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26話:理想の青春

 翌朝目覚めた山本だったが、不穏な気配を感じていた。


 いつも起きたら必ず髪をヘアゴムで結ぶのだがが途中で切れたからだ。その切れ方の断面を見る限り、見たことのない切れ方に驚く。


「これまだ使ったばっかりなのに、熱で溶けかけてたのかな?でも、朝から運が悪いな…何事もなければ良いけど」


 山本は、気にしながらもパジャマから制服へ着替える。


 列車に揺られていつもの練習をするべく軽装に着替えてグランドへ向かった。


「流石にこの時間でなみはまだだよね…準備体操して待っとこ」


 数分後守山とその仲間たちが来た。後輩らはとてもざわついている。


「おはようってなんかすごく騒がしいけどどうしたの?いつになく慌ただしいのはいつも通りだけど…」


「まゆっちおはよう!なんか事故があって救急車来てたよ。うちの生徒らしいけどなんか見覚えのあるような物を持ってたからまさかとは思わないけど…お姉ちゃん来てるから今日はその監視の元、練習するよ!」


 守山の言葉を濁らせるような発言に、山本は嫌な胸騒ぎがあった。


 練習に打ち込んだ後、ホームルームを受けるために制服へ着替えて教室へ戻る。時間通りに若き担任の鮭谷郷子が来て開始早々、思わぬ発言をした。


「みなさんおはようございます。本日、前宮涼太君が事故で救急車に乗せられ病院へ運ばれました。セダン系の高級車が女の子に突っ込むところを助けるべく犠牲になったそうです。死んではいませんが、車体のフロントに背中を強打して車輪に巻き込まれ、両足を折ってしまうほどの衝撃だったと聞いています。夜日高度医療センターへ搬送されたそうですが、退院まで時間がかかるかなと思います。本日は…」


 クラスは騒然としてる中、山本は今日の不吉な予感が的中した事に、申し訳なさを感じていた。ホームルームが終わった後、大山が来て覚悟を決めたのか山本に提案する。


「今から授業サボって前宮のとこ行こうぜ。山本も心配やろ?大丈夫!保健委員に早退連絡を受けたと担当教科の先生に伝えておけば問題ない。行こう」


 大山の勢いに圧倒され、荷物を持って彼の乗る自転車の後ろに乗って腰を掴む。


 声を出してはいなかったが、山本は泣いていた。病院へ着いた時はちょうど手術室で処置の真っ只中だ。


「着いたけどまだ手術処置中だったようだね。ここで待とう」


「そうだね。大山君は何故こんなことしようとしたの?大切な友人だからとか?」


「表上は授業めんどくさいなっていうものだけど本音は心配…かな」


 2人が話している50分後、手術室へつながる扉が開かれ腕や足が傷だらけの前宮の姿が確認出来た。


「驚かせてごめんなさい。私たちは前宮の友人です!処置は成功したのでしょうか?」

「はい!成功していますよ。しかし彼はギランバレー症候群のようでしたのでそれも兼ねて3ヶ月入院してもらいます。ただし車椅子へ乗れるようになった時は一時退院も検討していますのでご心配なく」


 特別室へと運ばれる前宮を見て山本はただ唖然としている。完全に心が折れていた。


「守山紗耶香先輩のこと助けてくれたのは本当にありがとう…。でも前宮も無事じゃないとダメだって約束したじゃん!何で約束を破っちゃうの?栗原さんの問題どうするの。もう体育祭来れないの?私たちが演舞練習してきたその本番を見れないの?信じられない…」


 山本はあの時自分が代わりになれたらと考えていたが、大山はそれを許さなかった。


「アホか山本。お前が入院したら誰がその代わりをするんだよ!今お前が出来るのは前宮の看病だろ。守山たちに心配かけたらダメだ。あいつらも青春を作るために練習してるはずだから」


 大山は山本に怒る。特別室へ向かうことにして恐る恐る引き戸を開けた。


 両足の処置がされてる事がわかるギブスと頭の出血を抑えるためのネット帽のような物や、術後でもあったので特殊な機械が前宮の胸元と気道を確保するために呼吸器まで付けられていた。


「先輩を守るのが後輩ってよく教えられたけど前宮は関係ないやろ…。無茶しやがる男だが、漢気があるな。それは認めるが、体育祭は競技の参加できないね…。山本さん、前宮の目が覚めるまで待とうぜ」


 2人は携帯を触るなり、食事取るなりとしながら前宮が目を覚ますまで待った。見覚えのある先生、片山先生まで来たが無言で掛け布団を渡す。それは、山本たちだからこそのことでもあったからだ。


「今日はここで寝て様子見よう。それじゃおやすみ…」


 大山は眠ったが、山本は心配で眠れずガーゼと包帯で覆われていた前宮の右手を握る。


「また、守れなかった…。本当にごめんね。そのまま私たちが問題解決すればこんな事にならなかっただろうに…今日だけ私1人で泣かせてね…。本当に…本当に…」


 山本が涙を流していると機械の異変に気づく。心電図の心拍が弱まっていた。山本はナースコールを押し、処置が開始された。


「どうした山本、そしてこの状況…何が起きたんだ…?」


「心電図が異常を察知してまえみ、いや、涼太君の心音が途絶えかけてた事に気づいてナースコールを押したの。必ず還って来て!私1人ここに残さないで!1人にしないって約束しただろ?前宮涼太!戻ってこい…」


 山本は心から祈った。


 心音はすぐに戻り、心肺蘇生に成功した。弱々しい前宮の手と痩せ細った体を見て申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

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