻は夜9時を回り、4人は家へそれぞれ向かった。1人になると山本は黒岩のことについて考えていた。


「黒岩は本当に私と同じ運命を辿ったのかな…。虐めで心を痛めてそれを鍛える為に私も入ったからなぁ。早く帰ってご飯食べて練習しとこ」


 山本は夕飯を取った後、お風呂の鏡を使って入りながら動きを確認した。上がった後は応援団のグループチャットで予定を守山と組み立てながら話をする。

 その翌日もずっとぶっ通しで後輩と練習を重ねては団長に怒られて重ねては団長に怒られてを繰り返した。


 春休みも後数日となり、男子と一緒に披露することとなった。特攻服と袴は本番に着るため、軽装で行う。


 最初は男子から行った。


「春休みで得たもの全て出すぞ!失敗を恐れるな!やるぞ!」


 大山の掛け声で太鼓が鳴り響いた。


 一通り終わると大山は不満な表情を見せる。しかし、女子から拍手が送られた。山本は大山に向けて、


「さすが団長!いつもふざけてばっかりだけどこういう時になると真剣そのものだねっ!」


 不満な表情を浮かべた大山だったが事実なので、流石に大山は笑った。その次は女子が続く。


 守山の掛け声で整って、開始した。


「私たちは春休み返上してまで練習してきた!男子の前で不甲斐ない姿は見せれないよ!絶対成功するぞ!」


 同じように太鼓が響いた。しかし男子の時よりも力強く響いた。ただ大山は開始早々すぐに気づく。


「え、あの子足から出血したと思われる血痕が服についてる…?何をしたらそうなったんだよ守山…!」


 黒岩の状態を見た大山は思わず言葉に出す。


 黒岩は痛みに耐えながら一通り演舞を行った。男子も拍手を送った。女子も戻ってきたと思ったら1人足を引きずりながら歩いている。


「痛い…でも、耐えなきゃ…じゃないとまた守山先輩と山本先輩に怒られる…」


 披露する1週間前に山本の元で修行をした黒岩はオーバーワークしていた。足も変な方向に曲がっている。


「やっと…着い…た」


 黒岩は痛みに耐えきれず暑さの影響で倒れた。大山はすぐに電話して救急車を呼んだ。


 山本は同乗して様子を見ながら黒岩の保護者に連絡し、病院に着いた時は黒岩は心肺停止状態で運ばれた。すぐに心肺蘇生が行われ、意識を取り戻した。担当の医師から皮肉な通告を山本に告げる。


「友達かな…?黒岩桐乃さんの容態何だけど、まず両足が折れてた。そして、暑さによる熱中症も併発して体力が限界を超えていたみたいだ。何をしてたのか話してくれるかい?」


 医師に今までの経緯を話した。経緯を話した後、医師はすぐに説明を始める。


「色々と黒岩桐乃さんには事情があったのですね。でもまずは治さないといけませんから本人と保護者には私から直接話しておきます。なので安心して帰宅して下さい」


 山本は守山に連絡を入れた。そして、守山は何も言葉を飾ることなく


「分かった」


 と返信。


「練習のあり方って変えなきゃ進化しないのかな…。もしかしたらこんなところも職員は指摘してるのかもね。でも今回のやり方でなみも反省してるみたいだから何かしらと変わりそう」


 黒岩の保護者が来たと同時に挨拶をして山本が病院を出た時は夜9時を回っていた。


 地獄の練習を思い返しながら本当にそれが正解なのか、山本は帰宅しながら考え込む。

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